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プレミアリーグが過剰な支出を抑制しようと奮闘するなかで、個々のクラブとリーグ自体の成長を妨げることなくそれを達成する方法として様々な手段が浮上している。
現状プレミアリーグは、『収益性と持続可能性に関する規則』(PSR)を厳格化している。この規則はかなり前からあったものの、ここ1年で取り締まりが増加し、エバートンやノッティンガム・フォレストが制裁を受けたことで、より大きなクラブもPSRの基準に対して自分たちの状況を把握するようになった。
前述の2クラブへの制裁、そしてチェルシーを潜在的な制裁のパニックに陥れた財政状況の悪化をきっかけに、プレミアリーグの現行のルールには懸念が高まっている。PSRは小規模クラブの躍進の可能性を狭め、また競争の激しい欧州サッカー界でリーグ全体の支出額も制限するという側面があり、メリットよりもデメリットのほうが大きいという指摘があるのだ。
イギリス紙『デイリー・メール』のマイク・キーガン氏が4月初旬に報じたところによると、PSRを見直した最新の提案には規定違反に対する勝ち点剥奪の代わりとしてぜいたく税(Luxury Tax)が含まれるという。ぜいたく税は、北米プロ野球のメジャーリーグ(MLB)や北米プロバスケットボールリーグ(NBA)などを代表にアメリカンスポーツに根差した制度である。
プレミアリーグでぜいたく税はどう機能する?
デイリー・メールの報道によれば、プレミアリーグに提案されたぜいたく税制度はMLBによく似た仕組みになっている。
MLBは、正式には戦力均衡税(Competitive Balance Tax)として知られるぜいたく税を、1997年に制定した。しかし、施行直後の停止を経て、現在の形で実際に機能し始めたのは2003年からである。罰則には、限度額を超えた年数が連続するほど税率が高くなる段階的システムが含まれている。
全体的に、この制度は望ましい効果を上げている。2003年から2021年の間で、リーグは約6億ドル(約900億円。1ドル=150円換算)を徴収し、再分配した。ちなみに、この半分以上はニューヨーク・ヤンキースから生じたものである。
さらに、ヤンキースをはじめドジャースやレッドソックスなどの潤沢な資金を持つクラブは、多額の罰金を抑えるために、ある時点でぜいたく税率を『リセット』する措置をとっている。つまり、少なくとも1年間は限度額以下で過ごすことで、近い将来に限度額以上を使いやすくなるよう工夫しているのだ。
アメリカのいくつかのリーグはクラブが限度額を超えないようにする厳格な、いわゆる『ハード・サラリーキャップ』を設けている一方で、ぜいたく税はより柔軟な『ソフトキャップ』の役割を果たすためMLBとNBAで導入された。過剰な支出はより重い代償を伴うが、不可能ではないのだ。
プレミアリーグでは、アメリカのリーグで指標とされている給料ではなく、クラブ全体の利益や損失に対して適用される。クラブがあらかじめ決められた損益の割合に違反した場合、勝ち点剥奪の代わりとして超過分の何パーセントかを支払い、それからリーグ内の他のクラブに再分配される。
さらに、デイリー・メールの報道によれば、この資金は財政危機に瀕したクラブを援助するための緊急基金に充てられる可能性もあるという。
しかしながら同紙は、中間地点が作られる可能性も示唆している。キーガン氏は、「ぜいたく税によって勝ち点剥奪の脅威が完全に取り除かれることを望んでいるクラブがある一方で、どのような提案であれスポーツ的制裁の要素は依然として含まれており、これはさらなる柔軟性と緩衝地帯を提供することを目的としていると批判するプレミアリーグの関係者もいる」と述べた。
本質的には、勝ち点剥奪処分の引き金となる現行の制度を緩和し、その間にぜいたく税を設けるという提案のようだ。したがって、スポーツ的制裁が下されるのは支出超過の場合のみで、それ以下の場合は財政的な制裁を受けそれが再分配されることになる。
なぜプレミアリーグはPSRを廃止したいのか?
まず初めに、プレミアリーグはPSRを廃止するわけではないということを明確にしなければならない。しかしその代わり、支出の上限を設定しながらも、上限を破った場合の処分は勝ち点剥奪ではなく罰金という形で再機能させるのだ。
デイリー・メールや他の評論家が指摘するように、プレミアリーグ周辺では、「PSRのせいでクラブが世界最高峰の選手を世界最高峰の給料で雇えなくなり、プレミアリーグを最もレベルが高く最も儲かるリーグという立場から下落させるだろう」という心配がある。
さらに、PSRはこれまでエバートンやノッティンガム・フォレストといったリーグ下位のクラブをターゲットにしており、実質的には財務管理に失敗したクラブを二重に罰していることになる。その代わりに、トップに君臨するクラブが経済的に大きな優位性を保ち続けている状況を阻止することが望まれているのだ。
この規則によって小規模クラブが費用を使いすぎて破産するのを妨げるという期待もあるものの、勝ち点の剥奪は致命的な負のスパイラルに陥る可能性を高めるだけで、それを防ぐ役には立たない。
プレミアリーグのぜいたく税に関する批評
ぜいたく税に関する最大の懸念は、下位のクラブと桁外れに裕福な上位クラブの支出許容額の差である。現行のPSRの厳格な損失上限が廃止されれば、これらのクラブはイングランド内、あるいはヨーロッパ全体での支配力を維持するためにいくらでも罰金を支払うことを厭わないだろう。
最も具体的には、マンチェスター・シティのような国家を後ろ盾とするようなクラブ(※)は、莫大な富だけでなく潜在的に無限の富を持っているように見える。そのためぜいたく税のようなソフトキャップでは、たとえその支払いがリーグの他のクラブに再分配されたとしても、彼らを抑えるには十分ではない。
※マンチェスター・シティのオーナーであるシェイク・マンスールは、アラブ首長国連邦(UAE)の王族。
問題なのは、そうしたクラブを効果的に抑え込むことは、無限の富を持たない他のクラブの成長の可能性をも潰し、未知でリスクの高い移籍金の世界において想定外な事態が起きる余地を著しく減らしてしまうことだ。
無限の富を持つクラブによる無限の支出を防ぐと同時に小規模クラブの躍進を促すには、そもそも国家がクラブを所有することを認めないという手段があったはずだ。だが今彼らがここにいる以上、プレミアリーグはその両方を実現することはできず、どちらか一方を選ばなければならない。PSRにより厳格な損失上限を定めるのでなく、ぜいたく税によって過剰支出を制限しつつクラブの成長にかける選択肢もあるようだ。
原文:How would a luxury tax in Premier League work? EPL reportedly considering PSR replacement similar to MLB or NBA
翻訳:山下晴輝(スポーティングニュース日本版)