アメリカン・リーグMVPレースの行方:大谷翔平は1番人気アーロン・ジャッジを抜き去ることはできるか

2022-07-12
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SN/Getty

2022年のMLB公式シーズンもあと3か月となった。ポストシーズン争いと個人賞レースがヒートアップしている。リーグ最高の投手に贈られるサイヤング賞に関してはアメリカン・リーグ(以下ア・リーグ)もナショナル・リーグ(以下ナ・リーグ)も混戦模様だ。+850 以下のオッズがつけられた投手が7人いる。最優秀選手賞(MVP)に目をやると、まずナ・リーグはセントルイス・カージナルスのポール・ゴールドシュミットがほぼ独走態勢に入っている。

しかし、ア・リーグのMVPレースはかつてないほどスリリングだ。ニューヨーク・ヤンキースの主砲アーロン・ジャッジが本塁打と打点の両部門でトップを走り、MVPオッズは-120で一番手の位置にある。しかし、ロサンゼルス・エンゼルスの二刀流スター大谷翔平が+210でジャッジを追っているのだ。

そうとは見えないかもしれないが、これは非常に僅差のレースである。昨年の同時期、大谷は1か月の間に+120 から -130へとオッズを上げ、ライバルだったトロント・ブルージェイズの主砲ブラディミール・ゲレーロ・ジュニアも同じく+300 から +110へと上げた。大谷は5月から6月にかけて、マウンドとバッターボックスの両方で圧倒的なパフォーマンスを見せ始め、チームメイトのマイク・トラウトを追い抜いた。ゲレーロは7月1日の段階で打率.344、出塁率.446、長打率.685、本塁打26本という、現在のジャッジに匹敵する成績だった。

今年も最後の3か月で何が起こるかは分からない。しかし、もしシーズンが明日終わるとすれば、大谷が2年連続でMVPを受賞するに相応しいだろうか。それとも野球界最高のチームで最も輝かしい成績を挙げているジャッジが自身初めての栄誉を得るに相応しいだろうか。これはどちらのスターが将来的に最も価値の高い選手になるかを問う議論でもある。

大谷翔平のア・リーグMVPオッズ:2年連続受賞はあり得るか

もちろん、その可能性は十分だ。大谷(+210)は昨年度のMVP受賞者であり、ファンからの絶大な人気を得ている選手であり、メディアからの評価も高い。若いファンもオールドファンも同じように、この日本人スターを褒めたたえる。大谷は我々が長い間見ることができなかったことを見せてくれたからこそ、2021年のMVP投票では満票となる30票で第1位を獲得したのだ。大谷は全米野球記者協会のMVP投票で満票を獲得した史上19番目の選手となった。

多くの意味合いにおいて、大谷が野球のフィールドで見せている圧倒的なパフォーマンスは、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)とヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)がバスケットボールのコートで見せているそれとよく似ている。

過去4シーズンでこの2人はどちらも2回ずつNBAのMVPを受賞している。2人とも7フィート(約213cm)を越える長身選手として、このスポーツでかつて誰もできなかったことを成し遂げている。爆発的な攻撃力だけではなく、ヨキッチはパス、試合運び、そしてシュートも超一流であり、アデトクンボはパス、スラッシュ、そしてディフェンスにも長けている。大谷が野球界に与えている衝撃もこの2人に比肩する。サイヤング賞級の投手力、シルバー・スラッガー賞級の打撃力、そしてチーム全体を引っ張る能力を兼ね備えているのだ。

しかし、今年の大谷はMLBの主要な成績分野でひとつもトップに立っていない。投手としても、打者としても、である。昨年のこの時期、大谷はMLBトップの31本塁打と12個の盗塁を記録していた。7月8日現在、大谷の成績は18本塁打と10個の盗塁である。投手成績は大きく向上した。昨年全体の投手成績は9勝2敗、防御率3.18、1.09 WHIPであったが、現在のそれは8勝4敗、防御率2.44、0.99 WHIPである。これらは多くの投手分野でトップの座に近づきつつある。

大谷は5連勝中である。直近3回の先発登板で合計34個の三振を奪い、与えた四死球は僅かに5個だ。最後に大谷が自責点を失ったのはいつのことか知っているだろうか。6月9日である。それ以来29イニングで連続して自責点0を積み重ねているのだ。そしてその日から、打者としては打率.305、出塁率.398、長打率.634、OPS 1.032 の成績である。大谷がエンゼルスを引っ張っている。大谷の働きがなければ、現在38勝46敗のチーム戦績は30勝54敗に近くなっていたかもしれない。

打者と投手の両方をこなす選手の貢献度を評価することは難しい。どれほどの強打者であったとしても、大谷以外のどの打者も大差がついた試合以外ではマウンドに近づくことさえないのだ。ベーブルースがいた時代からずっと、投打で大谷のような圧倒的なレベルのパフォーマンスを見せた選手は野球界に誰もいない。

大谷は二刀流選手であるという、それだけでもうMVPの座を安泰にしてしまったのだろうか。逆に言うならば、ジャッジのようにいくら本塁打を量産しても、それだけではもうMVP投票者の関心を引くことはないのだろうか。大谷がどの成績分野でトップにいなくても、全米野球記者協会は二刀流での信じがたい活躍を野球界最高の選手として認めるのだろうか。

たとえばアメフトは上記と似たような議論が交わされるスポーツである。過去2年間、NFLでは圧倒的な攻撃成績を収めた、しかしクォーターバック(以下QB)ではない選手がいるが、それでもMVPレース上位は毎年のようにQB選手たちが独占しているのだ。

2021年、ロサンゼルス・ラムズのワイドレシーバーであるクーパー・カップはキャッチ(145)、ヤード(1945)、タッチダウン(16)、そしてファーストダウン(89)でNFLトップの成績を残した。だが、カップはMVP投票で50票中1票しか獲得しなかった。受賞者のアーロン・ロジャース(グリーンベイ・パッカーズ)が39票、2位のトム・ブレイディ(タンパベイ・バッカニアーズ)は10票だった。言うまでもないことだが、ロジャースもブレイディもQBである。

その前年、テネシー・タイタンズのランニングバックであるデリック・ヘンリーはラッシングヤード(2027)、タッチダウン(17)、ファーストダウン(98)でリーグトップだった。これは2012年にMVPを受賞したエイドリアン・ピーターソン(通称AP)が記録した2097ヤードに次ぐラッシングヤードであり、史上5番目の記録でもある。しかし、ヘンリーはMVP投票では1票も獲得しなかった。ロジャース、ジョシュ・アレン(バッファロー・ビルズ)、そしてパトリック・マホームズ(カンザスシティ・チーフス)という3人のQB選手が1、2、3位を独占したからだ。

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ツイート訳:打点がMLBで公式の指標となった1920年以来、大谷翔平は以下を同一試合で達成した史上初の選手となった。

  • 投手として10奪三振
  • 打者として2打点
  • 1盗塁

現代のMVPについて議論するとき、大谷はQBの野球バージョンなのだろうか。もしジャッジがシーズン60本塁打を達成したとしても、それは今までにも起きた出来事である。そしてジャッジは大谷ほどチームに貢献しているわけではない。スポーティングニュースのベテラン記者ジェイソン・フォスターを始めとする多くのスポーツ記者たちが、大谷の貢献度と強打者のそれを比較する方法がないと指摘している。

アーロン・ジャッジのア・リーグMVPオッズ:本来なら大本命に相応しいヤンキースのスター選手

大谷はこれほどまでに驚異的であるが、それでもジャッジ(-120)が現在の1番人気であることには十分すぎるほどの理由がある。この30歳の外野手はMLB全体トップの30本塁打と65得点、そしてア・リーグでトップの64打点を挙げているのだ。打率.287、出塁率.366、長打率.627 、そしてOPS .993の打撃成績である。そして盗塁も7個成功している。身長2メートル、体重127キロの選手としては信じがたい数字だ。

ジャッジがこのままの調子を保つと、シーズン本塁打62本、130打点、OPS+ 180のペースだ。シーズン62本塁打となればア・リーグ記録であり、MLB全体でもバリー・ボンズが2001年に打った72本以来の最多記録である。ジャッジのチームメイトであるジャンカルロ・スタントンがマイアミ・マーリンズ時代の2017年に59本塁打、ニューヨーク・メッツのピート・アロンソ一塁手が3年前に53本塁打を、それぞれ記録している。2006年にフィラデルフィア・フィリーズのライアン・ハワードが58本塁打を記録して以来、シーズン60本塁打に近づいた選手はそれ以外にはいない。

ジャッジには個人成績でもチーム成績でも歴史的なパフォーマンスを演じることが求められている。大谷が現在の野球界に見せつけている、まるでゴジラのようなパワーを上回らなければいけないからだ。そして歴史を作るためには、ジャッジは故障することなく、ずっと出場し続けなくてはいけない。これまでのキャリアを通じて、本来なら最高峰の強打者であるべきジャッジの最大かつ唯一の問題は故障欠場の多さである。2018年から2020年までの3シーズンで、ジャッジはヤンキースが戦った試合の63%にしか出場していない。

昨年、29歳のシーズンを迎えたジャッジは、162試合中148試合に出場し、39本の本塁打を打った。MVP投票では大谷、ゲレーロ、そしてマーカス・セミエンに次ぐ第4位だった。そして契約最終年にあたる今シーズン、ジャッジはここまでヤンキースの顔として、83試合中80試合に出場している。そしてヤンキース(60勝23敗)は2番手のヒューストン・アストロズから6勝分を引き離す、MLB最多勝利チームである。

60勝23敗とは、シーズン117勝のペースである。それはMLB史上シーズン最多勝利記録になる。1906年のシカゴ・カブス(116勝36敗)と2001年のシアトル・マリナーズ(116勝46敗)が116勝に到達した史上2つだけのチームである。そのシーズンのカブスは歴史的な勝率.746で、今後も破られることはないであろう記録と言われている。

私の推論では、ジャッジがMVP候補1番手であり続けるためには、以下の条件が必須になる。本塁打数、打点、得点でリーグトップを保つこと、そしてチームがMLB最高の成績を収めることだ。大谷はたしかにユニコーン(希少な存在の比喩)だ。毎日のように我々を驚かせてくれる。しかし、メジャーの主要成績分野でひとつもトップを取れないようであれば、リーグ最高チームの最高選手が演じる歴史的パフォーマンスに匹敵することはできない。

大谷がこのスポーツにおいて最も価値が高い選手であることには変わりはない。もしリーグ全体でドラフトをやり直すとしたら、大谷ではなくジャッジを選ぶ監督はいないだろう。しかし、ジャッジのパワーと投票者の慣れに打ち克つためには、大谷はもう少し数字ではっきりと優越した成績を挙げる必要がある。

そのようなわけで、現在のところ、2022年ア・リーグMVPの本命はアーロン・ジャッジである。

ア・リーグMVPの対抗馬たち

シーズン後半に大谷とジャッジを追い抜く可能性があるダークホースはそれほど多くはいないが、それでも忘れてはならない名前もいくつかある。ヒューストン・アストロズのヨルダン・アルバレス(+550)はMLB2番手チームに所属する最高の打者だ。長打率(.665)、OPS (1.076)、そしてOPS+ (202)はMLB全体でトップであり、本塁打数(26)と打点(59)でもジャッジに肉薄している。ボストン・レッドソックスのラファエル・デバース(+2000)はMLB最多となる106本の安打と192走塁打を打ち、ア・リーグ最多となる27本の2塁打を打ち、打率は.330である。クリーブランド・ガーディアンズのホセ・ラミレス(+3000)とエンゼルスのマイク・トラウト(+1300)はMVPレースの常連であり、いつでも脅威となる存在だ。

アルバレスの+550は控えめなオッズかもしれない。それほどまでにアルバレスもアストロズも破壊的であるからだ。しかし、私はそれでも、最後の3か月間は大谷とジャッジのトップ2が争う展開になると予想する。そしてそれは、非常に華やかで、そして多くの物議を醸すMVPレースとなるだろう。

(翻訳:角谷剛)

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