里崎智也が語る佐々木朗希と高校野球の球数制限

2023-08-21
読了時間 約2分
(Takuma Hayasaka)

千葉ロッテマリーンズや日本代表で活躍し、引退後の現在もプロ野球、MLBの解説やYouTuberとして活動の場を広げている里崎智也氏に『スポーティングニュース』が独占インタビューを敢行した。今回は将来的なメジャーリーグ挑戦も噂される佐々木朗希投手(ロッテ)のこと、さらには高校野球における球数制限の問題点などについて語ってもらった。

佐々木朗希は1試合だけならMLBで通用するが、まだ早い

現在、日本球界でトップクラスの実力を誇る佐々木朗希(ロッテ)には将来的なメジャーリーグ(MLB)挑戦の話もあるが、球団の先輩でもある里崎氏はどのように感じているのだろうか。

「1試合だけだったら通用するんじゃないですか」

1試合だけなら──。その言葉には先がある。

「ロッテでも1週間のローテーションを守れないのに。メジャーに行って(ローテーションを)守れないんだったら投げられない。1年間働けない選手がメジャーには行けないんじゃないですか? 日本(NPB)の物差しだったら、飛び飛びで投げたところでトップにいられるから、日本というカテゴリーの中では評価されますよ。でも、アメリカっていうカテゴリーの中では評価の対象ではない。アメリカに行くためには、まず最低限(NPBで)ローテーションを守らないと。そこがまだできていないですから。日本では称賛に値することはできていますよ。どこのカテゴリーの話をしましょうか、ということです」

まずはNPBで一般的な中6日などのローテーションを1年間守り切ることが大事と里崎氏は説く。とはいえ、無理矢理ローテーションで投げさせればいいというわけではもちろんない。

「『メジャーに行きたいならやらないと』といって怪我をしてしまったら元も子もありません。成長のゴールまで来ていない今は、まだ怪我をさせないように、という段階。そこのリミッターが外れないと。だからまだアメリカの話をするのは早い。でも、1試合でいいんだったらふつうに通用すると思いますよ」

今の時代、石ころがダイヤモンドになることはない

佐々木は入団当初から特別プログラムで育成されてきた。近年のプロ野球界でこのようなプログラムが生まれてきたのは、プロに入ってくる選手たちがアマチュア時代に体力を付けてきていないからだという。

「そもそも(佐々木に限らず)アマチュアのときに球数制限があり、体力がないまま(プロに)来ている。それがプロの世界に入ったらバリバリのやつらと同じルールで投げないといけない。今の時代は、高卒1年目の選手がローテーションに入って松坂(大輔/元西武ほか)みたいに投げられる時代じゃない。(体力的な)練習をしてきてないんですから」

続けて、里崎氏は才能の磨き方について「賛否両論ありますけど…」と前置きをした上でこう語る。

Scroll to Continue with Content

「昔は『ダイヤの原石』が練習をやらされすぎて壊されていた可能性がある。でも、無理矢理やらされたことによって石ころがダイヤモンドになっていた可能性もあるんですよ。今の時代、無理にやらせることはないですから、石ころがダイヤモンドになることはありません。ダイヤの原石も、自分を律して磨かなければ、原石のままで終わっちゃいます」

「昔は『体力おばけ』がプロに入ってきていました。(アマチュアで過酷な練習を)生き残ってくる体力があるから、どんどん練習させても簡単には潰れないんですよね。でも、今は技術はあるけど体力がない選手が(プロに)入ってきている。体力がないから(昔と)同じことをやらせると怪我をする。だから体力がつくまでやらせられないんです」

怪我をしない投げ方を教えるほうが先

話はプロに入る前の段階に及ぶ。高校野球では現在、投手に対して1週間で500球以内の球数制限がある。これに対しても里崎氏は懐疑的な見解を示している。「練習しないこと(投げないこと)」ではなく、怪我をしないようなフォームを教えて「練習すること(投げること)」が先に来るべきとという主張だ。

「球数制限は必要ありません。球数制限で選手を守るよりも、怪我をしない投げ方を教えるほうが先なのでは? 動作解析とかしてるのに、なんで練習しない(投げない)ことばかり取り上げて、怪我をしない体作りとか、怪我をしないフォームとかを教えないのか」

さらに里崎氏は、高校球児全員がプロ野球を目指すことを前提としているかのような、現在の高校野球の風潮にも異を唱える。

「球数制限にひっかるような選手は少しだけしかいません。(大半は)それまでに負けます。甲子園の最後の最後まで行くような選手が球数制限に引っかかるんです。それまでの選手は引っかかりません。しかも高校で野球を辞めるという選手は、高校で完全燃焼したほうがいいのでは? 全員がプロを目指しているわけでもないし、行けるわけでもありません。どんなに凄くても高校で野球を辞めて実家を継ぐ人もいるだろうし。人それぞれなのに、全員がプロを目指す大前提で話が進んでいる」

プロを目指す選手だけでなく、高校野球が集大成という選手もいるという現実を踏まえて、里崎氏は球数制限よりもやるべきことがあると語る。

「ラグビーの福岡さん(元日本代表の福岡堅樹氏。引退後に医者になると宣言して実際に28歳の若さで現役を退き、順天堂大学医学部へ入学)のように、高校までは(競技を)やるけれども、大学からは医者になりたいから勉強に集中する(という道があってもいい)。高校で燃え尽きるんやっていう人の夢を壊してもいいのか? それだったら、球数制限をするよりも、怪我しないフォームや練習法を教えたほうが、全員ハッピーなんじゃないかって思います」


里崎智也(さとざき ともや)プロフィール

鳴門工業高校、帝京大学を経て1998年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団し、2014年までNPBで16シーズンを過ごした元捕手。現在は野球解説者、評論家、YouTuberとして活躍。2005年と2010年に日本一を経験したほか、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では日本代表(現侍ジャパン)の正捕手として世界一に貢献。2008年には北京オリンピックにも出場した。NPBでの主な通算成績は、1089試合出場、打率.256、890安打、108本塁打、ベストナインとゴールデングラブ賞各2回(いずれも2006、2007年)。徳島県鳴門市出身、1976年5月20日生まれ。

取材・編集:勝田聡、丹治宣登(スポーティングニュース日本版)、及川卓磨(スポーティングニュース日本版)
撮影:早坂卓真
協力:林龍也
統括:舛田勇介(スポーティングニュース日本版)


関連記事