球速167km超を連発するテネシー大学ベン・ジョイス投手とは何者か

2022-06-13
読了時間 約3分
Getty Images

『ピッチングニンジャ』(編集部注:ロブ・フリードマン氏。自身のTwitterやESPN、DAZNなどで投手について解説する野球アナリスト)をツイッターでフォローしている人なら、ベン・ジョイスの豪速球を目にしたことがあるだろう。例えば、これがそうだ。ジョイスが投じた時速104マイル(約167.4km)の速球をネット裏から捉えたものだ。

ジョイスはこれよりも速いボールを投げている。最速記録は時速105.5マイル(約169.8km)だ。もしこれがMLBの試合で投げられたものであったら、MLB歴代記録でも2位に相当する。もちろん、米国大学野球では歴代最速記録である。

テネシー大学の救援投手として、ジョイスの豪速球は今シーズンを通してサウスイースタン・カンファレンスの打者たちを圧倒し続けている。現在、テネシー大学は全米体育協会(NCAA)のスーパー地区トーナメントを戦っており、全米大学王座を争うカレッジ・ワールドシリーズへの進出を虎視眈々と狙っている。

スポーティングニュースではジョイスがテネシー大学をポストシーズンに導くまでの道のりを辿ってみた。

ベン・ジョイスが受けたトミージョン手術

ジョイスは2022年に米国大学野球の世界に突如として現れた。しかし、ジョイスが大学野球で投げるところを我々が見ることができるのは今シーズンが唯一のものになるだろう。

なぜなら、ジョイスは1年生ではない。ジョイスは2019年に短期大学であるウォルターズ州立コミュニティカレッジに入学した。NCAA公式サイトによると、ジョイスは2020年の春には初登板を果たしたが、同年秋のシーズンで肘を故障してしまった。双子の兄弟であるザック・ジョイスがトミージョン手術を受けた1年後に、ベン・ジョイスもまた同じ手術を受けることになった。

2020年シーズンを終えると、ジョイスはテネシー大学に編入した。しかし前年秋シーズンに受けた手術のリハビリを理由に2021年シーズンを全休した。(訳者注:米国大学スポーツには”redshirt”と呼ばれる制度があり、故障によってシーズンを全休した選手は翌年も同学年での出場資格を維持することができる)

ジョイスがテネシー大学の選手としてデビューを果たしたのは2022年2月20日のことである。その日ジョイスはジョージア・サザン大学戦で1/3回だけを投げ、打者1人をアウトに打ち取った。

2020年以来投げたことがなかったジョイスがかくも短期間で速球を取り戻したわけをジョイスの父親アラン・ジョイスさんはNCAA公式サイトにこう語っている。

「ベン(ジョイス)は長い間続けて腕を酷使しませんでした。だからまだ新鮮で健康な状態なのです。それくらいしか思い当たることはありません」

ベン・ジョイスの高校時代

2022年シーズンにテネシー大学でデビューするより前に、ジョイスはテネシー州ノックスビルで投げたことがある。

ジョイスはノックスビルにあるファラガット高校に通った。地元の高校野球ではジョイスの速球は群を抜いていたが、スカウト専門サイト『Perfect Game』ではジョイスを州内で81番目の選手にしか評価しなかった。

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地元紙『Knoxville News Sentinel』の記事によると、ジョイスは高校2年生のシーズンでは1度も投げていない。1年で8インチ(約20.3cm)も身長が伸びたことからの成長痛に苦しんだためだ。3年生のシーズンでも登板イニングは24回に留まったため、2部リーグに所属するいくつかの大学からしか誘われることがなかった。

「私は高校でほとんど実績を残すことができませんでした。ウォルターズ州立コミュニティカレッジに入学できたことだけでも幸運だったのです」とジョイス自身は語っている。

ベン・ジョイスの成績

手術から復帰したあとのジョイスの活躍は目覚ましい。テネシー大学の救援投手として29回を投げ、防御率2.48、0.93 WHIP、対戦打者打率.155、奪三振48個、与四死球11個である。

しかし、最も驚くべきことは、ジョイスはテネシー大学の救援投手陣のなかで最高の存在ではないということだろう。カービー・コネルとマーク・マクラフリンという2人の投手はそれぞれ防御率1.08と 1.53の成績をあげている。レドモンド・ウォルシュはチーム最多の7セーブをマークした。カムデン・スウェルは救援投手としてはチーム最多の48回を投げている。

ジョイスは1度だけ先発投手として試されたことがある。5月14日のジョージア大学戦である。結果は評価の分かれるところだ。4回を投げ、2本塁打を含む3失点、奪三振6個、与四死球2個、被安打3本である。

ジョイスは救援投手としてやはり4回を投げたこともある。オーバーン大学戦でのことだ。そのときのジョイスは被安打1本だけに抑え、四死球はゼロ、奪三振6個で、勝利に貢献した。105.5マイル(約169.8km)を記録したのはこの試合である。その日のジョイスは103マイル(約165.8km)以上を28球投げた。全体で速球の数は33球だけであったにもかかわらずである。

ベン・ジョイスのMLBドラフト

ジョイスはMLBドラフトの歴史で最も速いボールを投げる投手になるかもしれない。しかし、救援投手であるということで、ほかの速球投手のような高評価を受けることはないかもしれない。例えば、先発投手だったハンター・グリーンが2017年にシンシナティ・レッズから全体2位で指名されたように、である。

MLB公式サイトのプロスペクト(有望新人)情報をまとめる『MLBパイプライン』ではジョイスを2022年ドラフトで116番目にランクしている。『Baseball America』がつけた順位は131番目だ。

両サイトでは、ジョイスの速球に80点満点(20~80点評価)をつけている。『MLBパイプライン』はジョイスのスライダーについても空振りを奪うことができる球種として評価しているが、さらに磨きをかけることが必要だとも述べている。同サイトはジョイスのスライダーとチェンジアップに50点をつけ、コントロールには45点をつけている。

『Baseball America』もジョイスのコントロールが課題であることと、さらに速球に頼り過ぎる点を改善する必要があると述べている。

(翻訳:角谷剛)

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