MLBロサンゼルス・ドジャースは3月20日(水)、大谷翔平の資金を「巨額に窃盗」し、スポーツ賭博に使った疑いがあるとして、長年にわたる大谷の友人であり、通訳を務めてきた水原一平氏を解雇したと発表した。
水原氏の解雇は、数百万ドル規模の賭博組織を運営していたことで連邦政府の調査下にある南カリフォルニア在住のマシュー・ボイヤー氏と水原氏の関係について詳細に報じたロサンゼルス・タイムズの記事が出たその日に行われた。広範囲にわたる本調査ではすでに10名以上が告発されており、その中にはドジャースの元選手であるヤシエル・プイグの名前も含まれている。
ボイヤー氏に関する調査の中で大谷の名前が浮上した事実をロサンゼルス・タイムズが発見した段階で、大谷の代理人は水原氏の行動を調査したという。
「メディアからの問い合わせに応じる中で、翔平が巨額の窃盗の被害者となっていることが判明した。我々は本件を当局に引き渡している」とウェストハリウッドのバーク・ベトラー法律事務所は声明を出している。
ここでは、水原氏を取り巻く嫌疑についての最新情報をまとめる。
大谷翔平の通訳者が解雇された理由
大谷がドジャースと超大型契約を結んだ際にチームに加わった水原氏は、20日(水)に韓国で行われたサンディエゴ・パドレスとの開幕戦でもダグアウトに姿を見せていたが、その数時間後に解雇された。
大谷の広報担当者は当初、ESPNの取材に対し、大谷が水原氏の賭博による負債を返済すべく数百万ドルを振り込んだと語り、水原氏にESPNの90分にわたるインタビューを受けさせた、としていた。
「彼(大谷)は明らかに不満そうだったが、二度とこんなことをしないように助けるといってくれました」と水原氏はESPNの取材で語っている。
「そして、私のために(負債を)支払ってくれると決めてくれました」
だが、米国時間水曜の午後、水原氏は自らの発言を撤回。大谷は自分の長年にわたる賭博の負債については何の認識もなかった、と改めてESPNに語った。つまり大谷は、水原氏が賭博で作った負債の返済のためと分かっていて送金したのではない、ということになる。
そして、大谷の広報担当者もまた、水原氏の最初の発言を否定し、大谷の弁護士が追って声明を出すとコメントした。その声明の中で弁護士は、29歳のスーパースターは「巨額の窃盗」の被害者だとしている。
こうなると疑問なのは、ESPNのティシャ・トンプソン記者が報じた、少なくとも450万ドル(約6億7500万円/1ドル150円換算。以下同)が大谷の口座から送金されているという事実をどう理解するか、だ。連邦当局は、ボイヤー氏の賭博組織を調査する中で大谷の口座から送金が行われていたことを発見している。
こうした矛盾が浮上する中、水原氏はESPNに対して、自分の賭博行為について大谷は「全く関与していません」と明確にコメントした。当初は米大手ブックメーカーの『DraftKings』(ドラフトキング)を通じて賭けをしていたが、ボイヤー氏を通じての賭けも合法だと信じていた、と語っている。
ESPNによれば、水原氏は2021年、サンディエゴでポーカーをした際にボイヤー氏と出会い、その後まもなく彼を通じて賭けを行うようになったが、2022年末に負債額は100万ドル(約1億5000万円)を超え、その後も増え続けたという。
「(賭博については)まるでダメ、二度とやりません。一度も勝ったことがないんです」と水原氏は言う。
「自分から穴に落ちて、深みにはまってしまいました。負けから抜け出そうと高額の賭けをして負け続けました。雪だるま式でした」
大谷翔平の通訳、水原一平氏とは?
日本で生まれ、南カリフォルニアで育った水原氏は、大谷が日本プロ野球・北海道日本ハムファイターズでプレーしていた時代、アメリカ人選手の通訳として働いていたときに大谷と出会った。そして2017年、大谷がロサンゼルス・エンゼルスに加入すると、水原氏もエンゼルスと契約した。
以来、水原氏は2021〜2022年のMLBのロックアウトの時期を除き、6シーズンにわたって大谷の通訳を務めてきた。
通訳としての業務以外にも、水原氏は日常の買い物から練習相手、対戦相手のビデオやスカウティングリポートのチェックなど、多方面で大谷をサポート。2021年のオールスターのホームラン競争ではキャッチャーを務めたほか、日本代表が2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を制した際にはベンチ入りもしていた。
2023年シーズン終了後、大谷がフリーエージェントとしてドジャースに加わると、水原氏も大谷とともにエンゼルスからドジャースへと移っていた。
大谷が18歳だった2013年に出会って以来、水原氏は大谷がそのプロキャリアを通じて信頼してきた親友だった。
水原氏は野球賭博を行なっていたのか?
水原氏はESPNの取材に対し、海外サッカー、NBA、NFL、大学フットボールには賭けていたが、野球賭博は行なっていないと語っている。
「野球には一度も賭けたことはありません。これは100%言えること。ルールは理解していました。スプリングトレーニングでもこのことについてミーティングがありますから」
MLBの従業員・選手は野球以外のスポーツ賭博を行うことは許されているが、違法賭博については禁じられている。
水原一平氏の給料は?
ESPNの取材に対し、水原氏は大谷翔平の通訳としてロサンゼルス・エンゼルス、ロサンゼルス・ドジャースから年間30万〜50万ドル(約4500万円〜7500万円)の報酬を得ていたと語っている。
大谷翔平の契約
投手兼指名打者の『二刀流』で活躍する29歳の大谷は昨年12月、フリーエージェントとしてドジャースと10年間7億ドル(約1050億円)の契約を結んだ。
大谷の契約にはトレード拒否権が含まれるが、いわゆるオプトアウト条項(契約を破棄できる条項)は含まれていない。ただし、ドジャース編成本部長のアンドリュー・ブラウンか、マーク・ウォルター・オーナーがチームを離れた場合には契約を破棄できる『キーマン条項』が含まれている。
また大谷の契約は、巨額の後払い条項が含まれている。大谷が10年間に受け取る額は年間200万ドル(約3億円)だが、契約後の2034年から2043年には毎年6800万ドル(約102億円)を受け取る契約となっている。
マーク・ボイヤーとは何者?
ボイヤー(48)は、違法賭博運営の嫌疑で連邦政府の調査対象となっている人物だ。
南カリフォルニアのブックメーカーで、これまでに起訴歴はないものの、今回は重罪に問われる可能性があるとESPNは報じている。昨年、連邦政府による調査の一環として、特別捜査官による自宅の強制捜査を受けている。
オレンジカウンティ在住のボイヤーは、コネチカット州のカジノがボイヤーに対して発行した信用枠の不履行に対して175万ドル(約2億6250万円)の支払い判決を下したのをはじめ、過去に何度となく裁判所への申し立ての対象となっている。2011年には、施設の不備によって25万ドル(約3750万円)の小切手が不渡りになったとするボイヤーを相手取り、ラスベガスのアリア・リゾート&カジノが訴訟を起こしたが、訴えは半年後に取り下げられた。
※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集:石山修二