スポーツ界には何十年にひとりという才能が出現することがある。そして、競技のルールまでをも変えてしまう才能が出現することもある。
大谷翔平はその後者になった。
ニューヨーク・ポスト紙のジョエル・シャーマン記者によると、MLB機構と選手会は新たな包括的労使協定に「大谷翔平ルール」と呼ぶべき新ルールを加えることに合意した。両リーグに指名打者(DH)制を導入することに伴い、大谷が(そして大谷の後を追うかもしれないほかの選手も)投手として登板する試合の最後まで打線に残ることを容認するものだ。投手と指名打者の両方の立場で同じ試合に出場することが可能になるのである。
ロサンゼルス・エンゼルスに「大谷翔平ルール」が有利に働く事情
これは言うまでもないことだろう。大谷は打率.257、出塁率.372、長打率.592の成績を残し、最優秀選手賞(MVP)を受賞した。新ルールによって大谷の打席数は増え、試合中のラインアップで位置を変更しなくてよくなるからだ。
大谷はジョー・マドン監督に新たな仕事を増やした。昨シーズンは155試合に出場したが、これは日本においてもアメリカにおいてもキャリアハイの数字である。先発登板した試合の平均イニング数は6回をやや下回ったので、エンゼルスは大谷が先発した1試合につきおよそ1打席、大谷のバットに期待できなかったということになる。昨年の大谷が打者として残した成績を考えると、そのことがシーズンを通してチームに与える影響は大きい。
大谷自身に「大谷翔平ルール」が有利に働くワケ
これもまた答えは明らかだ。大谷にとって、心配事のひとつが解決するからだ。二刀流選手として出場するために時間を分けることを懸念する声が多いなか、大谷自身は動じた様子を見せたことがない。マドン監督もかつて大谷がいかに試合中に冷静であるかを話したことがある。それは大谷の大いなる特長のひとつだ。
大谷をフィールドに残す方法がひとつでも増えることは、結果として大谷に有利になる。MLBチームに衝撃を与えた二刀流選手としての位置を長く保つことができ、これからのキャリアでさらに貴重な存在になっていくだろう。
MLBファンにとって喜ばしいワケ
野球はこのことが問題になる唯一のスポーツである。もしNFLの選手が1プレイから外れたとしても、また試合に戻ることができる。バスケットボールとアイスホッケーは常に選手たちを交代させる。野球とサッカーは、一度試合から外れると戻ることができないスポーツである。
大谷が投げていても、投げていなくても、新ルールによって、ファンは大谷を9イニングすべてで見ることができるようになる。大谷が先発登板する試合に心を躍らせたファンは多い。攻守の両方で大谷のプレイを見ることができるからだ。しかし、それが終わってしまうときはほろ苦いものだった。新ルールによってMLBは最後までその楽しみを残してくれる。大谷が6回まで投げたとして、その後も打席に立つことができるのだ。そのために外野などを守る必要もなくなる。まさにウィンウィンである。これほど簡単に解決するとは、思いもよらなかったことでもある。
かつては投手と打者を行き来することの困難が障害になっていたが、これからは二刀流選手を目指す若い才能も増えてくるだろう。これはまだ想像の域を出ないことではあるけれど。
エンゼルスと対戦するチームに「大谷ルール」が不利に働く理由
上に書いたことの裏返しである。大谷の出場機会が増えることは、どの対戦チームにとっても不利になる。
しかしながら、このルールを自分たちも活用することは可能である。それはひとつの希望の光と言えよう。ただ、大谷のような何十年にひとりの逸材を発見しなくてはならないわけだが。
ほかに交渉されたMLBルール
MLB機構と選手会はほかにもいくつかのルールについても合意した。2022年のみ(現在のところは)、延長戦のイニングは2塁にランナーを置いて始めるルールが復活する。そしてダブルヘッダーを9イニング制にするルールも同様に復活する。4月の間はベンチ入り枠が26人から28人に拡大され、投手の人数には制限はない。これは春季キャンプが短縮されたための措置で、5月2日からは26人枠、投手は13人までに戻される。
(翻訳:角谷剛)