最もストレスに満ちた仕事に取り組んでいる者たちにとって、NBAのオフシーズンは非常に穏やかな日々となり得る。9月はどのコーチも負けることがない。どの審判も判定ミスがない。先日シカゴで開催されたNBAコーチ協会の会合で、一部のコーチと一部の審判たちが集まった際には、そこかしこで笑顔や握手が見られた。
ただ、NBAシニアバイスプレジデントで、審判育成部門のトップを務めるモンティ・マカッチェンは、ニューヨーク・ニックスのトム・シボドー・ヘッドコーチとの出来事を笑って振り返っている。
2017年に現職に就くまで、25年にわたって審判を務めたマカッチェンは、「ある年に両軍にとって開幕戦という試合を担当し、ティップオフのボールを放り上げたんだ」と話した。
「すると、まだボールが宙にあるうちに、彼が『ボールの投げ方を知らないな』と怒鳴るのが聞こえたんだよ」
これには、シカゴ・ブルズ、ミネソタ・ティンバーウルブズ、ニックスでのNBAでの12シーズンを通じ、サイドラインで怒ってきた姿が有名なシボドーも笑うしかなかった。
シボドーは新シーズンがニックスで5年目。2020年、当時7年連続でプレイオフ進出を逃したチームを引き受けた。以降、シボドーは3シーズンでニックスをポストシーズンに導いている。2023年と2024年にはイースタン・カンファレンス・セミファイナルまで勝ち進んだ。
2024-2025シーズンに向け、ニックスはブルックリン・ネッツからミケル・ブリッジズを獲得し、OG・アヌノビーと再契約を結んだ。ジェイレン・ブランソンはMVP候補として向上している。ニックスは昨季の成績を一歩も二歩も上回ることが期待されているのだ。
そのニックスを指揮するシボドーHCが、シカゴで『NBA.com』のインタビューに応じてくれた。
――昨季のプレイオフで分かり、今季につなげたいと望んでいることは?
もちろん、OGの契約は大きかった。そしてミケルの加入は素晴らしい。ジュリアス(ランドル)が戻ってくるのも大きいね。(アイザイア)ハーテンシュタインを失い、その穴を埋める必要はある。だが、我々は多才だと思う。ビッグマンを守れるOGの力のおかげで、よりスモールラインナップで戦うことができる。ジュリアスと(ジョシュ)ハートもビッグマンを守れるしね。
――アヌノビーとブリッジズのようなウィングコンビを中心に守備を構築するのは魅力的では?
両選手の多才ぶりで、主なボールハンドラーに違う見せ方にできるのはプラスだね。ドンテ(ディビンチェンゾ)がそういう役割でスタートしてきたが、これからはブリッジズ、OG、ハートとやっていける。ボールハンドラーを守る選手をコンスタントに変えていけるんだ。それに、OGとハートはボールのないところで非常に破壊的だから、そういうやり方で使いたい。守備の万能性は我々の大きな武器だろう。
――ボストン・セルティックスにはジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンがいる。厄介なウィングがいることは非常に重要では。
リーグ全体が変わってきていると思う。今は2番、3番、4番がもっとウィング志向だ。4つのポジションを守れる選手、あるいは場合によって5つすべてを守れる選手もいる。それにより、スイッチを大きく増やせるんだ。そこにリバウンドの要素もあるなら、守備を犠牲にすることがない。相手をよりアイソレーションのタイプに変えるんだ。
――いまだにブランソンは驚かれたり、過小評価されているようだ。彼の成功の鍵は何か?
ファンダメンタルズ(基本)だ。彼は必ずしも身体能力に頼らない。アスリートとして過小評価されているけどね。だが、決断力や素晴らしいピボット、ショットメーク、スピード変化。相手のバランスを崩せて、自分が望むスポットにたどり着ける。とても相手を欺けるし、ショットを打つためのスペースのつくり方やプレイメークを知っている。とても読みが優れており、ペイント内も得意としている。
――審判団は彼のプレイをより理解して判定に適応しているだろうか?
まだファウルされているけどね。それははっきりさせておこう(笑)
――少しずつリーグ最高の選手になってきているのは間違いないのでは?
高校だろうが、大学だろうが、プロだろうが、彼が毎年向上してきたのはキャリアが保証する。彼は体育館で生きているんだ。ウチはそういう選手たちばかりのチームなんだよ。団結してやらなければいけないことも理解している。自分のベストを出すだけでなく、チームメイトのベストも引き出すことが大事だとね。
――ビラノバ大学出身の選手たち(ブランソン、ブリッジズ、ディビンチェンゾ、ハートは2015-2016シーズンのNCAAトーナメントを制した同大出身)の共通点は?
たまたまさ。ビラノバ大のことはかなり昔だ。みんな気づいていないが、彼らはみんなそれぞれ別の場所に行ってプレイしてきた。だから、異なる経験を積んできたんだ。そして今、戻ってきた。でも、ミケルのようなケースもある。彼らとだけじゃなく、キャメロン・ペインや(ケイタ)ベイツ・ジョップとも(フェニックス・サンズやネッツで)プレイしてきた。
私がシカゴにいた時と同じだと思う。(以前ユタ・ジャズでチームメイトだった)カルロス・ブーザー、カイル・コーバー、ロニー・ブリュワーがいた。少し過大評価かもしれないが、彼らが以前一緒だったことは、おそらく新たなシステムにすぐ適応する助けとなる。それが最も大きなアドバンテージだ。長所と短所を理解しており、お互いにやりやすくプレイできる。多くの試合で一緒だっただけでなく、練習も一緒にやってきたんだ。
――ランドルが肩の手術から戻るのは朗報だ。1月にケガをする前はオールスターにも選ばれた。離脱中に変わったチームに彼を組み込んでいくのはどういった挑戦になるだろうか。
ジュリアスは毎年、どんな挑戦にも常に適応してきたと思う。彼がどんなレベルでプレイしていたか、みんな忘れているんだ。4年前、彼はとんでもないシーズンを過ごした。当時は今のウチのようなショット力はなかったんだ。だから、もっとオープンになるだろう。彼が最後にプレイしていた1月にそれをうかがうことができた。
彼が25得点、10リバウンド、5アシストを記録するような選手だったことが忘れられている。彼はとても成功してきた。ニューヨークでのこの4年の勝利において、大きな役割を果たしてきたんだ。良い選手が多ければ多いほど、より多くの犠牲を払わなければいけない。ジュリアスだけじゃなく、全員がね。
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――だが、ローポストのバスケットボールが失われた芸術みたいになっている時代、そこでの彼のスキルは大きなアドバンテージになるのか?
それは彼の強みのひとつだ。でも、多くの人が気づいている以上に彼は進化した。3ポイントショットを身につけ、ドリブルもでき、バスケットに戻るプレイ、フェイスアップやスクリーンからのプレイができる。走ることもできるんだ。いつも彼に言っている。『お前はトランジションでベストだから狙え』とね。そういうプレイをしている時の彼は止めることができない。スピード、強さといったすべてがあるんだ。
――(ミッチェル・ロビンソンの代役として貴重だったが7月にフリーエージェントでオクラホマシティ・サンダーと契約した)ハーテンシュタインの穴埋めはどう始めるのか。
昨季も経験している。シーズンを始めた時は、ミッチェルがスターターで絶好調だった。彼が離脱してからは、最初はジェリコ・シムズがスターターだったが、彼もケガをした。それからアイザイアで、ああいう活躍だった。だが、彼がケガをした時は、プレシャス(アチューワ)がタージ・ギブソンといてくれた。だから、シーズンを通じてあのポジションは選手たちを入れ替えてきたんだ。
おそらく、みんなでやっていかなければいけないだろう。違う見方はする。万能性があるからだ。ジュリアスがもっと5番になるかもしれない。負担がかかるだろうし、長い間やりたくはないが、10分か15分なら彼はうまくやれると思う。それに彼は(攻撃で)多くのアドバンテージをつくるだろう。
――NBAレギュラーシーズンへのあなたのアプローチは変化してきたのか。それとも、チームのレベルに合わせてきたのか。
プランニングという点で、オフシーズンは非常に重要だ。チームの強みと弱みを長くしっかりと考えなければならない。そして、最終的に何が必要なのかを考えて始めなければいけないんだ。
シーズンの最初からそういう習慣でなければいけない。準備して、やろうとしていることを理解すれば、かなりもっと自由に、もっと自信をもってプレイできる。プレイオフに向けてベストのプレイをしたいんだ。
原文:The Q&A: Tom Thibodeau ready to guide Knicks through lofty expectations(抄訳)
翻訳:坂東実藍