ボストン・セルティックスが再び頂点に立った。
NBAファイナル2024でダラス・マーベリックスを4勝1敗で下し、セルティックスは16年ぶりにラリー・オブライエン・トロフィーを掲げている。
ジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンを筆頭に、セルティックスはプレイオフで結果を残せなかった日々を過去とし、NBA最多となる通算18回目の優勝を達成した。レギュラーシーズンで64勝18敗、プレイオフで16勝3敗と支配的だった。
セルティックス最大の強みは、選手層の厚さにある。ドリュー・ホリデー、デリック・ホワイト、クリスタプス・ポルジンギス、アル・ホーフォードといったサポーティングキャストがスーパースターコンビを支えたのだ。
元バスケットボール運営部代表のダニー・エインジは、テイタムとブラウンを手に入れることになった指名権を獲得する大型トレードで土台を築いた。そして2021年に後を継いだ後任のブラッド・スティーブンズが仕事を完成させたかたちだ。
ここでは、エインジが築いた土台を基に、スティーブンズがいかに優勝ロスターを築いていったのかをまとめる。
スティーブンズはどのようにセルティックスの2024年優勝ロスターを築いた?
セルティックスでは2021年のオフシーズンに驚きの人事があった。エインジが引退したことで、ヘッドコーチだったスティーブンズが昇格し、後任の運営部代表となったのだ。
スティーブンズは球団レジェンドのレッド・アワーバックやトム・ヘインソーンのように、セルティックスで長く指揮をとる次のヘッドコーチになることが期待されていた。
だが当時、セルティックスは手首のケガでブラウンを欠き、NBAプレイオフ2021でブルックリン・ネッツによってファーストラウンドで敗退させられたところ。8年にわたって指揮をとったスティーブンズは、チームには新たな声が必要と感じていた。
そこで、スティーブンズはロスター構築の観点から球団に自身のバスケットボール知識をもたらすことになった。彼ほどチームを知っていた者はいない。テイタムとブラウンを最大限に生かすビジョンを持つことは、すぐに明らかになった。
アル・ホーフォード
スティーブンズはわずか2週間で最初の大きな動きを見せた。負傷したオールスターガードのケンバ・ウォーカーをオクラホマシティ・サンダーにトレードし、ベテランビッグマンのホーフォードを再び獲得したのだ。
セルティックス獲得:
- アル・ホーフォード
- モーゼス・ブラウン
- 2023年ドラフト2巡目指名権
サンダー獲得:
- ケンバ・ウォーカー
- 2021年ドラフト1巡目指名権(アルペレン・シェングン)
- 2025年ドラフト2巡目指名権
ホーフォードは2020-2021シーズン後半戦、若手の成長を目指すサンダーで出場していなかった。リフレッシュした状態でボストンに戻り、チームとファンから両手を広げて歓迎された。
結果、ホーフォードにはまだ十分の力が残っていた。2021年から2023年までレギュラーシーズンの129試合すべてに先発出場。NBAファイナル進出、イースタン・カンファレンス・ファイナル進出に貢献した。
2023年のオフシーズンでポルジンギスが加わったため、ホーフォードはベンチスタートになった。だが、それでもレギュラーシーズンの33試合、プレイオフの14試合で先発出場している。ホーフォードの3ポイントショット、多才な守備のスキルセット、そしてシックスマンとしての利他的な姿勢がなければ、セルティックスの優勝はなかっただろう。
デリック・ホワイト
スティーブンズはそのほか、大きくはないが重要な取引となった補強も実現させている。そのひとつが、2022年のトレードデッドライン(トレード期限)での取引だ。
セルティックス獲得:
- デリック・ホワイト
スパーズ獲得:
- ジョシュ・リチャードソン
- ロミオ・ラングフォード
- 2022年ドラフト1巡目指名権(ブレイク・ウェスリー)
- 2028年ドラフト1巡目指名権交換権
当時、ホワイトはサンアントニオ・スパーズで成長の大きな兆候を示しながらもあまり知られていない選手だった。IQの高さとボールに対する粘り強い守備はすでに評価されていたが、3P成功率は34.4%にとどまっていたのだ。
この時のトレードには賛否両論があった。ドラフト資産と元ロッタリーピックのラングフォードを手放したことに怒る者もいれば、ペリメーターディフェンダー、ガードのプレイメーカーとしてエリートクラスの選手を新たに加えるビジョンという見方もあった。
結果的に、ホワイトはここ2シーズンでNBA有数の成長ぶりを見せ、スティーブンズによるほかのトレードと同じようにインパクトを与えた。オールディフェンシブチーム選出2回で3P成功率38.0%という選手に進化したのだ。
マルコム・ブログドン
NBAファイナル2022でセルティックスは優勝に届かなかった。これを受け、スティーブンズはボールハンドリングに優れた別のプレイメーカーを加えることで弱点を補おうとする。ブログドンだ。
セルティックス獲得:
- マルコム・ブログドン
ペイサーズ獲得:
- アーロン・ニスミス
- ダニエル・タイス
- ニック・スタウスカス
- マリーク・フィッツ
- ジュワン・モーガン
- 2023年ドラフト1巡目指名権(デンバー・ナゲッツに譲渡されてジュリアン・ストローサー)
ブログドンはセルティックスに足りないピースだったと思われた。平均14.9得点、3.7アシストを記録し、2023年のシックスマン賞に選ばれている。だが、ひじのケガでプレイオフでは生産性が落ち、東地区決勝でマイアミ・ヒートに屈した落胆の敗退に一役買うことになってしまった。
そして数か月後、セルティックスは後述のとおり、ブログドンを含めた取引で優勝を競うチームにつなげた。
クリスタプス・ポルジンギス
2023年のオフシーズンに球団の中心だったマーカス・スマートをトレードで放出したことが、スティーブンズにとって最も厳しい決断だったのは間違いないだろう。スマートはリーダーとして9シーズンにわたり、セルティックのために血と汗、涙をささげた選手だ。だが、チームは壁を乗り越えることができなかった。
心を痛めながらの取引は、セルティックスの優勝候補としての地位をさらに高めることになった。
セルティックス獲得:
- クリスタプス・ポルジンギス
- 2023年ドラフト全体25位指名権(メンフィス・グリズリーズ経由、デトロイト・ピストンズに譲渡、マーカス・サッサー)
- 2024年1巡目指名権(トップ4保護条件つき、ゴールデンステイト・ウォリアーズ経由、ポートランド・トレイルブレイザーズにトレード)
グリズリーズ獲得:
- マーカス・スマート
ウィザーズ獲得:
- タイアス・ジョーンズ
- ダニーロ・ガリナーリ
- マイク・マスカーラ
- 2023年ドラフト全体35位指名権(シカゴ・ブルズにトレード、ジュリアン・フィリップス)
結果的に、スマートと契約満了になるベテランの契約と引き換えに、ポルジンギスと2つのドラフト1巡目指名権を獲得したスティーブンズの取引は見事なものとなった。
ポルジンギスはプレイオフで出場7試合だったが、NBAファイナル第1戦と第2戦でセルティックスが2連勝を飾るのに貢献した。この2試合でポルジンギスは平均16.0得点、2.5ブロックを記録している。
ドリュー・ホリデー
スティーブンズ体制で最もインパクトのあったトレードは、東地区のライバルであるミルウォーキー・バックスのお膳立てによるものだった。
バックスがデイミアン・リラードを獲得するために、ホリデーをブレイザーズにトレードしたのだ。
バックスはリラードがNBAファイナル進出に必要なペリメーターからの得点力をもたらすと考えた。だが、セルティックスがブレイザーズからホリデーを手に入れることは想定していなかったのだ。
2023-2024シーズンのトレーニングキャンプが始まる数日前、スティーブンズはNBA有数のディフェンダーを獲得するために大きな動きに出た。
セルティックス獲得:
- ドリュー・ホリデー
ブレイザーズ獲得:
- マルコム・ブログドン
- ロバート・ウィリアムズ三世
- 2024年ドラフト1巡目指名権(ウォリアーズ経由)
- 2029年ドラフト1巡目指名権
ホリデーのしつようでフィジカルな守備、そしてタイムリーな攻撃は、NBAプレイオフ2024におけるセルティックスにとって重要なものとなった。彼の優勝経験はまさに、それまでタイトルにわずかに届いていなかったセルティックスに欠けていたものだったのだ。
原文:How Brad Stevens turned Celtics into champions: 5 trades that led to Boston's 2024 NBA Finals roster(抄訳)
翻訳:坂東実藍