馬場雄大は、今夏のNBAサマーリーグに並々ならぬ思いで参加した。GリーグやオーストラリアのNBLで結果を残してきたことを考えると、サマーリーグでアピールせずにNBAのトレーニングキャンプ参加のオファーを待つという選択肢もあったはずだ。しかし、それでも馬場はサマーリーグに出たかったのだという。ゴールデンステイト・ウォリアーズのサマーリーグチーム合宿が始まった頃、馬場はその意気込みをこう語っていた。
「NBAのロスターに残るには、彼ら(NBAロスター枠争いをしているような選手)に対してプレイできることを証明しなければいけないと思っていました。去年の夏はオリンピックがあったりでスタートが遅れてしまった分、今年にかける思いは強かったので、サマーリーグが一番のプライオリティ(優先事項)だと考えていました」
オーストラリアでのシーズンが終わってから、すぐにサマーリーグ出場に向けて準備を開始し、1ヵ月前からアメリカでのトレーニングで備えた。その成果もあり、チームに合流した後の練習では、シュートを含めて調子がよく、手応えを感じていた。
しかし、実際にサマーリーグが始まってみると、思うようにいかないことばかりだった。ベンチ入り人数が多く、元々限られた出場時間だったのに加え、腰を痛めたことによる欠場試合。最終戦になってようやく20分近い出場時間を得たのだが、シュートがことごとく入らず、フィールドゴールを8本打ち、すべて外してしまった。成長したという証を示し切れないまま、サマーリーグが終わってしまった。
そんな苦しいサマーリーグ中に馬場はどんなことを考え、今、どんな気持ちでいるのか。サマーリーグ最終戦後に話を聞いた。
サマーリーグがゴールじゃない
――サマーリーグはどちらかというと不完全燃焼っていう感じですか?
そうですね。たとえ、きょう(7月17日サマーリーグ最終戦)、いい内容のゲームができたとしても不完全燃焼だったとは思います。どういうプレイをしたかっていうのは(映像を)見直し、落ち着いて考えてみます。
――今回、どの試合でも持ち味のダンクも、向上している3ポイントも決めることができませんでした。どちらか決めたかったですね。
そうですね。こんなに大変なサマーリーグあるかっていうぐらい、大変でした。甘くないですね。
――サマーリーグ前の練習ではシュートがよく決まっていたところから始まったのが、最終戦ではまったくシュートが入らないという皮肉な結果になってしまいましたが…。
本当にそうですね。(サマーリーグ中)なかなか打つ機会もなく、数少ないチャンスをものにできたかといったらそうでもなかった。正直、自分がトップのチーム(NBAチーム)に来て長時間プレイできるかといったらそうじゃないので、いかに数少ない(なかで)シュートを決め切るか。
3年ぶりにサマーリーグに戻ってきて、サマーリーグはGリーグよりNBAに近いレベルじゃないですか。だからプレイさせてもらえないという状況と、プレイしたときになかなかうまいこといかないという結果で、改めて自分の位置を理解することができたので。サマーリーグがゴールじゃないので、まだ一歩ずつ進んでいくしかないかなとは思います。
3年前と全然違う体験
――出場時間が少なく、難しいなかで、気持ちは最後まで切らさずにできましたか?
そうですね。バスケ人生でここまで出られないのは初めての経験でした。
正直、コロナとかあって、気づいたら26(歳)になっていました。前回のサマーリーグが23のときだったんで、今、(自分では)24歳ぐらいの感じなんですけれど。
コロナで2回の夏をつぶされた(サマーリーグに参加できなかった)中で、どんどん若い選手が入ってきて。その大変さもちょっと感じたサマーリーグでした。若い選手を使っていくっていうNBAの方針があるので、そこで外部から来た選手で、しかも若くない選手を使うっていうのは、そうとう信頼されていないとできないことだと思う。すべて勉強ですね。3年前と同じサマーリーグですけれど、全然違う体験をしました。
――前回よりはできると思ってきただけにきつかった?
そうなんですよ。それにプラスして、やらせてもらえない(試合に出られない)状況をコントロールするところからのスタートだったんで。バスケ以前の問題というか。
でも、ここに来ないと、正直、自由にプレイさせてもらって、プレイタイムもずっと与えられている状況だと思うので、ここに来ている意味はそこにあると思う。ここから学ばないといけないなとは思います。
ひとつのきっかけのような感じもします。それこそ、最初からきょうみたいな感じで2Qとか大事なところでポンと出されていて…というところの責任だったりを感じながらプレイすると、またちょっとひとつ違ったとは思うんですけれど。
――それでも、何か手応えを感じたことはあるのではないかと思いますが、いかがですか?
そうですね。ディフェンスでわかったのは、僕の身長的にはNBAでは大きいほうではないので、ウィングマンを下がって守るというよりは、トップの一線からプレッシャーをかけていくっていうスタンスがNBAでプレイするときの自分のひとつの形なのかなとは思いました。今までは、ウィングで様子を見ながらやって、流れをつかんでいくっていうやり方だったんですけれど、そういったディフェンスから勢いを与えるようにするっていうのは、今までとは考え方が変わった感じがします。
プレイタイムをもらえなかったっていうところもあるんですけれど、一線から気持ちをぶつけにいくというところはやっぱり必要ですね。(サマーリーグ中の)ミーティングでも、コーチたちはよく「エネルギーのテイカー(受け取る側)ではなく、ギバー(与える側)になれ」ということを言っていました。ドリブルで行って自分でフィニッシュに行くんじゃなくて、エクストラパスをして、チームのバスケを作るっていう意味でもギバーになって、いいシュートを作ろうというようなことを言われていました。そういったところ(がわかったの)は、ひとつ収穫かなとは思います。
簡単じゃないというのはわかっています。でも諦めない
――3年前と比べると英語も上達して、今回はチームメイトともふつうにコミュニケーションを取っていましたよね。
そうですね。そこも大きな成長です。1回目のサマーリーグは右も左もわからずに、コートに放られてただプレイしただけなんで、そこは成長していると思います。いろんな経験を経て、アメリカのこういう雰囲気にも、前よりはだいぶ慣れました。
サマーリーグの空気感というのは独特ですね。でも、苦しかったのも含めて、楽しかったです。生きてるっていう感じがします。何でも与えられる人生じゃなくて、少しだけ与えられて、いいプレイができて、また(うまくいかずに)ハーッと思って。なんか、本当に毎日、生きているなっていう感じがする。自分は続けるしかないので、自分を追い込んで、自分がなれる最高の自分を目指してやるしかないかなと思います。
――このサマーリーグで、またNBAの世界を垣間見ることもできたと思うのですが、NBAにかける思い、NBAを目標とする気持ちに変わりはないですか?
そうですね。(必要なのは)ひとつのきっかけだと思うんですよ。一度波に乗れればぐんと行けるかなって。それまではひたすらに辛抱して、チャンスがくるまでに自分を磨いていくしかないのかなと思うので。(NBAに入るのは)そんな簡単じゃないというのはわかっています。でも諦めないです。
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