『ESPN』のエイドリアン・ウォジナロウスキー記者が、「ウォジ爆弾」を投下したのは6月29日(日本時間30日)のことだ。ジェームズ・ハーデンが2023-2024シーズンのプレイヤー・オプションを行使し、フィラデルフィア・76ersとトレードに向けて取り組むという報道だった。
この時、ウォジナロウスキー記者は「ハーデンの76ersでのラストゲームはすでに終わったと見られる」と投稿している。
だが、それから2か月以上が過ぎても、ハーデンはまだ76ersのロスターに残っている。そして8月中旬には76ersがトレード交渉を打ち切り、オールスター選出10回のハーデンをトレーニングキャンプに参加させる計画と報じられた。ハーデンを巡る騒動はすぐに終わらなさそうだ。
ハーデンと76ersの状況がこう着している中、この件における最大の勝ち組と負け組を評価してみよう。まずは渦中の人物からスタートだ。
ジェームズ・ハーデンのトレード要求を巡る勝ち組と負け組
負け組
ジェームズ・ハーデン
MVP級の影響力から、ブルックリン・ネッツと76ersは、トレード要求後にハーデンを喜んで引き受けた。だが、今回はそうなっていない。
ウォジナロウスキー記者によれば、76ersはロサンゼルス・クリッパーズと「オフシーズンに定期的に対話」をしていたという。だが、取引の合意には近づかなかったようだ。ほかに強力な候補となるチームもいない。これまでのプレイオフの経歴が芳しくなく、いつ球団から出ていこうとするか分からない34歳のガードを手に入れるために、まっとうな資産を手放そうとはしないだろう。
簡単に言えば、このこう着状態において、ハーデンに打てる手は多くないのだ。76ersのバスケットボール運営部代表であるダリル・モーリーには、すでに個人的に攻撃し、10万ドル(約1480万円/1ドル=148円換算)の罰金を科された。労使協定によって、フリーエージェントになるのが先送りとなるため、プレイを拒むこともできない。
そして引退前にもう一度、大きな契約を結びたいと望むのなら、新シーズンで怠けることも不可能だ。スタッツを上回るだけの価値を示す必要がある。
ハーデンは3560万ドル(約52億6880万円)のプレイヤー・オプションを行使した時、トレーニングキャンプ開始まで1か月を切ってもなお76ersの一員のままでいるとは思っていなかったのかもしれない。だが、実際にはそうなっているのだ。
ダリル・モーリー
モーリーはハーデンとキャリアを通じて一緒だった。NBAで珍しいエグゼクティブと選手の絆があった。ハーデンから「嘘つき」と言われ、自分がいる球団には絶対所属しないと宣言された時には、良い気分がしなかったはずだ。
個人的な問題は別にして、モーリーはロスター構築の観点からも厳しい立場にある。ハーデンはフィラデルフィアで満足していないが、モーリーは役に立たない見返りでただハーデンを放出するというわけにはいかない。
我々はこれまで、モーリーが乱気流を乗り越えるところを見てきた。もちろん、不満を抱くベン・シモンズを放出してハーデンを確保したのもひとつだ。だが、モーリーほど経験を持つ鋭いエグゼクティブですら、この飛行機を着陸させるのには苦労するかもしれない。
ジョエル・エンビード
エンビードにとって不幸なことに、これは目新しいことではない。いつも騒ぎがあり、相棒は怒っていて、不確実であること以外に確実なことがない。76ersはエンビードの忍耐をさらに試し、彼の信頼を失わずに済むことができるのだろうか?
昨季MVPを受賞したエンビードは、29歳で全盛期の真っただ中だ。彼を中心に適切なチームをつくることができれば、現在の76ersには優勝の可能性もある。だが、その扉は永遠に開いているわけではない。
76ersファンの健気さ
もしも76ersのファンに出会うことがあったら、その時にやっていることをいったん止めて、その人を抱きしめてあげよう。
勝ち組
タイリース・マクシー
ハーデンが退団した場合、あるいは残留しても完全にコミットしない場合、4年目のマクシーが大きな飛躍を遂げるかもしれない。
2022-2023シーズンの76ersの攻撃は、ハーデンとエンビードが中心だった。それでも、マクシーは平均20.3得点、3.5アシスト、フィールドゴール成功率48.1%、3ポイントショット成功率43.4%を記録している。76ersが完全にメインのボールハンドラーとして解き放ったら、マクシーにどれだけのことができることだろう。
そして素晴らしいシーズンにできれば、マクシーは大型契約も結べるかもしれない。
76ersはこの夏、5年2億ドル(約296億円)超の契約を結ぶ資格のあるマクシーと延長契約を結ばないことを選んだ。そのオファーを提示する期限は10月末に訪れる。合意に至らずその期限が過ぎれば、マクシーは2024年に制限付きFAとなる。
ジョエル・エンビードの移籍先候補
これははっきりさせておこう。エンビードはトレードを要求していない。事実、ESPNのラモーナ・シェルバーン記者は先月、エンビードが「76ersにいることで満足」していると話した。
しかし、もしも76ersがハーデンをトレードすることになり、イースタン・カンファレンスにおける序列で一段下がることになったら、タイトルを狙えなくなるチームをけん引することにエンビードは満足するだろうか。魅力的なこととは思えない。
『The Athletic』のケリー・イコ記者は、エンビードを獲得できるようになった場合、関心を寄せるチームとしてニューヨーク・ニックスとヒューストン・ロケッツをあげている。ほかのチームも乗り出すのは避けられないだろう。彼らは76ersにとってうまくいかない状況が続くことを願っている。
クリッパーズ?
クリッパーズはモーリーの希望に応じようとしなかった。ほかのオファーと競っているわけではないことを考えれば賢明な戦略だ。お得にハーデンを手に入れられるかもしれない。
そしてまたこの問題だ。ハーデンを加えるのは、クリッパーズにとって良いことなのだろうか。キャリアの下り坂に入っていく彼に、本当にお金を払いたいのだろうか。
トレード内容やハーデンとの契約内容次第では、クリッパーズも勝ち組に含まれるかもしれない。