女子プロバスケットボール選手・町田瑠唯が高校卒業後11シーズンを過ごしたWリーグ(WJBL 富士通レッドウェーブ)を離れ、米女子リーグWNBA参戦のために渡米してから約3か月が経過した。2月のワシントン・ミスティックス入団発表から5か月、実際にチームに合流した4月下旬から日本女子バスケ史上4人目のWNBA選手として2022シーズンに挑戦している29歳は、異国の地でどのような思いを胸に戦っているのだろうか。
7月21日(日本時間22日)のニューヨーク・リバティー戦後、自身のプレイ、日本でのプレイとの違い、言葉の壁、英語の勉強、ストレス解消法、WNBAでの目標など多岐にわたる話題について、杉浦大介記者が聞いた。
ちょっと慎重になりすぎている部分も
――今日のゲーム(リバティー戦)では第1クォーター、リードされた場面で登場し、流れを変えるのに一役買う貢献ができたのではないでしょうか?
(チーム全体が)ちょっと重いなとは思ったので、ペースアップ、速く攻めることは意識していました。ただ、自分というよりは一緒に出たベンチメンバー、トーリ(シャトーリ・ウォーカー・キンブロー)だったりが起点になってアタックしてくれていたので、それがいいリズムにつながったのかなと思います。
――最初のアシストはミスティックスの公式ツイッターでも取り上げられるハイライトになりました。町田選手の持ち味が出たプレイでしたが、自身ではいかがでしょう?
まあ、よかったなと(笑)。ちょっとファンブルして、『あ、やばい』と思ったときに、エリザベス(ウィリアムズ)が空いていたので、(パスが)ギリギリ間に合ったみたいな感じでした。
――今日もターンオーバーはゼロ。以前、「ターンオーバーを減らすのが課題」と話していましたが、7月に入って6戦で合計1本のみですね。
個人的にはちょっと慎重になりすぎている部分もあります。ターンオーバーで流れが切れないようにっていう気持ちもあって、チャレンジパス、50/50のパスは今は出さないようにしているっていう感じですかね。
――思い切りよくいくところと大事にいくところ。そのバランスが大事でしょうか?
バランスと、あと時間帯、点差、自分が出ているタイミングも関係してきます。点差があったり、いい流れのときは自分の感覚で出せるパスは出していってもいいと思うんですけど、大事な時間帯だったり、競っている状態だと、ターンオーバーにつながったときにリスクがありますよね。そういうときは1本1本を大事に。出るタイミングによって変えているという感じです。
――PG(ポイントガード)としてチームの選手たちの特徴を把握できてきていることもミスの減少につながっているのかなと思ったのですが、その点はいかがでしょう?
シンプルに自分がボールを触る回数が少ないというのもあると思います。今は一緒に出ているトーリとかが調子がいいので、その選手に長くボールを持たせられるように、ボールを預けているところもあるので。
本来なら練習で合わせていくと思うんですけど、練習で突き詰めて合わせるというより、試合で合わせていくという感じになっています。一緒に出る選手がだいたい同じだとタイミングはわかってきたのかなと思うんですけど、あまり合わせていない選手だと、ちょっと迷ったりする部分もあります。
――日本でプレイしていた頃より、積極的にシュートを打っているイメージもあります。自身の持ち味はあくまでパスワークだと思いますが、チームからも求められているのであろうシュートに関して今はどう考えていますか?
チャンスがあれば打つという感覚です。積極的に打っていくのも大事だと思うんですけど、チームのリズムを作ることも大事。もちろん空いていたら打つ、(ディフェンスが)来たら抜くっていうふうにシンプルに考えるように。シュート第一というより、オフェンスの流れやリズムを考えてプレイするようにしています。
――サイズの小ささゆえに注目されますが、ディフェンス面では運動量でカバーできているという印象もあります。
このチームはディフェンスのチーム。プレッシャーをかけて、相手に嫌がられるディフェンスができるのも自分の良さ、武器だとチームが考えてくれているように思います。それが求められていることなので、出たときにはディフェンスでやられないように、プレッシャーをかけて嫌がられるようにしようっていう意識はあります。
チャンスがあるならまた(来季も)チャレンジしたい
――しばらくWNBAでプレイし、日本のWリーグとの違いもかなり見えてきているのではないかと思います。違う部分はたくさんありますが、どこが真っ先に頭に浮かびますか?
やっぱり高さと手の長さ。あとはスキルももちろんそうですし、パワー、フィジカルも日本とは違うなっていうのはありますね。
――全然違う場所に飛び込んで、今、アメリカに来てよかったと感じていますか?
はい、感じてます。こんな経験は滅多にできないし、自分が今までやってきたバスケットとまた違うバスケットがやれています。いろんな悩み、迷いも出てくると思うんですけど、新しい悩みが出てくるということは、自分が成長できるチャンスですよね。
コート内外でのコミュニケーションだったり、何を話しているかもそうですけど、そういうのも勉強になるので、自分の視野が広がったじゃないですけど、またチャレンジしたくなっています。今年1年だけでなく、WNBAから呼んでいただけるなら、チャンスがあるならまた(来季も)チャレンジしたいなと思っています。
――そのコミュニケーションの部分ですが、シーズン中はかなりのハードスケジュールの中で英語を勉強する時間はありますか?
ないです。していないです(笑)。作ればあるとは思うんですけど、言葉を覚えるのももちろん大事ですが、そっちがメインになったらダメだなって。バスケットが大事なので、バスケットでのコミュニケーションが取れればとりあえずはいいかなと思っています。そこもまだまだですけど、練習、試合をやりながらやっていきたいとは思っています。
――言葉の壁がプレイ面に影響することはあるものでしょうか?
パッと言われたことに対しての反応だったりは、まだ遅いなと感じています。特にディフェンスではコミュニケーションが大事。そこですぐに英語が出てこなかったりはまだあるので、慣れていかなければいけない部分かなと思います。
周りからはずっとポーカーフェイスって言われています(笑)
――「悩み、迷いも出てくる」ということですが、先日のジャパニーズ・ヘリテージ・デーの後、会見でウォーカー・キンブロー選手が「ルイはつらそうな顔を見せたことがない」と話していました。努めてそうしている部分もあるんでしょうか?
もともと私は日本にいるときから、きつくてもきつい顔をしたり、顔に出したりっていうのはしていなかったと思います。それは昔からですね。言っちゃえば、感情表現が苦手(笑)。基本的に周りからはずっとポーカーフェイスって言われています(笑)。アメリカではみんな感情をすごく出してやっていますよね。それもこっちの選手のいいところではありますが、それがいいときも悪いときもあるとは思います。
――何かを我慢しているとかではなくて、それが自然な形なんですね。
みんなとコミュニケーションを取り、喋れるだけで楽しいですし、コミュニケーションをとってくれようとしてくれると嬉しくて自然に笑顔になります。それがチームメイトにとってもプラスになっているならよかったなと思います。
――アメリカでのストレス解消の方法というと何かありますか?
リフレッシュっていうリフレッシュはできていないというか、(その方法が)見つけられていないというのはあります。バスケの練習、トレーニングを1人でやったりとかっていうのがモヤモヤしたときに一番すっきりさせてくれているのかな(笑)
――ホームシックとかはまったくなさそうですね(笑)
はい、大丈夫です。
(ここで町田と仲の良いマイーシャ・ハインズ・アレンが入ってきて、「あなたのベスティー(=ベストフレンド)は誰?」と質問)
マイーシャ!(笑)
このチームで優勝したい
――もともとWNBA入りに際してどんな目標を抱き、何を成し遂げようと思って渡米を決めたんでしょうか?
うまくいくことも、いかないことも、アメリカでは絶対にいろんなことがありますよね。今まで以上に壁もあるだろうし、どんな経験もここでしかできないもの。それが自分の成長にもつながると思うし、その経験をすることがここに来た理由になるのかなと思います。
――WNBAで優勝したいとか、お金を稼ぎたいとかそういったことではなく、きっともっと自分を向上させたいといった考えが大きかったのでしょうね。
お金を稼ぎたいとかは全然考えてないです(笑)。でもミスティックスに呼んでいただけて、本当にすごく良いチームなので、このチームで優勝したいという気持ちはあります。そのために自分がチームにどれだけ貢献できるか。これからも貢献できるようにやっていきたいなと思っています。
町田瑠唯 プロフィール
町田瑠唯(まちだ るい)は、現在米国女子プロバスケットボールリーグWNBAのワシントン・ミスティックスに所属している日本の女子バスケットボール選手。萩原美樹子(1997~98年:サクラメント・モナークス、フェニックス・マーキュリー)、大神雄子(2008年:フェニックス・マーキュリー)、渡嘉敷来夢(2015~17年:シアトル・ストーム)に続く史上4人目の日本人WNBA選手。1993年3月8日生まれ(29歳)、身長162cm、ポジションはポイントガード(PG)。札幌山の手高校(北海道)卒業後の2011年にWリーグ(WJBL)の富士通レッドウェーブに入団し、2011-12シーズンに新人王を受賞。Wリーグではこれまでレギュラーシーズンのベスト5に5度(2015、2018~2020、2022年)選出、アシスト王を6度(2015、2018~2022年)獲得。日本代表としても、オリンピック(2016年ベスト8、2021年銀メダル)、FIBA女子ワールドカップ(2018年9位)、FIBA女子アジアカップ(2015、2017、2019年すべて優勝)などに出場している。東京五輪準決勝のフランス戦では五輪記録となる18アシストをマークし、大会ベスト5(オールスター5)にも選ばれた。Wリーグの2021-22シーズン終了後、ミスティックスに合流し、現在WNBAの2022シーズンに参戦中。
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