nba

【書評】『レイ・アレン自伝 史上最高のシューターになるために』(青木崇) - 後編

2019-01-25
読了時間 約2分

プロスポーツ選手の現実、NBAの内側を知ることができる1冊

(前編へ戻る)

コミュニケーション能力と気付きのスキルの素晴らしさ。これこそがレイ・アレンという人物を象徴するものだと言っていい。重要な局面になればなるほど、NBAで最初に所属したミルウォーキー・バックスでオーナーだったハーブ・コール米上院議員、ボストン・セルティックス時代のヘッドコーチだったドック・リバース(現ロサンゼルス・クリッパーズHC)といった、肝心な人物とのコミュニケーションを欠かさなかった。

しかし、NBAは大金を稼ぐアスリート、コーチ、オーナーたちによって構成されるリーグであり、それぞれのエゴが強烈にぶつかり合うだけに、アレンとのコミュニケーションを避けるようになった人物がいたのも事実だったようだ。セルティックスのファンならご存じのとおりだと思うが、当時のチームメイトであるラジョン・ロンド(現ロサンゼルス・レイカーズ)との関係悪化、その間に起こった出来事をより知りたいのであれば、本書は必読だ。また、トレードをGMからでなく、メディアを通じて知ったというエピソードは、コミュニケーションの破綻が実際に起きていたことを赤裸々に示している。

妻であるシャノンの存在も、アレンの人物像を知る上で重要であることがわかる。彼女との出会いやエピソード、予想外の結果に終わったドラフト、トレード、息子ウォーカーが重病に直面したとき、彼女はアレンを精神的な部分で大きな支えになっていたという。

📕 試し読みに! レイ・アレン自伝の本文を一部無料公開!!

また、スパイク・リー監督の『He Got Game』(邦題『ラストゲーム』)出演のきっかけが、野次から始まったというのもなかなか面白い。そこから本気で出演する気になったプロセス、共演したデンゼル・ワシントンとのエピソードは、読んでいただくことで詳細を知ることができる。

翻訳者の大西玲央氏についても触れておきたい。彼は、アメリカで育ったバイリンガルであり、シカゴ・ブルズをこよなく愛する人物だ。NBA観戦歴は長く、自身もプレーするなどバスケットボールへの理解度が高い。原書を読み終えたあとに改めて彼の訳文を読んだとき、原文に忠実ながらわかりやすくまとめている、という印象を持った。『コービー・ブライアント 失う勇気 最高の男(ザ・マン)になるためさ!』(東邦出版)を翻訳した経験が、読みやすさという点で生かされたのは間違いない。

Scroll to Continue with Content

原書の共著者、マイケル・アーカッシュとアレンがタッグを組み、大西氏が翻訳した本書は、レイ・アレンが半生を振り返った内容がメインとなっている。しかし、それだけではなく、ファンがなかなか知ることのできないNBAの内側、プロの現場がエゴとエゴがぶつかり合う泥々とした世界である、という部分もしっかり描写されている。そうした描写ができたのは、熱い戦いが繰り広げられるコート上でも常にクールなアレンだったからこそ、という気がした。 

■著者プロフィール
青木崇(あおき たかし)/バスケットボール・ライター。 群馬県前橋市出身。『月刊バスケットボール』、『HOOP』の編集者を務めたのち、1998年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年に日本へ戻り、高校生やトップリーグといった国内、「NIKE ALL ASIA CAMP」といったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。
Twitter: @gobluetree629 


関連記事

【書評】『レイ・アレン自伝 史上最高のシューターになるために』(青木崇) - 前編


【タイトル】レイ・アレン自伝 史上最高のシューターになるために
【出版】東邦出版
【著者】レイ・アレン、マイケル・アーカッシュ
【訳者】大西玲央
【価格】本体1,800円+税
【ISBN】978-4-8094-1620-0

📕 【無料公開】『レイ・アレン自伝  史上最高のシューターになるために』