3月20日(水)、大谷翔平の通訳を長年にわたって務めてきた水原一平氏がロサンゼルス・ドジャースを解雇された。大谷の代理人は水原氏が賭博による負債を返済するため数百万ドルを盗んだとしている。水原氏はすでに、カリフォルニア州で違法賭博を運営、FBIの調査対象となっているブックメーカー、マシュー・ボイヤー氏を通じて賭博を行なっていたことを認めている。
今回の一件は、大谷本人がどの程度関与していたかが不透明なこともあって、世界中の注目を集める結果となってしまった。水原氏は当初ESPNの記者に対し、大谷は状況を理解した上で賭博による負債の肩代わりをしてくれた、と語っていた。だが翌日になると発言内容を変え、ボイヤー氏に対する支払いの内容を大谷は知らなかったと主張。大谷の弁護士も、大谷は『巨額の窃盗の犠牲者』だとする声明を発表した。
メジャーリーグ・ベースボール(MLB)は22日(金)、この件について調査を行うことを表明している。
多くの人が疑問に思っているのは、大谷が水原氏を身代わりにして賭博を行なっていたのではないか、と言うことだろう。水原氏の発言の変化、そして年収30万〜50万ドル(約4500〜7500万円/1ドル150円換算。以下同)程度と見られている水原氏にボイヤー氏が数百万ドルの貸し付けを行なったことを考えると、その可能性も否定できない。もし実際に賭博を行なっているのが大谷でなかったとすれば、ボイヤー氏はどうやってこれだけの負債を取り返せると考えたのだろう。
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今回の問題の法的影響はもう一つ疑問を引き起こす。それは、この関与で大谷が起訴される可能性があるのかと言うことだ。
本誌は今回、ネバダ州ならびにアイダホ州で17年間にわたって刑事弁護士として活動してきたダスティン・マルセロ氏に話を聞いた。マルセロ氏は過去にノミ行為での起訴に対する弁護経験も持ち合わせており、現在はアイダホ州カーダレーンでダスティン・R・マルセロ法律事務所を開いている。
マルセロ氏は、大谷の関与がどのような法的影響を持つか、次のように説明する。
大谷翔平に科せられる可能性のある罪状は?
大谷が直面する可能性のある法的問題は、彼自身が今回の賭博行為についてどこまで把握していたか次第といえる。すでに分かっていることは、大谷がボイヤー氏に対して50万ドルの送金を2度、彼自身の名前で行なっているということ。分からないのは、大谷サイドの言うように、これらの送金が不正に行われたものなのか、それとも水原氏が最初に語ったように、大谷も承知の上で行われたものなのか、ということだ。
この両者の違いはどのような影響をもたらすのだろうか。
もし大谷自身が賭博を行なっていたとされたら?
スポーツ賭博を認めないというカリフォルニア州のスタンスは明確だ。ただ、大谷が心配すべき罪状はそこではない。
「FBIは通常、刑法で裁かれるような犯罪で告発しないものです。今回で言えば『違法なブックメーカーを使った』罪で告発するようなことはしません」とマルセロ氏は説明する。
「逆に、電信詐欺、銀行詐欺、税金詐欺といったIRS(米国内国歳入庁)が関与するような違法行為についてはほぼ例外なく告発しています」
「50万ドルを銀行口座に送金しておいて、IRSに報告しないなんてことは認められません。反テロリスト法や銀行法がありますからね。これらのうちのどれか、もしくは複数の法に違反したとされるのは間違いないでしょう」
もし、これらの詐欺行為で有罪判決を受けた場合、大谷は重大な懲役刑、そして罰金を科せられることになる。
もし大谷自身が賭博を行なっていなかったとされたら?
この場合でも、大谷には共同謀議の罪で告発される可能性がある。共同謀議とは、2人以上の人物が違法行為(この場合、非公開の賭博)を行うことに合意し、その合意を実施する意思を持つことを意味する。
ここで重要なのはその『意思』だと言う。
「もし大谷が賭博に関与する意思を持っていなかったとすれば、謀議には参加していなかったということになります」とマルセロ氏は言う。
もし今回の送金は賭博の負債を支払うためのものだと大谷が把握していなかったのなら、何ら問題はない。大谷サイドが突如、発言を修正したのはこのためだろう。
「もし、全ての送金について今大谷が語っている通り、大谷は何が起こっていたのか知らなかったとすれば、何も問題は生じないでしょう」
大谷翔平の今後は?
FBIの調査は現在も進行中だ。大谷を起訴するかどうかは最終的には検察官と連邦検事の判断となる。
「十分な証拠があるかどうかで判断されることになるでしょう」とマルセロは説明する。
「まずは大陪審に持ち込むだけの十分な証拠があるかどうか。実際に持ち込まれれば今度は陪審が起訴するかどうかを判断することになります」
起訴されるかどうかは大谷の証言と調査官の見つけた証拠にどれだけの整合性があるかによって判断される。そのため、大谷サイドからこれ以上、詳細な情報が出てくることはまずないと言っていい。
「刑事事件の弁護士として、我々はまず『何も話すな』と伝えます。話した内容は自分に不利に使用されるかもしれないからです。何を話しても自分のためにならないのです」
もし起訴された場合には、判決が下されるまでは数か月から数年の時間がかかる。
大谷の弁護士にとって次なるステップは『ターゲットレター』と呼ばれる書面が送られてくるかどうかだ。
「その書面は、受取人がFBIの調査対象になっていることを告げるものです。その時点で、何か不正行為を行なったと考えられていること、犯罪を犯した証拠をFBIが集めようとしていることが分かります」
大谷がそうした書面を受け取ったことを示す報道は今のところない。現時点でFBIが関心を示しているのはボイヤー氏との取引が何だったのかについての説明だろう。
もし大谷の関与が犯罪レベルに達していなかったとしても、税法や銀行規制の違反といった、より軽微な罪に問われる可能性はある。それらの訴訟は民事裁判所で執り行われ、通常は罰金のみで刑罰は伴わない。
MLBは大谷翔平を処罰するのか?
MLBが大谷に何らかの処罰を下すかどうかは現時点では不明だ。そもそも、MLBの判断は刑事訴訟とは何ら関係性がない。
「起訴されることはMLBの処罰よりもずっとハードルが高いと言っていいでしょう」とマルセロは説明する。
つまり、仮に大谷が起訴されなかったとしても、リーグから処罰を下されることがないとは言えない。
MLBの選手は野球以外であればスポーツ賭博をすることが許されている。ただし、違法なブックメーカーを通じての賭博は認められていない。リーグのポリシーによれば、「違法なブックメーカーを通じて賭博を行なった選手は、その行為の事実と状況に照らしてコミッショナーが適当とみなすペナルティの対象となる」とされている。
選手、審判、チームやリーグの関係者、従業員が違法な賭博ビジネスを運営、従事していた場合には、コミッショナーによる最低1年間の資格停止処分を受けることになる。
※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集:石山修二