無関心は怒りより問題の根が深いとはよく言われることだ。もしそれが的を射ているとすれば、MLBは危機に瀕しているのかもしれない。
MLBのロックアウトが始まってから1か月以上が経過した。交渉はほぼ進んでおらず、春季キャンプトレーニングの招集日は近づいている。そして多くのスポーツファンは怒りの声を…それほどあげてはいない。
シートン・ホール大学(ニュージャージー州)が最近公表した世論調査を信じるとすれば、多くのスポーツファンはロックアウトの状況が遅々として進まないことに対して怒りもあせりも感じておらず、むしろ無関心なのだそうだ。
1,570人の成人を対象としたアンケートが先月行われ、自らを熱心なスポーツファンだとする回答者の44%がMLBの2022年シーズンが開幕しても関心は減るだろうと答えた。この数字はMLBを揺るがすには十分に大きい。だがもし経営陣がこれを無視しようとしても、さらにやっかいな結果が調査で明らかになった。一般人の54%がそもそもMLBに興味がないと回答したのだ。
米野球界の現状にどれだけ楽天的になろうとしても、この調査結果はMLBの選手と経営陣にとって悪いニュースであることは間違いないだろう。ロックアウトが長引けば、無関心層はさらに広がっていく。
同大学のスポーツ経営学部長チャールズ・グランサム氏は次のように述べている。「経営側が始めたロックアウトにしろ、選手側が始めたストライキにしろ、過去に労使争議でシーズンが中断されたときにファンは戻ってきました。しかし、現在はエンターテイメントの世界には厳しい競争があります。これらの数字は喜ばしいものではありませんし、下降している人気と集客力を取り戻そうとするスポーツは深刻に捉えるべきものです」
いくつかの影響要因を考慮に入れても、これらの調査結果は憂慮するべき状況を示唆した他の証拠と一致する。
MLBの2021年シーズンにおける観客数は過去37年間で最低となった。1試合平均の観客数は5シーズン連続(無観客開催の2020年シーズンを除く)で下落している。2021年のシーズン前半はパンデミックによって入場者数が制限されていたこともその大きな原因の1つではあるが、それだけではないことを示す数字が他にもある。自宅からの視聴者数が増えているわけではなく、2019年からは12%下落したのだ。地方によってはテレビ中継を視聴する選択肢が減ったこともあるが、野球観戦を楽しみにする人の数そのものが減っていることは否定できない。さらに、観戦者層が高齢化しているのである。
2000年には52歳だったMLBファン・視聴者の平均年齢は2017年には57歳に上った。他のスポーツと比較すると、NFL(50歳)、NBA(42歳)、NHL(49歳)、そしてMLS(40歳)である。野球界が若いファンと多様な観客層を開拓するためには、大きな困難に直面していることは明らかである。しかし、そのためには中断がない通常のシーズンがなくてはならない。このままロックアウトが続けば、MLBのファンや将来のファンは他のエンターテイメントを見つけるだろう。長期的にはMLBは文化的な影響力が減るだけではなく、さらなる収入減少の危機にさらされることを、これらの数字は明確に示している。
そしてこうした議論はいつもの繰り返しになってしまう。野球というスポーツが抱える根本的な問題が取り沙汰されるのだ。長い試合時間、遅いペース、少なくなるアクション、下手なマーケティング、不足したリーダーシップ、などなどである。しかし、こうした話題に新鮮さが失われているとしても、その重要性が減ることはない。
もっとも、最近のMLBにもいくつかの良いニュースはある。昨年8月の「フィールド・オブ・ドリームス」マッチは好評であったし、2021年ワールドシリーズの視聴率は僅かながらも向上した。ストリーミング・アプリやインターネット視聴による試合観戦も増えてきている。それでもスポーツ及びエンターテイメント全体で見ると、野球への関心が減っていることは間違いない。娯楽の選択肢そのものが増えてきていることを考えると、それも無理からぬことかもしれない。とはいえ、無視してよい問題でもない。
MLBはこれまでの長い間、「我々がプレイすれば、彼らはやって来る」のメンタリティー(訳者注:映画『フィールド・オブ・ドリームス』の有名なセリフ、「野球場を作ったら、彼らはやって来る」のもじり)でやってきたように思える。そのような楽観的な考えに何十年も浸り、刺激に乏しく、スターが不在で、観戦費用が増え続けていることが、野球の人気が低下していることの原因であると信じていなかったようだ。「彼らはやって来るよ、レイ。きっと来る」と言わんばかりに。
映画のセリフに野球のあるべき理想の姿を見出していても、そうしたセンチメンタリズムはずっと以前から現実でなくなっている。そして、現在の状況を鑑みると、それがいかなる現実になる可能性はほぼない。
何があったとしても、熱心な野球ファンがこのスポーツから興味を失うことはないかもしれない。しかし、そうした人々を繋ぎ止めることが目標であってはならない。特に野球ファンは他のスポーツに比べて高齢化しているのだから。若いファンを野球場に呼び込み、このスポーツに目を向けさせることこそが、将来に向けた重要な課題になるのである。
ロックアウトが長引けば、それだけMLBのオーナーと選手たちの連帯感と野球に対する危機感は小さくなっていく。そして問題はさらに厳しくなっていくのだ。
MLBのオーナーと選手たちはシートン・ホール大学の調査結果を覆すにはどうすればよいのか。手遅れになるまでにどれだけの時間が残されているのか。多くの解決策が議論されるべきだが、1つだけはっきりしていることがある。彼らは試合をしなくてはならないということだ。MLBは披露するべき商品を持たなくてはならない。だからこそ、MLBと選手たちはこの労使協議を早急に終わらせ、何百万人ものファンと潜在的な顧客に最新の商品をアピールしなくてはならない。
現代の野球には良いところも多くある。しかし、何も見るものがなければ、ファンが夢中になることはできない。2022年シーズン開幕が遅れることになれば、短期的な収益にも、長期的な回復にも、大きな潜在的なリスクを生み出すことになる。シーズン開幕は遅らせるべきではない。
「我々がプレイすれば、彼らはやって来る」が適切な経営方針であり得た時代もあったのかもしれない。しかし、もはや我々がそのような時代にいないことは確かだ。それ以外に考えなくてはならないケースも存在する。もし野球がこれ以上一般のエンターテイメントに埋もれていったとしたら…もその1つのケースである。
そうなってしまうと、野球の存在意義が低下してしまう結果へと繋がりかねないのだ。
(翻訳:角谷剛)