ジェームズ・ハーデンがロサンゼルス・クリッパーズにトレードされ、フィラデルフィアには変化の風が吹き込んだ。
表面的には、ロールプレイヤーたちやドラフト指名権と引き換えにハーデン級の選手を失い、フィラデルフィア・76ersは後退するかに見えたかもしれない。だが、23歳のタイリース・マクシーが頭角を現し、イースタン・カンファレンスの最高級のチームにとどまるだけでなく、依然としてタイトルを競えるチームになるとの希望を76ersのファンに与えている。
NBAドラフト2020で全体21位指名だったマクシーは、当時掘り出し物と評された。4シーズン目の今季、マクシーはやすやすと当時のドラフト組のトップ5に入る選手となっている。
ハーデンの退団で、76ersの攻撃の鍵は正式にマクシーに託された。クリッパーズに移籍したハーデンは、マクシーが大きなことを成し遂げると予期している。
ハーデンは『Philadelphia Inquirer』で「タイリースからは素晴らしいことしか想像できない。彼がどれだけの仕事をしているか知っているからね」と話した。
「彼は体育館にいる。それが大好きなんだ。だから、素晴らしい結果が出るだろう。僕は彼にワクワクするよ」
「オールスターチームに選ばれ、本当に彼自身のプレイを見せられるように願っている。彼の成長と成熟はとにかくうれしい」
年間最優秀躍進選手賞の筆頭候補であるマクシーの今季の数字は、これまで彼がいかに向上してきたかをよく表している。
シーズン | 得点 | アシスト | リバウンド | スティール | FG% | 3P% | FT% |
2020-21 | 8.0 | 2.0 | 1.7 | 0.4 | 46.2 | 30.1 | 87.1 |
2021-22 | 17.5 | 4.3 | 3.2 | 0.7 | 48.5 | 42.7 | 86.6 |
2022-23 | 20.3 | 3.5 | 2.9 | 0.8 | 48.1 | 43.4 | 84.5 |
2023-24 | 26.8 | 7.1 | 4.8 | 0.8 | 47.5 | 44.6 | 95.3 |
近年、マクシーは得点能力やトランジションでのスピードを発揮してきた。だが、ハーデンの退団は、彼が76ersのリードプレイメーカーとなったことを意味している。そして彼は自己最多の平均7.1アシストという数字で応じてみせた。昨季の2倍以上の数字だ。
トバイアス・ハリスは「とにかくペースと僕らの攻撃をコントロールしている。そこから正しい判断をし、効果的にやっているんだ」と、マクシーを称賛した。
アシスト数が増えただけではない。マクシーが司令塔となり、76ersの攻撃はリーグ2位となった。
「アシストもそうだけど、ターンオーバーを抑えることができている。いかに彼がチームを統率し、ショーを繰り広げているかということだ。まさに彼に期待していることだよ。みんなが言うように、まだこれからなのはもちろんだ。でも同時に、ポジティブなことや利点がたくさんあり、そこからさらに発展させていくことができる」
ハーデンと一緒だったこれまで、マクシーは電光石火のスピードと得点力、大きく成長したプレイメーク能力で、リーグ有数の若手有望選手となっていった。
『ESPN』が最近発表した、将来のポテンシャルに基づいた25歳以下のトップ25選手ランキングで、マクシーは11位に選ばれた。メンフィス・グリズリーズのジャレン・ジャクソンJr.の次、クリーブランド・キャバリアーズのエバン・モーブリーをひとつ上回る順位だ。
このリストでマクシーよりも上位だったポイントガードは6人。そのうち5人は、すでにオールスターを経験している。ラメロ・ボール(9位)、ダリアス・ガーランド(8位)、ケイド・カニングハム(6位)、ジャ・モラント(5位)、タイリース・ハリバートン(4位)、ルカ・ドンチッチ(1位)だ。
マクシーとエンビードのツーメンゲームは止められない
マクシーの向上ぶりを最も強く示しているのは、攻撃における昨季MVPジョエル・エンビードとの結束力かもしれない。並外れたピック&ロールの数字で、リーグ有数の強力なコンビを形成した。
ポートランド・トレイルブレイザーズ戦でマクシーが3ポイントショットを決めた場面で、彼らがいかに止まることなく動いているかを見てほしい。
今季のエンビードとマクシーは、コンビとしての得点やアシストでリーグ最多。ピック&ロールから得点を生み出す彼らの安定した力は、守備側にとって頭痛の種であることを証明している。
エンビードとマクシーほど得点をあげているコンビはない。エンビードは平均31.9得点でリーグトップ。リバウンド(11.2)はリーグ7位だ。一方、マクシーは得点(26.8)で10位、アシスト(7.1)で11位につけている。
エンビードはピック&ロールからのロールマンとしての得点(6.4)がリーグ4位。マクシーがプレイメークに集中するようになったおかげのところが大きい。
11月上旬のワシントン・ウィザーズに勝利した試合では、エンビードとマクシーがツーメンゲームを繰り返し、相手の守備を苦しめ続けた。わずか30分間でエンビードは今季自己最多の48得点を記録。特に第3クォーターだけでフィールドゴール10本中10本成功の29得点をあげている。
エンビードは「第1Qは一度だけだったけど、そこでいかにオープンなのか分かったんだ」と話した。
「それからコーチにもうコールすらしないでくれと言った。とにかくやり続けようとね。彼はずっと僕を見つけ、スクリーンをかけ、僕を見つけ、得点をあげ続けた。彼らはスクリーンを封じようと調整したけど、何も変わらなかった」
「僕らはツーメンゲームにこだわった。彼らがどんな調整をしてきても、僕たちはとにかく対抗した。良かったと思う」
今季のエンビードはピック&ロールでの得点が増えただけではなく、ダブルチームからのパスも鋭くなった。自己最多の平均6.2アシストを記録している。
4年目に突入して成長を続けるマクシーは、スーパースターへの飛躍を遂げる途上にある。このまま続ければ、オールスターやオールNBAチームに選ばれるポテンシャルを秘めている。来年夏には制限つきフリーエージェントとなるため、マックス延長契約も見えてくる。
マクシーは「とにかく試合を読み、自分に引き寄せようとしている。自分の役割は分かっているよ。役割やチーム・球団の期待が分かれば、よりやりやすくなる」と話している。
「だから、とにかくコートに立ち、みんなを正しい場所に向かわせたり、必要な時は自分で得点をあげなければいけないと分かっているんだ。素晴らしいことだね」
原文:Inside Tyrese Maxey's superstar leap: How 76ers guard is benefitting from new role, chemistry with Joel Embiid(抄訳)
翻訳:坂東実藍