ヒューストン・アストロズがワールドシリーズ制覇の1週間後に元GMジェームズ・クリック氏を解任した理由

2022-11-14
読了時間 約3分
(Getty Images)

ワールドシリーズを制し、来季も順風満帆でのスタートを切ると思われていたヒューストン・アストロズの首脳部が揺れている。2017年以来、チームの健全化を担ってきたGMのジェームズ・クリック氏がチームを離れることになった。その内情を本誌デイビッド・サッグス(David Suggs)記者が解説する。

オーナーとの「スタイル」の違いが確執に

それはまさに「クリック」したくなる誘惑を抑えきれないニュースの見出しだった。

ヒューストン・アストロズが球団創設以来2度目となるワールドシリーズ制覇を果たしてから1週間後、球団フロント・オフィスに重大な変更を行ったのだ。世界チャンピオンのチームを編成したジェームズ・クリック氏が球団を去ることをESPNのジェフ・パッサン記者が報じた。クリック氏が1年契約延長の申し入れを拒絶したということだった。

パッサン記者のツイート:
「ワールドシリーズ制覇を成し遂げたGMのジェームズ・クリック氏が球団からの1年契約延長の申し入れを拒否し、ヒューストン・アストロズに戻らないことを決めた」

クリック氏の退団は衝撃的なニュースだった。アストロズは継続性を重視する組織だと思われていたからだ。しかし、どうやらそれは「金メッキ」のようなものだったらしい。球団オーナーのジム・クレイン氏との確執が続き、ついに堤防が決壊してしまったと見るべきだろう。

『USA Today』紙のボブ・ナイチンゲール氏はクリック氏の退団は双方の合意によるものではなかったと報じた。むしろ「解任された(編注:原語ではFire=解雇、クビを意味する、より強い言葉で表現されている)」が真実に近いということだ。

ナイチンゲール氏のツイート:
「実際にはジェームズ・クリック氏はGMを解雇された。11月7日にクリック氏は1年契約と100万ドル(約1億4000万円)からの報酬上積みの打診を受けた。しかし、長期契約を望んでいた氏はそれを拒否した。そしてGM会議上で不満を公にしたことで、11月11日、クビにされた」

クリック氏の退団について知っておくべきことは以下の通りである。

なぜヒューストン・アストロズはジェームズ・クリック氏を解任したのか

アストロズが2度目のワールドシリーズ戴冠へと突き進んでいた間、水面下では極度に緊張した状況が続いていた。アストロズがこの数年間に好成績を挙げていることもあって、クレイン氏は野球界きっての名オーナーであるとの評判が高く、アストロズのファンからも大きな支持を得ていた。

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しかし、『The Athletic』誌のケン・ローゼンタール記者の記事によると、どうやらクライン氏は働きやすい上司ではなかったようだ。2017年のワールドシリーズ制覇を台無しにしてしまったサイン盗みスキャンダルが大問題になった後にクリック氏は球団に迎えられた。そしてクライン氏の下で働くという困難を身をもって経験したきた。

ローゼンタール記者によると、クリック氏とクレイン氏の間には「スタイルの違い」が存在した。クレイン氏は短期間に結果が出る補強策を取ることで知られている。一方でクリック氏はより総合的な視野を持ち、時間はかかっても慎重な決断をすることで知られている。

両者がそれぞれの立場で重要な役割を担うことがうまく作用したことが今年のワールドシリーズ制覇に繋がったとも言える。しかし、そのバランスは不安定なものだった。とくにクリック氏が11人のスカウトと2人のGM補助を昨年のオフシーズンに雇い入れてからは(クレイン氏にとってははした金のはずではあるが)。

クリック氏とクレイン氏の間にはそれ以前から問題があった。68歳のクレイン氏はジェフ・バグウェル氏、レジー・ジャクソン氏、そしてイーノス・キャベル氏らと密接な関係を維持していると言われている。チームの輝かしい成功にもかかわらず、クリック氏の立場は危ういものだったのだ。

クリック氏とダスティン・ベイカー監督の契約はどちらもワールドシリーズ期間中に終了した。73歳のベイカー監督は1年契約でのチーム復帰を受け入れた。44歳のクリック氏は野球界きっての若き経営者と目されているが、同じく1年契約と100万ドル(約1億4000万円)からの報酬上積みを打診された。しかし、MLBにおけるクリック氏の立場からすると、この打診内容は(とくに契約年数は)侮辱以外の何物でもなかった。そしてクリック氏はMLB全体のGM会議中にその不満を口にしてしまったようなのだ。そのことでクレイン氏が態度を硬化させ、GM解任の決断をしたというのが実情のようだ。

アストロズが抱えるフィールド内外での有力な人材層を考えると、ほかのGM候補者たちがミニッツメイド・パーク(アストロズの本拠地)の責任者となるチャンスを見送ることは想像しにくい。しかし、クレイン氏がこのような形で才能ある人材を手放したことはMLBにとって無視できない悪例として赤信号を発するだろう。ローゼンタール記者は以下のように述べている。

クレイン氏は気に留めてもいないようだ。そうするべきなのかもしれない。しかし、クリック氏への対応はオーナーの独裁下におかれている球団の不幸なエピソードに加えられるはずだ。せっかく汚染されていないワールドシリーズ王座を勝ち取ったばかりであるのに。クリック氏がクレイン氏からの打診に反発したとしても、それを非難することは難しい。

原文:Why did the Astros fire James Click? 'Airing of grievances' leads to Houston GM's shock departure one week after World Series win 
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部

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