2018年以来、大谷翔平の横に通訳が付き添う光景は、MLBですっかりおなじみとなっていた。全ての試合にダグアウト入りし、大谷のそばに陣取っており、大谷がいるところ常に水原一平氏の姿があった。メジャーリーグ屈指のスター選手とその通訳の関係は切っても切り離せないものだった。
だが、そんな2人の関係性は、水原氏の違法賭博疑惑が発覚したことにより、終焉を迎えた。ここでは、大谷の元通訳・水原氏の違法賭博疑惑問題にまつわる一連の事象を時系列に整理する。なお、この記事は進展があり次第、随時アップデートされる予定だ。
大谷翔平の元通訳・水原一平氏のキャリアと違法賭博疑惑の流れ
※日時は日本時間。
2018年 大谷が渡米、水原氏がその通訳に
大谷翔平がロサンゼルス・エンゼルスと契約、米国へ移り、メジャーリーガーとしてのキャリアをスタートさせた。このとき、水原氏は大谷の通訳として雇用された。
その後、水原氏は単にメディア対応のための通訳としてだけでなく、選手やコーチとの会話もサポートし、友人関係を築き上げていった。また水原氏は大谷にスカウティングレポートを伝える役割も担っていた。
2021年 水原氏、違法ブックメーカーを通じて賭博を始める
水原氏が南カリフォルニアのブックメーカー、マシュー・ボイヤー氏を通じて賭博を始めたのはこの頃だったとESPNは報じている。水原氏がESPNに語ったところでは、水原氏とボイヤー氏はポーカーを通じて知り合い、この年の後半にはボイヤー氏のツケで賭博をするようになっていたという。賭けの対象としていたのは海外サッカーやNBAなど、野球以外のスポーツだった。
「野球には一度も賭けたことはありません」と水原氏は2024年3月にESPNの取材で語っている。
「これは100%言えること。ルールは理解していました。スプリングトレーニングでもこのことについてミーティングがありますから」
ボイヤーは送金してきた相手の名前を知っていたが、何も疑問に思わなかったと言う。ESPNはその理由を、自分が大谷と仕事をしているんだと周囲に信じさせるためだったのだろうと推測している。
2022年 賭博による水原氏の負債総額が100万ドル超に
ESPNによれば、2022年の終わりには水原氏の負債は100万ドル(約1億5000万円/1ドル150円換算。以下同)を超えており、そこから先、負債額は増えていくばかりだったという。
「(賭博については)まるでダメ、二度とやりません。一度も勝ったことがないんです」と、水原氏は2024年3月にESPNの取材で語っている。
「自分から穴に落ちて、深みにはまってしまいました。負けから抜け出そうと高額の賭けをして負け続けました。雪だるま式でした」
2023年 「水原氏の負債を大谷が肩代わりか」(ESPN報道)
ESPNによれば、2023年、水原氏が賭博で作った、少なくとも450万ドル(約6億7550万円)にものぼる負債を大谷が肩代わりすることに同意したという。
また、この年の10月、ボイヤー氏の自宅は特別捜査官による強制捜査を受けている。その際に現金、カジノのチップ、コンピューター、携帯電話、時計、高級ハンドバッグなどが押収されている。ボイヤー氏の捜査を行なっているのは、ラスベガスでのマネーロンダリング、違法賭博などを扱う検事局だと言われている。
2024年 違法ブックメーカーへの送金記録に大谷の名前
連邦当局はボイヤー氏のノミ行為を調査していく中で、1月から水原氏の賭博についても捜査を始めていたとESPNは報じている。
さらに送金記録についても、いくつかの銀行口座、そして『貸付金』という表記の横に『大谷翔平』の名前があったことをESPNは発見している。
2024年3月19日(火) 水原氏がESPNのインタビューで「大谷が肩代わりのために送金」と発言
事態を収拾しようと、ドジャースは水原氏にESPNの90分のインタビューを受けさせ、水原氏は自分の言葉で状況を説明した。
そこで水原氏が語ったのは、大谷の広報担当者が当初話していたものと同じだった。つまり、2023年に大谷が水原氏の賭博による負債を肩代わりするために送金したという話だ。その負債額は最低でも450万ドル(約6億7550万円)だったと報じられている。
「彼(大谷)は明らかに不満そうだったが、二度とこんなことをしないように助けると言ってくれました」と水原氏はESPNの取材で語っている。
「そして、私のために(負債を)支払ってくれると決めてくれました」
「みんなに分かって欲しいのは、翔平は賭博には何ら関与していないということです。そして私自身も、今回の賭けが違法行為だったと知らなかったんです。今回、身をもって学びました。もう二度とスポーツ賭博はしません」
2024年3月20日(水) 水原氏、ドジャースから解雇。大谷は一転、「巨額の窃盗の犠牲者」に
大谷の広報担当者がESPNに返答してきたときには、ESPNは記事を出す準備ができていた。ただ戻ってきたコメントは当初から変わっていて、大谷は「巨額の窃盗の犠牲者であり、我々は本件を当局に引き渡している」というものだった。
広報担当者は水原氏の談話を否定し、大谷は水原氏が抱えていた賭博の負債について承知していなかったし、ボイヤー氏の仲間には送金していないと説明した。
韓国・ソウルで行なわれたドジャースのシーズン開幕戦では、大谷と水原氏はダグアウトでいつも通り話している姿が見受けられた。
アメリカではその日(現地20日)の午後、ESPNとロサンゼルス・タイムズがそれぞれ、水原氏の賭博に関する告発記事を掲載した。それから数時間後、水原氏は解雇された。
2024年3月21日(木) 大谷、メディアの取材要請に対応せず
この日、ダグアウトの大谷のそばに解雇された水原氏の姿はなかった。ドジャースがパドレスに11-15で敗れると、大谷はメディアの取材要請には対応せず、ロッカールームの外にいた日本の記者たちに「おやすみなさい」とだけ言ってその場を後にした。
2024年3月23日(金) MLB、本件の調査開始を発表
MLBは、この件に関して正式な調査を開始したとの声明を発表した。
2024年3月26日(火) 大谷、10分あまりの会見を開催。「シかなしくというか、まあショック」
この日、大谷は、ドジャースタジアムで行われるロサンゼルス・エンゼルスとのスプリングトレーニング戦(オープン戦)を前に10分あまりにわたって記者会見を実施した。会見は、大谷がまず日本語で話し、新通訳のウィル・アイアトン氏が英語で通訳する形で進行。今回の一件の発覚後、大谷が公の場で自らの言葉で本件について語るのはこれが初めてだった。
冒頭、大谷は「僕自身も、信頼していた方の過ちというのを悲しくというか、まあショックですし、今はそういうふうに感じています」と現在の気持ちを語ったのち、事実関係を整理したというメモを読み上げる形で今回の騒動について説明を行なった。
「まず初めに、僕自身は何かに賭けたりとか、誰かに代わってスポーツイベントに賭けたりとか、またそれを頼んだりとか言うことはないですし、僕の口座からブックメーカーに対して誰かに送金を依頼したことも全くありません」
この後、大谷はこの一件が明るみになるまで大谷が水原氏の賭博について一切関知していなかったこと、メディアからの本件に関する取材・確認依頼がきたとき、水原氏が大谷や代理人、チームに一切明かすことなく自分で処理していたこと、その際に、大谷が肩代わりしてくれたと嘘をついたこと、韓国での開幕戦後に水原氏が自身のギャンブル依存症と負債についてチームに告白したこと、その後の水原氏とのコミュニケーションを経て、この一件が窃盗・詐欺として処理されるようになったことなど、今回の一件を時系列で説明した。
「結論から言うと、彼が僕の口座からお金を盗んで、なおかつみんな、僕の周りもそうですけど、みんなに嘘をついていたというのが、結論から言うとそういうことになります」
大谷は今回の一件を総括した上で、「正直、ショックという言葉が正しいとは思わないですし、それ以上の、言葉では表せないような感覚でこの1週間くらいはずっと過ごしてきたので、今はそれを言葉にするのは難しいなと思っています」と語った。
「ただシーズンも本格的にスタートするので、ここからは弁護士の方々におまかせしますし、僕自身も警察当局の協力(※「捜査」の言い間違いと思われる)に全面的に協力したいなと思っています」
「気持ちを切り替えるのは難しいですけど、シーズンに向けてまたスタートしたいですし、今日まずお話できてよかったなと思っているので、今日は質疑応答は、これが今お話しできる全てなので質疑応答はしませんが、これからさらに進んでいくと思います」
大谷はそう言うと、記者からの質問を受け付けることなく会見を終えた。
2024年4月11日(木) 水原氏、有罪答弁取引を交渉
『ニューヨークタイムズ』が、水原氏は大谷の口座の金を不正送金したとされる嫌疑に対し、有罪答弁取引の交渉を行なっていると報じた。
この記事によれば、水原氏が実際に犯罪を行なっていた場合、早い段階から有罪答弁をすることで刑罰を軽くできるだろうとのこと。また、すでに証拠が揃っているため、水原氏と弁護団は法廷で争うことなく、寛大な措置を求める方針をとったと思われる。
2024年4月12日(金) 水原氏、銀行詐欺で訴追
水原氏が1600万ドル(約24億円/1ドル=150円換算。以下同)を大谷の口座から不正送金した銀行詐欺容疑で訴追されたとカリフォルニア州中部地区連邦検事局が発表した。
宣誓供述書によると、犯罪が行われたのは2021年11月から2024年1月の期間。水原氏は2018年に大谷が米国で口座を開く際に同席しており、その口座の登録情報を変更し、不正な賭博の支払いに使用していたとされている。大谷になりすまして銀行に電話し、送金許可をすることもあったという。
また、これまで報道されてきた賭博の支払い以外にも、水原氏はベースボールカードの購入費32万5000ドル(約4875万円)を大谷の口座から支払っていたとされている。
カリフォルニア州中部地区連邦検事のマーティン・エストラーダ氏は、「現時点で大谷氏は本件の被害者と考えられる」と語っている。
『USAトゥデイ』の取材に対し、MLBは以下の声明を発表している。
「当局による徹底した調査の結果、連邦検事局が水原氏を銀行詐欺の罪で追訴したことをリーグは承知しています。この調査では、大谷翔平は詐欺の被害者とみなされており、違法なブックメーカーを通じた賭博を許可していた証拠はありません。さらに、この調査を通じ、水原氏による野球賭博の証拠も見つかりませんでした。本日開示された事実、さらにリーグが集めた情報に基づき、刑事訴訟の解決を待って、更なる調査が必要か判断する予定です」
銀行詐欺は、最長30年の懲役が科せられる重罪となる。
※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集:石山修二