2022-23シーズンのNBAレギュラーシーズンが、10月18日(日本時間19日)に開幕する。ボストン・セルティックスとフィラデルフィア・76ers、ゴールデンステイト・ウォリアーズとロサンゼルス・レイカーズの2試合が行われる開幕の日は、もうまもなくだ。
長いオフシーズンでは様々なドラマがあった。カオスだったドラフトの夜があり、2つの大型トレードが実現した。一方で、長く噂されながら実現しなかったトレードもある。
開幕を前に、各地区を展望していこう。今回は、イースタン・カンファレンスのアトランティック・ディビジョンだ。
セルティックスはオフシーズンの問題を片づけ、NBAファイナルに戻ることができるだろうか。今季こそ、76ersは山を乗り越えることができるのか。ブルックリン・ネッツ、トロント・ラプターズ、ニューヨーク・ニックスには何が期待できるのだろうか。
ベストチーム:ボストン・セルティックス
セルティックスがオフシーズンにマルコム・ブログドンをトレードで獲得し、ダニーロ・ガリナーリと契約した時、アトランティック・ディビジョンだけでなくNBA全体でも最高のチームになったと言ったとしても、それほど反発はなかっただろう。ただ、それから多くのことが変わった。
ガリナーリがイタリア代表として臨んだ夏のユーロバスケット2022でACL(前十字靭帯)を負傷し、セルティックスのフロントコートには穴ができた。そして「チームの女性スタッフとの不適切な関係」でイメイ・ウドカ・ヘッドコーチがシーズンを通じて活動停止処分に。さらに数日後、セルティックスはロバート・ウィリアムズ三世が昨季終盤とプレイオフの数試合を欠場することになった左ひざの手術を受け、8~12週間の戦列離脱になると発表した。
しかし、たとえウドカHCの代わりにジョー・マズーラが暫定ヘッドコーチを務めることになり、ウィリアムズ復帰までフロントコートが手薄になるとしても、今季のセルティックスをこのディビジョン最高のチームと考えないのは難しい。
ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウン、マーカス・スマートの主軸は変わらず、テイタムとブラウンは向上を続けるばかりだ。アル・ホーフォードやデリック・ホワイト、グラント・ウィリアムズ、ペイトン・プリチャードのような重要なローテーションプレイヤーたちもいる。そしてブログドンの獲得は、昨季のファイナルでの低調で見られたプレイメイクの問題の多くを解決するはずだ。
NBA有数の守備ユニットを持つチームであることも変わらないだろう。テイタム、ブラウンというスター選手たちを擁するセルティックスは、彼らの周辺で何があろうとも、再びタイトルを目指す用意ができている。
ベストプレイヤー:ジョエル・エンビード(76ers)
最も選ぶのが難しかった項目だ。エンビード、テイタム、そしてケビン・デュラントがいるディビジョンだけに、3人のスーパースターのうち誰を選んでも正解になっていたかもしれない。
NBAファイナルでの低調を別にすれば、テイタムは昨季のプレイオフでリーグの5本の指に入る選手だった。ファーストラウンドではデュラントを封じ、第7戦までもつれ込んだ末に制したカンファレンス・セミファイナルとカンファレンス・ファイナルでは、ヤニス・アデトクンボやジミー・バトラーと渡り合った。
デュラントを選ぶとしたら、その理由は説明不要だ。彼が何者かは周知のとおりである。
ただ、昨季のエンビードはリーグで最も止められない力を持った選手のひとりで、MVP級の活躍を見せたばかりだ。1試合平均30.6得点をあげ、1999-2000シーズンのシャキール・オニール以来となる、センターの得点王となった。昨季は自己最多の68試合に出場しており、健康を保つことができたらどれほど支配的になるのか、想像すると恐ろしいほどだ。
今季も、コートに立っている限り、エンビードが再びこのディビジョン最高の選手となるだろう。
ベストルーキー:クリスチャン・コロコ(ラプターズ)
ほかの多くのディビジョンと違い、このディビジョンには今年のNBAドラフトで指名され、影響力を発揮しそうな選手が多くない。最上位指名権はニックスの全体11位だったが、彼らは複数の将来の1巡目指名と引き換えにサンダーとトレードした。
それで注目されるのが、ラプターズが2巡目で指名したコロコだ。ラプターズが彼を選んだ時は興奮した。最後のドラフト予想で彼を1巡目指名されるタレントと評価したのだ。選手の育成が長けていることで知られるラプターズで、どのようにフィットするのかが楽しみだ。
コロコについては6月、このように評価していた。
7フィート(約213センチ)、221ポンド(約キロ)で、ウイングスパンは7フィート5.25インチ(約226センチ)、さらにスタンディングリーチは9フィート5インチ(約287センチ)もあるのだ! コロコはやすやすとNBAでも大型と呼べるサイズとリーチをクリアする。運動能力や機動性も、ニック・ナースHCやマサイ・ウジリ社長がセンターに求める完璧なタイプである。
コロコは昨季のアメリカ全土で有数のディフェンダーだった。アリゾナ大学で1試合平均12.6得点、7.3リバウンド、2.8ブロックを記録し、パシフィック12カンファレンスの年間最優秀守備選手賞を受賞している。39試合に出場し、29試合で複数ブロックを記録。10試合でダブルダブルを達成した。
サマーリーグでも、その有望ぶりを垣間見せるまで時間はかからなかった。派手なロッタリーピックではないかもしれない。だがコロコは、フロントコートの向上を必要とするラプターズでインパクトを残すだけのすべてを備えている。
ベスト補強:ジェイレン・ブランソン(ニックス)
ブログドン(セルティックス)、PJ・タッカー(76ers)、TJ・ウォーレン(ネッツ)といった選手たちは、それぞれのチームで大きく貢献できるだろう。それでも、ニックスがフリーエージェントでブランソンを獲得した重要度は、それらを容易に上回る。
昨季、ブランソンはダラス・マーベリックスで平均16.3得点、4.8アシスト、3.9リバウンドとブレイクした。ルカ・ドンチッチがプレイオフ最初の3試合を欠場せざるを得なかった時、大きく活躍したのがブランソンだ。この時に、彼を通じた攻撃がどのようなものかが垣間見られた。
ドンチッチが欠場した3試合で、ブランソンは平均32.0得点、5.3アシスト、5.3リバウンドを記録。第2戦で41得点、第3戦で31得点をあげ、マーベリックスをシリーズ2勝1敗へと導いている。プレイオフを通じては平均21.6得点、4.6リバウンド、3.7アシストで、オフシーズンに4年1億400万ドル(約152億8800万円/1ドル=147円換算、以下同)のニックスとの契約を勝ち取った。
ブランソンはニックスの攻撃のエンジンとして、チームがしばらく欠いていたプレイメイクできるポイントガードの役割を担う。バスケットボールのメッカでプレイすることは大きな重圧になるだろう。だが、ニックスファンとして育ったブランソンは、ニックスに勝利をもたらす準備を整えているはずだ。
未知の要素:デュラントとカイリー・アービング
今のネッツはすべてが落ち着いたかのようだが、デュラントとアービングのコンビに何があるか分からないことは昨季学んだばかりだ。
昨季、ネッツは優勝候補の一角としてシーズンに臨んだが、期待を大きく裏切ることになった。アービングはニューヨーク市によるCOVID-19(新型コロナウイルス)のワクチン接種義務にそむき、シーズンの大半を通じてロードゲームにしか出場できず。トレードデッドライン(トレード期限)には、ジェームズ・ハーデンがベン・シモンズと引き換えに去り、「ビッグスリー」は早々に解散となった。
プレイイン・トーナメントを通じてプレイオフ進出を果たしたネッツだったが、ファーストラウンドでセルティックスにスウィープ(4連勝)された。昨季のプレイオフで唯一のスウィープだった。
カオスと騒動のオフシーズンを経て、残留したデュラントとアービング、そしてシモンズは、ネッツがそのポテンシャルを完全に発揮できるように努めることとなる。ロスターはタレントぞろいだ。優勝を競うために必要なものをネッツが備えていることは疑いない。だが、このトリオはコート外のことをすべて脇に置き、最終目標に達することができるのだろうか?
各チームにまつわる疑問
セルティックス
新しい「ヘッドコーチ」への適応はどうなるか。シーズン活動停止処分を科されたウドカHCの代わりをマズーラ暫定HCが務めるが、彼にはNBAレベルでのヘッドコーチ経験がない。そんな34歳の彼が、再びチームをNBAファイナルへ導くことを大きく期待されてシーズンに臨むこととなる。
フロントコートはウィリアムズ三世の不在に耐えられるか。ここはホーフォードの両肩にかかるところが大きい。NBAで16年目の36歳だが、時計の針を巻き戻し、セルティックスで多くの時間をプレイすることが必要となる。
優勝候補の重圧に対処できるか。指揮官が新しくなり、シーズン最初の数か月でスターターのひとりを欠く彼らが、開幕前から優勝候補と予想される重圧に対処できるのだろうか。
76ers
エンビードは再び健康を保てるか。昨季の彼は自己最多の68試合に出場し、平均30.6得点、11.7リバウンドを記録し、得点王にも輝いた。彼が健康で起用可能かどうかが、今季の76ersのすべてを決める。
ハーデンはどのバージョンとなるのか。昨季は浮き沈みがあった元MVPだが、今季はより良い状態でシーズンを迎えているようだ。ここ数年と比べてより準備を整えていると見られる。我々が知る、エリート級のプレイメイクができるハーデンなら、このチームは恐るべき存在になり得る。
チーム3人目のスターとしてタイリース・マクシーが台頭を続けられるか。昨季の彼は平均17.5得点、4.3アシストを記録し、リーグ有数のブレイクした選手となった。3年目の今季、マクシーは76ersの3人目のスター、そして球団の礎としての立場を固めるチャンスだ。
ネッツ
シモンズから何を得られるか。昨季全休した彼が、プレシーズンマッチに出場している。彼がオールスターやオールディフェンシブチームに選ばれた時のように戻れるなら、注目だ。
デュラントとアービングが一緒に出場するのは何試合か。昨季のレギュラーシーズンは17試合にとどまった。ネッツが競いたいのなら、今季はその数を大きく増やさなければならないだろう。
スティーブ・ナッシュHCはシーズンが終わるまでネッツの指揮官でいられるか。オフシーズンからデュラントとアービング、ナッシュで問題を話し合ってきたようだが、もしもネッツが力強くシーズンスタートを切れなかった場合、殿堂入りしているナッシュは苦しい立場に置かれる。
ラプターズ
イーストのそのほかのトップチームと競えるか。セルティックス、ミルウォーキー・バックス、76ers、ヒート、ネッツ、クリーブランド・キャバリアーズ、アトランタ・ホークスといったチームがひしめくイースト。昨季のラプターズはその中にいることを証明したが、今季もそれは可能だろうか。
球団の未来としてスコッティー・バーンズは成長を続けられるか。昨季のバーンズは新人王に輝き、リーグで最も将来が嘱望される若手のひとりと見られた。21歳は2年目の今季、大きな重圧に直面することになるだろう。
パスカル・シアカムとフレッド・バンブリートがけん引するチームの限界はどこにあるのだろうか。昨季はシアカムがオールNBA級の選手に戻り、バンブリートがオールスターに初選出された。だが、ラプターズはプレイオフ・ファーストラウンドで敗退している。彼らは現在の主力でカンファレンス・セミファイナルやそれ以上に勝ち進むことができるのか。
ニックス
どんなバージョンのジュリアス・ランドルになるだろうか。2020-21シーズンの彼はオールスターに選ばれ、最優秀躍進選手賞を受賞したが、昨季は大きく後退した。一昨季のようにうまくやれるか、昨季のように悪くなるのか、それともその中間となるのだろうか。
ブランソンは「待望の選手」だと証明できるのか。大型契約を結んだ彼だけに、ニックスですぐに成功できなければ、容易に批判の標的とされる。今季の彼が目指すのは、すぐにニックスのリーダーとして立場を確立させることだ。
ランドル、ブランソン、RJ・バレットの「ビッグスリー」で、プレイイン・トーナメントやプレイオフ出場を果たせるのか。ニックスは彼らに合計3億4000万ドル(約499億8000万円)を費やした。プレイイン・トーナメントにも及ばなければ、失敗とみなされるだろう。
原文:2022 Atlantic Division Preview: Will the Celtics, 76ers, Nets or Raptors emerge as the best team?(抄訳)