杉浦大介のNBAオールスター2022取材記 Day 1:なぜこれほど寒い街で球宴を開催するのか?

2022-02-19
読了時間 約2分
NBA Entertainment

NBAオールスター2022が開催されているオハイオ州クリーブランドへ取材に向かったライターの杉浦大介記者が、現地から球宴初日の様子をリポートする。今年で15年連続のオールスター現地取材となったが、ライジングスターズが開催された現地2月18日 金曜(日本時間19日)は、到着早々、悪天候により空港で足止めを食らうトラブルに…。いきなり寒風吹きすさぶ街の洗礼を浴びた杉浦氏の波乱の初日がスタートした。


最低気温はマイナス7度。祭りの高揚感は…

クリーブランド・ホプキンス空港に着陸した飛行機からしばらく外に出られなかった。現地2月18日の昼頃、2022年のNBAオールスターウィークエンドのイベントが始まるというのに、クリーブランドは吹雪。悪天候のおかげでニューヨークからの出発が遅れた上に、到着後、約1時間も機内に閉じ込められる羽目になった。

すぐ近くの席に座った、渡邊雄太選手が所属していた頃から馴染みのメンフィス・グリズリーズ広報と顔を見合わせ、ため息をつく。

「なぜ、これほど寒いクリーブランドでオールスターを開催するのか……?」。

2008年のニューオーリンズ大会以来、私は15年連続でNBAオールスターを現地取材してきた。その過程で培った持論は、“オールスターは温暖な土地で開催した方が盛り上がる”というもの。フロリダやニューオリンズのような暖かい場所の方が確実に過ごし易く、お祭り気分は増幅される。オールスター期間中は街中で様々なイベントが催されるが、それぞれの会場へのアクセスも容易になる。

ニューヨークのようなアメリカ東海岸での球宴は一見華やかに思えるが、2月は厳しい寒さに見舞われるため、外を歩くのもままならない。中西部のクリーブランドも例外ではなく、この日の最低気温はマイナス7度。祭りの高揚感は存在しなかった。

クリーブランド入り前日、NBA Japan(NBA日本公式サイト/スポーティングニュース)のシニアエディターである及川卓磨氏との打ち合わせ時にも話が出たが、来年はソルトレイクシティ、再来年はインディアナとNBAオールスターは寒冷地での開催が続く。経済効果の大きい球宴は各都市の持ち回りとはいえ、もう少し気候を考慮してくれてもいいのに……。

ただ、実際にクリーブランドのダウンタウンにたどり着き、街を歩いてみると、私の少々身勝手なそんな思いはすぐに消し飛ぶことになった。

冬は凍てつくように寒いこの街でビッグイベントを挙行するのに、2月は最善の時期ではないという事実自体は変わらない。それでもクリーブランドでオールスターを開催するなら、今季はほとんど最高のタイミングかもしれないと思い直したのだ。

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地元キャバリアーズが今季最大のサプライズチームに

ご存知の通り、2021-22シーズンのクリーブランド・キャバリアーズはリーグ最大のサプライズチームになっている。レブロン・ジェームズが2018年に去って以降の3年間では合計90勝178敗と低迷していたチームが、ここまで35勝23敗と大健闘。レベルの上がったイースタンで4位に食い込み、プレイオフ進出も有力視されている。 

躍進チームの根幹を担ってきたのは、今季に急成長してリーグ屈指のポイントガードと目されるようになったダリアス・ガーランド。さらに守備の要となったジャレット・アレン、新人王候補の筆頭と目されるエバン・モーブリーという7フッターデュオ(身長213cm超の2人組)もインサイドを支えてきた。ここまでの働きが認められ、ガーランドとアレンはオールスター初出場。モーブリーと2年目のアイザック・オコーロもライジングスターズにそれぞれ出場し、この地元カルテットは“球宴のホスト”の役割を担うことになったのだ。

オールスターで地元選手を応援できることは、その街のファンにとって何よりの喜びである。案の定、クリーブランドのダウンタウンでは、キャブズのポスターや横断幕、選手たちのシャツやジャージーを着たファンを頻繁に見かけた。

アリーナの周辺にあったオールスターの巨大バナーには、MVP候補のジョエル・エンビード(フィラデルフィア・76ers)とともに、ガーランドのポートレイトも掲げられていた。再建中のはずだったキャブズの選手が、オールスターの顔の1人になった。クリーブランドでそんなことが可能になるとは、1年前には誰も考えられなかったはずだ。

Daisuke Sugiura

ライジングスターズでも地元選手が躍動

現地18日(日本時間19日)に行われたライジングスターズでも、モーブリーとオコーロはすべてのメンバーの中で最大の歓声を浴びた。コートサイドに座ったガーランドとアレンも紹介され、盛大な拍手が続いた。期待に応え、モーブリーとオコーロが所属したチーム・バリーは今季から4チーム制となったライジングスターズで見事に優勝。最後までスリリングなゲームで楽しませ、アリーナを埋め尽くしたクリーブランダーたちは満足そうに家路についた。

「ビッグステージだと感じられたし、ファンのおかげで楽しめたよ」。

イベント後、目を輝かせてそう述べていたモーブリーはここでまた貴重な経験を得たのだろう。生え抜きの若手が軸になったキャブズは、一時的な上昇ではなく、現在のメンフィス・グリズリーズのように勢いのある存在になっていく可能性も感じさせる。だとすれば、今回のオールスターは、今後長く全米を楽しませてくれる躍進チームをお茶の間に紹介する絶好のチャンスになったのかもしれない。

そうやってファンを喜ばせるオールスターになりそうなら、つい我が儘を言いがちな私も黙り、喜ぶべきなのだろう。寒さは我慢できるが、フレッシュなチームの出現に歓喜する地元ファンの熱気を肌で感じられるチャンスはそうそうあるものではない。

1997年以来、久々にクリーブランドで開催されているオールスターウィークエンドはまずは好スタート。明日以降も、名だたるスーパースターたちに混じり、大舞台で躍動するキャブズの選手たちと、それをサポートするファンの熱さが楽しみである。