杉浦大介のNBAオールスター2022取材記 Day 2:サタデーナイトを救ったタウンズの笑顔

2022-02-20
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NBA Entertainment

オハイオ州クリーブランドで開催されているNBAオールスター2022を現地で取材している杉浦大介記者が、イベント2日目、現地2月19日 土曜(日本時間20日)の模様をリポートする。日中に開催された様々なイベント、夜のState Farmオールスター・サタデーナイトという大忙しの1日のハイライトは、カール・アンソニー・タウンズの笑顔だった。


イベント盛りだくさんのサタデーナイト

「あなたにすべてを伝えたいけれど 言えることはほとんどない なぜなら今日、あなたはクリーブランドにいるから」

2000年代に一世を風靡した女性シンガーソングライター、ジュエルの『クリーブランド』という曲の中にそんなフレーズがある。中西部の田舎町クリーブランドは一般的に遠くて静かな場所というイメージであり、この曲でもまさにそういった意味のメタファーとして使用されているのだろう。

ただ、普段は静かなこの街もオールスターサタデーはやはり騒がしかった。3日間のNBAオールスターウィークエンドの中でも、多くのイベントが催され、最も忙しいのは2日目の土曜日。オールスターメンバーの練習、メディアセッション、高校生のオールスターゲーム、アダム・シルバーNBAコミッショナーの会見、3ポイントコンテストやダンクコンテストといったアトラクションと、本当に盛りだくさんなのだ。

私もロケット・モーゲージ・フィールドハウス(クリーブランド・キャバリアーズの本拠地)とウォルスティーン・センターという2つのアリーナを行き来し、多くのイベントに参加した。

メディアセッションでは、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)が同じセルビア語を話すルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)を「俺はあいつが大嫌いなんだ」といじり倒している姿を微笑ましい思いで眺めた。傍ではお喋り好きのトレイ・ヤング(アトランタ・ホークス)が記者たちの質問に長時間対応しているのに感心し、メインの会見場ではレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)といった重鎮たちのスピーチのうまさにも感嘆させられた。その後、コミッショナーの会見では、NBAが海外でのゲームを再び計画していると聞いて、パンデミックの終焉にかすかな希望も持てた。

ダンクコンテストは残念だったが…

このように見どころ満載で楽しませてもらったが、ひとつ残念だったのは、この日のメインイベントであるはずのダンクコンテストが低調だったことだ。

ダンクコンテストこそがNBAオールスターの週末の華。1988年にマイケル・ジョーダンとドミニク・ウィルキンズが演じたバトル、2000年のビンス・カーターのワンマンショーなどは伝説として刻まれている。最近では2016年、ザック・ラビーンとアーロン・ゴードンという現代の二大ダンカーが展開した史上初の延長戦にもつれ込むほどの激闘もまだ記憶に新しい。ダンクコンテストが盛り上がった年のNBAオールスターは例外なく、より思い出深いものになる。

ところが、今年のダンクコンテストは4人の出場メンバーが失敗ダンクを連発。なかでも驚異的な身体能力を持っているがゆえに期待の大きかったジェイレン・グリーン(ヒューストン・ロケッツ)が不発に終わり、決勝ラウンドにすら進めなかったのは痛かった。

「すごいことだよ。これまで多くのレジェンドたちがダンクコンテストで優勝してきた。僕の名前がその一部になるのは特別なことだし、軽く考えたりはしない」。

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決勝でフアン・トスカーノ・アンダーソン(ウォリアーズ)を下して優勝したオビ・トッピン(ニューヨーク・ニックス)はそう語って喜んだものの、そのトッピンも決して印象的なダンクを連発したわけではなかった。

1997年、今は亡きコービー・ブライアントがクリーブランドでのダンクコンテストで優勝を飾ってから25年。そういった意味でもメモリアルなものになるはずだった今年のダンクコンテストは、残念ながら記憶に残るようなバトルにはならず、私の15年のオールスター取材歴でもワーストに近いものだったかもしれない。

ただ、その代わりといっては語弊があるが、ダンクコンテストのひとつ前に行われた3ポイントコンテストは、誰もが思わず心温かくなるような展開になった。

亡き母に捧げるタウンズの3ポイントコンテスト優勝

トレイ・ヤング、ザック・ラビーン(シカゴ・ブルズ)、CJ・マカーラム(ニューオーリンズ・ペリカンズ)、フレッド・バンブリート(トロント・ラプターズ)、パティー・ミルズ(ブルックリン・ネッツ)という豪華なガード陣が揃うイベントで、カール・アンソニー・タウンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)が見事に優勝。チャンピオンシップラウンドでは、史上最高記録となる29得点をあげるという圧巻の強さだった。2012年のケビン・ラブ以来、ビッグマンとしては久々の3Pコンテスト王者となり、終了後には本当に嬉しそうな表情を見せていた。

「NBAはイヤリングやジュエリーの着用を認めないはずだったんだけど、僕に母親のチェーンを身につけることを許してくれた。そのことに心から感謝しているよ」。

会見場でのタウンズのそんな言葉を聞いて、思わずほろりとさせられたのは私だけではなかっただろう。パンデミックの最中、タウンズが当時59歳だった母親を含む6人のファミリーメンバーを新型コロナウイルスで亡くしたことはよく知られた話である。親しかった母を失ったことに大きなショックを受け、昨秋には「僕の魂はもう死んだんだ」と悲しい言葉を残したこともあった。

しかし、時は流れ、そんなタウンズが再び大舞台で生き生きと躍動する姿を見ることができた。母親の残したネックレスを握りしめ、晴れやかな笑顔を浮かべていたことを嬉しく思うファン、関係者は多かったはずである。

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恋人に気持ちが伝えられない切なさを歌った名曲『クリーブランド』の主人公と同じように、今回、思い出深いダンクコンテストになることを望んだファンの願いは届かなかった。最も注目を集めていたイベントが低調に終わったのだとしたら、この1日は歴史に刻まれるものにはならないだろう。

それでも、タウンズが3Pコンテストで勝利を飾ったことで、サタデーナイトは救われた。大きなハートを持つビッグマンが描いた美しい放物線は、今週末のハイライトのひとつとなるに違いない。

しばらく時が経った後も、クリーブランドのオールスターサタデーは、タウンズの3ポイントショットと、何より、悲しみを乗り越えて取り戻したその笑顔とともに思い出されることになるのかもしれない。