つい先日開幕したと思ったMLBの2024年シーズンは早くも約2週間が経過、ロサンゼルス・ドジャースはナショナル・リーグ西地区のトップを快走している。
このオフのドジャースの動きを見れば、それも当然と言えるだろう。
MLBには他のメジャースポーツのようなサラリーキャップによる年俸総額の上限が存在しない。そのため、ニューヨーク・ヤンキースやニューヨーク・メッツのような資金力のあるチームは法外な契約で選手を補強し、ワールドシリーズ制覇へ手を伸ばそうとしている。
ロサンゼルス・ドジャースもそんなチームのひとつだ。このオフのドジャースはぜいたく税を気にすることなく、大胆にスター選手獲得へ向けて奔走した。その結果、大谷翔平と山本由伸という、このオフの目玉選手2人を揃って獲得することに成功した。
この2人の日本人選手の獲得に、ドジャースは総額10億ドル(約1500億円、1ドル=150円換算、以下同)以上を費やしている。
しかも、ドジャースの補強はそれで終わらなかった。タイラー・グラスノーをタンパベイとのトレードで獲得した上で長期契約を締結。さらにテオスカー・ヘルナンデスを1年契約で獲得し、ウィル・スミスとは10年の契約延長を行った。
その結果、チームが将来的に支払うとして今オフに費やした資金は軽く10億ドル(約1500億円)を超えている。しかも、この金額にはこれまでに契約していた選手の額は含まれていないのだから驚くべき数字と言えるだろう。
ここでは、ドジャースの2024年のチーム総年俸を改めて確認するとともに、MLBの他チームと比べてみる。
ドジャースの2024年チーム総年俸
冒頭にも述べたとおり、MLBにはサラリーキャップによる上限はない。その代わり、「ぜいたく税」と呼ばれる仕組みが存在する。
ぜいたく税とは、正式には戦力均衡税(CBT=Competitive Balance Tax)と呼ばれるもので、小さなマーケットを本拠地とするフランチャイズでもヤンキースやドジャースのような資金力豊富なチームと戦えるようにする制度だ。
ぜいたく税の対象となる各チームの数字は、選手の契約額の平均年俸、年俸以外の追加報酬の総額から計算される。
チーム&選手の契約に関するオンライン情報サイト「Spotrac」によれば、リーグが設定している2024年のぜいたく税のしきい値は2億3700万ドル(約355億5000万円)。この額を超えたチームに対しては、超えた金額に対して『税金』が課せられる。
『税金』のパーセンテージは、そのチームが過去何年にわたってぜいたく税のしきい値を超えているかによって決定される。
- 1年の場合:20%
- 2年の場合:30%
- 3年以上の場合:50%
さらに、ぜいたく税のしきい値をどれだけ超えているかによっても、追加の『税金』が課せられる。
- 2000〜4000万ドル(約30億〜60億円): 12%
- 4000〜6000万ドル(約60億〜90億円): 42.5% (1年目)、45% (2年目以降)
- 6000万ドル以上(約90億円以上): 60%
この他にも、4000万ドル以上の超過チームには、チームが持つドラフト順位の中で最も上位にある指名権を10位後退させるというペナルティが課せられる(ただし、最上位の指名権がTOP6内にある場合は例外となり、2番目の上位指名権が10位後退させられる)。
ドジャースの2024年のチーム総年俸は推定で2億910万ドル(約313億6500万円)となっている。しかし後払い等の報酬が設定が行われているため、ぜいたく税が課せられることになり、結果としてチームが支払う総額は3億8800万ドル(約582億円)にまで膨れ上がる。
大谷翔平の契約の詳細、後払いの金額
昨年12月、大谷はアメリカスポーツ界でも桁外れの10年7億ドル(約1050億円)という超大型契約にサインした。
二刀流のスーパースターの年俸は単純計算では1年あたり平均7000万ドル(約105億円)となる。しかし、実際の契約はそんなにシンプルなものではなかった。大谷がドジャースから受け取る年俸は年200万ドル(約3億円)に設定されていて、残りの金額は契約終了後の後払いとする仕組みになっていた。
つまり、2034年から2043年の10年間に大谷は年6800万ドル(約102億円)を受け取ることになっている。
この契約であれば、平均年俸は200万ドル(約3億円)に抑えられるので、ドジャースはぜいたく税の対象となる額を低く抑えることができるという訳だ。
しかしながら、ドジャースの総年俸はすでにぜいたく税のしきい値を超えていた。そのため、大谷の獲得に際してドジャースは、大谷に支払う年俸200万ドル(約3億円)だけでなく、年平均価値(AAV=Averal Annual Value)の計4600万ドル(約69億円)がぜいたく税の対象にカウントされている。
テオスカー・ヘルナンデスの1年2350万ドル(約35億2350万円)の契約も850万ドル(約12億7500万円)を後払いとすることで年俸を1500万ドル(約22億5000万円)に抑えている。それでもぜいたく税の対象額は2050万ドル(約30億7500万円)となっている。
後払いとなっている金額を考慮し、単純な年俸総額でみると、ドジャースの今年の総年俸はMLBで9位、あれだけのスター選手を揃えていても、決して天文学的な数字というわけではない。
ただ、今オフの補強を始める前からドジャースはすでにぜいたく税のしきい値を超えていたので、ぜいたく税の対象となる総額は大きく跳ね上がる。もし、大谷とヘルナンデスの契約に後払いを導入していなかったとしたら、ドジャースのぜいたく税を含む年俸総額はMLB史上でもっとも高額になっていたはずだ。
MLBのチーム総年俸TOP10
「Spotrac」による2024年シーズン開幕時のMLBチーム総年俸TOP10は以下の通りとなっている。
順位 | チーム | チーム総年俸 |
1 | ニューヨーク・メッツ | 3億170万ドル(約475億5000万円) |
2 | ニューヨーク・ヤンキース | 2億9370万ドル(約440億5500万円) |
3 | ヒューストン・アストロズ | 2億3730万ドル(約355億9500万円) |
4 | フィラデルフィア・フィリーズ | 2億3620万ドル(約354億3000万円) |
5 | アトランタ・ブレーブス | 2億2430万ドル(約336億4500万円) |
6 | トロント・ブルージェイズ | 2億2190万ドル(約332億8500万円) |
7 | テキサス・レンジャース | 2億2030万ドル(約330億4500万円) |
8 | シカゴ・カブス | 2億1630万ドル(約324億4500万円) |
9 | ロサンゼルス・ドジャース | 2億910万ドル(約313億6500万円) |
10 | サンフランシスコ・ジャイアンツ | 1億8790万ドル(約281億8500万円) |
そして、開幕時のぜいたく税の対象年俸総額TOP5は、Spotracによると以下の通りになる。
順位 | チーム | ぜいたく税の対象総額 | ぜいたく税を含めた総額 |
1 | ニューヨーク・メッツ | 3億3650万ドル(約504億7500万円) | 4億1330万ドル(約619億9500万円) |
2 | ロサンゼルス・ドジャース | 3億2450万ドル(約486億7500万円) | 3億8800万ドル(約582億円) |
3 | ニューヨーク・ヤンキース | 3億990万ドル(約464億8500万円) | 3億4930万ドル(約523億9500万円) |
4 | アトランタ・ブレーブス | 2億6320万ドル(約394億8000万円) | 2億6850万ドル(約402億7500万円) |
5 | フィラデルフィア・フィリーズ | 2億5790万ドル(約386億8500万円) | 2億5910万ドル(約388億6500万円) |
※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集:石山修二