大谷翔平のショウタイム締めくくりは3000万ドル(約43億円)契約。まさに「おめでとう」なのだが、これで日本から大物選手がカラになるかも知れない。その功罪は…。
破天荒な契約
これまで日本選手はどんな契約でメジャーリーグに行ったか。
2000年にオリックスのイチローがマリナーズに入ったときは3年・1300万ドル。すごい、という声が上がった。
その3年後、巨人の松井秀喜がヤンキース入り。2100万ドルだった。イチローの1年平均450万ドルを大幅に更新し、びっくりさせた。
野茂英雄、イチロー、松井の活躍で日本選手の株が上がった。西武の松坂大輔が2006年に6年・5100万ドルでレッドソックスに入団したとき、みんな驚いた。「夢のような数字だな」と。
それから7年後の13年、今度は「天文学的な数字」との声が日本中に広がった。楽天の田中将大がヤンキースと7年・1億5500万ドルでサインしたからである。
両投手の1年平均は、およそ松坂が850万ドル、田中が2200万ドル。
そして大谷の1年・3000万ドル。形容のしようがない、あきれたような評価がメディアから流れた。日本球界にとって「破天荒な数字」だったからである。
1日も早くメジャーリーグに行きたい
大谷の破天荒な契約はプロ野球のスター選手に心地よい刺激を与えた。
「すごい契約。大いに魅力。ぜひ行きたい」
1シーズンでも日本より10倍以上の年俸を得る可能性があるからで、投手も打者もうきうきしている。
しかも、メジャーリーグはかつてなく日本選手の実力を高く評価している。2ケタ勝利の投手はみんなリストに載っていると聞く。ホームラン打者もDHで使えるので狙われている。
投手でいえばオリックスの山本由伸と宮城大弥、ソフトバンクの千賀滉大、西武の高橋光成、ロッテの佐々木朗希、阪神の青柳晃洋、DeNAの今永昇太、巨人の戸郷翔征、広島の森下暢仁、中日の小笠原慎之介ら。クローザーも名前が挙がっている。楽天の松井裕樹、西武の平良海馬、DeNAの山崎康晃、巨人の(翁田)大勢、広島の栗林良吏ら。
打者ではまずヤクルトの村上宗隆と西武の山川穂高に、オリックスの吉田正尚、阪神の佐藤輝明と大山悠輔、ロッテの山口航輝ら。
海外FAの権利(9年)がなくても球団が了解(ポスティング制度)すればメジャーリーグに行くことが可能で、これは大谷の例が示している。
大谷は日本ハム入りしたとき、二刀流とメジャーリーグ行きを球団が入団条件として認めていたといわれる。この例にならって新人選手が入団する際に、メジャーリーグ行きの選択権を持つこともありうる。
以上の選手がメジャーリーグに行ったら日本のプロ野球界は寂しくなってしまう。当然、観客動員に響く。大谷の破天荒契約は、選手個人には「功」でもプロ野球界には「罪」となる可能性がある。
大物といわれる選手たちは「1年でも早く、若いうちにメジャーに行きたい」との意を強くしているに違いない。プロ選手なら当たり前のことである。
村上がいないプロ野球は…
いまの最大の関心事は、史上最年少(22歳)の三冠王を達成した村上がメジャーリーグに行くかどうか-である。22年の成績は打率3割1分8厘(155安打)、56本塁打、134打点。
メジャーリーグが最高評価をしているのは王貞治の55本塁打を破ったことで、メジャーリーガーにとっても大ニュースだった。王はメジャーリーグ最多本塁打の記録を持っていたハンク・アーロンをはじめ、メジャーリーグのスパースターたちが認めた打者として知られる。その王のシーズン記録を破ったのだから、村上の評価は素晴らしく高い。村上を指名打者としてどの球団も欲しがるのは当然だ。
23年シーズンの契約でヤクルトがどのくらい提示するか。それがカギとなるだろう。10年・100億円くらいを示さなければ、村上のメジャーリーグ行きは現実のものとなる。10年契約でも最終年齢は32歳。まだ全盛時代の年齢である。
メジャーリーグ球団は大谷の契約に見られるように、信じられない超高額契約をする。こんな例があった。FA制度が導入されてから間もない1981年、ヤンキースが29歳のデーブ・ウィンフィールド外野手(通算3110安打、465本塁打)を10年・2300万ドルで獲得した。今、22歳の三冠王の値段を競わせたら、大谷をしのぐかも知れない。
村上のいないプロ野球…。ファンにとって寂しい将来がやって来るかも知れない。王の言う「これからいばらの道」を歩む村上も、その村上を処遇するヤクルトも大変な責務を背負ってしまったといえる。