1年前、メンタルヘルス問題に一石を投じた大坂なおみがローラン・ギャロスに帰ってくる|2022年全仏オープン展望

2022-05-20
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過去4年間、女子シングルス元世界ランキング1位の大坂なおみはコートのなかでも外でもテニス界の大きな話題であり続けた。

グランドスラム大会での優勝から、メンタルヘルスの改革者になるまで、この日本が誇るスター選手はつねにヘッドラインに取り上げられてきた。

スポーティングニュースでは、まもなく始まる全仏オープンに出場を予定する、この24歳について探ってみた。

大坂なおみは2022年の全仏オープンに出場するのか

最初に記しておくと、大坂なおみは現時点(5月20日)で自身6度目となるローラン・ギャロスに出場する予定だ。23日に世界ランク28位のアマンダ・アニシモバ(米国)との1回戦が決まっているが、大坂自身は2017年以来初めて、ノーシードでの全仏出場となる。

4月の左足首負傷や苦手なクレイコートという懸念材料があるものの、ブックメーカートラッキングサイトにおける大坂の優勝を予想するオッズは6位タイだ。優勝候補筆頭に挙げられているのは、現在世界ランク1位のイガ・シフィオンテク(ポーランド)である。

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大坂なおみはなぜ2021年全仏オープンを途中棄権したか

2021年の全仏オープンでは、大坂は第2シードで臨んだ。大会前、大坂は選手に義務づけられている試合後記者会見に参加しないと発表した。

1回戦に勝利した後、大坂は宣言通り試合後の会見に現れなかった。全仏オープン大会主催者は大坂1万5000ドル(約165万円)の罰金を科し、メディア対応を拒否し続ける場合はさらなる罰則が科されるとも警告した。

大坂は翌日、大会から棄権すると発表した。その理由に「メンタルヘルスの問題」に言及し、自身がうつ病に苦しんできたことを告白した。この告白は、選手、評論家、そしてスポンサーらから様々な反応が巻き起こった。

その後も精神的な不調が続いた大坂は、8月の全米オープン3回戦敗退後、半年ほどの休養期間に入っていた。

大坂なおみの最近の戦績はどのようなものか

大坂の現在の女子シングルス世界ランキングは38位である。そのため、全仏オープンではシード権が与えられない。しかし、今年の2月には、大坂の世界ランクは85位にまで下がっていたのだ。

2022年に入ってから、大坂は浮き沈みを続けている。全豪オープンではベスト32ラウンドでアマンダ・アニシモバに敗れ、続くBNPパリバ・オープンではベスト64ラウンドで惨敗した。

大坂はマイアミ・オープンでは決勝戦にまで進出し、イガ・シフィオンテクにタイトルを譲ったものの、ランキングを上昇させた。

クレイコートでは、マドリード・オープンのベスト32ラウンドでサラ・ソリベス・トルモ(スペイン)に敗れ、続くBNLイタリア国際では左足首の故障のため棄権した。

大坂なおみの輝かしいキャリアとは

大坂は元世界ランキング1位である。24歳にして、グランドスラム大会を4回優勝している。

2018-19年と2020-21年の間で、全米オープンで2回優勝し、さらに全豪オープンでも2回優勝している。

興味深いことに、大坂は他の17回にも及ぶグランドスラム大会出場で、4回戦より上に進出したことがない。

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WTA大会での優勝は7回あるが、そのうちの4つはグランドスラム大会のものである。他はWTA500グレードの東レ・パンパシフィック・オープン(2019年)、チャイナ・オープン(2019年)、そしてWTA1000グレードのBNPパリバ・オープン(2018年)である。

これまでに獲得した賞金は合計で2000万ドル(約25億4956万円)を越える。コート外での収入も含めると5520万ドル(約60億円)に達したという報道もある。

大坂なおみのテニスコート外での業績とは

大坂はキャリアを通してメディアのヘッドラインに登場し、テニス界を代表してメンタルヘルスへの理解を訴え続けてきた。

前述通り、大坂個人は、2021年全仏オープンでは試合後の記者会見を欠席したことで大会主催者から罰金を科せられ、その後に大会を途中棄権。大坂が棄権した理由として明かしたうつ病の告白には、競泳のマイケル・フェルプスやNBAのステフィン・カリーらが支持する声をあげた。

7月には東京五輪開催中に体操のシモーネ・バイルズがメンタルヘルスの不調による欠場を選んだことで話題となったが、大坂に続いての出来事で、スポーツ選手のメンタルヘルスに対しての理解が進んだ1年だった。大坂は、バイルズに個人的にメッセージを送っていたという。

大坂自身は、東京五輪を経て、全米オープン3回戦敗退後、テニスからしばし離れ、精神面のリフレッシュをはかった。この間、メディアの取材に対し、「自分に正直にありたい」と話していた。

半年後復帰し、2022年全豪オープンでアニシモバに敗れたが、試合後、大坂は「もっと試合を楽しもうと思っていた」と語り、メンタルヘルスが改善されていることを喜んでもいた。

大坂は人種問題の活動家としても知られている。2020年のウエスタン・アンド・サザン・オープンでは、警官によるジェイコブ・ブレークさんへの銃撃事件に抗議して大会を棄権すると発表した。大坂の主張を受け、WTA(女子テニス協会)はその日に予定されていた全試合を中止した。

2020年の全米オープンでは、大坂は出場したすべての試合会場に、過去に殺害された黒人犠牲者の名前を記したマスクを着用して入場した。ブリオナ・テイラーさん、エリヤ・マッククレインさん、アーモー・アーベリーさん、トレイボン・マーティンさん、ジョージ・フロイドさん、フィランド・カスティールさん、そしてタミール・ライスさんである。

こうした言動はときに反発を受けたが、自分らしさを大切にする大坂の姿勢は一貫していた。

大坂は次なるステップとして、大手スポーツマネジメント会社『IMG』との契約満了を機に、長年代理人を務めてきたスチュアート・デュギッド氏と共同で新たなマネジメント会社『Evolve』を設立する。その意図を「アスリート、女性実業家としての自然な成り行きであり、自分らしさを貫き通すため」と話した。

新事務所は、大坂自身のキャリア醸成だけでなく、同じような立場の選手に対し、アスリートとして様々な活動を行う受け皿としたいという。

大坂なおみの全仏オープン初戦の相手

大坂にとって全仏オープンは、ウィンブルドン選手権に次ぐ相性の悪いグランドスラム大会だ。とくに苦手なクレイ(赤土)コートのサーフェスとあって、2016年の初出場以降、過去5回で最高成績は3回戦止まりとなっている。

今年の全仏オープンの初戦の相手となるアマンダ・アニシモバ(アニシモア)は20歳の新鋭で、17歳当時の2019年全仏オープンでシモナ・ハレプ(ルーマニア)を破ってベスト4入りしたことで、脅威の10代として騒がれた。

ロシア出身の両親が米国に移住後、ニュージャージー州で誕生。大坂と同じ180cmの体格もありながら、機動力の高さも持ち味だ。世界ランクは現在28位で最高21位となっているが、2022年の全豪オープン前哨戦のメルボルン・サマーセット2(WTA250)で、キャリア初勝利をあげた。本番の全豪オープンでは3回戦で大坂を破ったが、優勝したアシュリー・バーティ(オーストラリア)に4回戦で敗れている。

大坂はマドリード・オープンで左アキレス腱の負傷で2回戦敗退、翌週のBNLイタリア国際を欠場した。2週間の休養を経て、5月17日から全仏会場で練習を開始している。負傷による欠場で苦手なクレイコートへの対応は十分とはいえないが、改善したメンタルヘルスと「今季はクレイでも勝ちたい」という強い気持ちで初戦に挑む。

翻訳:角谷剛

※本記事は、原文を翻訳後、日本編集部で再構成した記事となります。

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