ダブル規定到達の大谷翔平がロサンゼルス・エンゼルスと交わした、調停権を持つ選手としての記録的な契約が持つ意味

2022-10-06
読了時間 約4分
Getty Images

今季中のトレードも騒がれた大谷翔平がロサンゼルス・エンゼルスと1年契約を結んだ。その額は今季もリアル二刀流でMVPレース最右翼を争う選手にとって相応しい金額になったとされるが、同時に移籍市場においては別の意味を持つ。調停件を持つ選手として大谷がエンゼルスと交わした1年契約について、エドワード・ステラン(Edward Sutelan)記者が解説する。

ダブル規定到達など新たな歴史を作り続ける大谷翔平

大谷翔平がロサンゼルス・エンゼルスの試合に出場するたびに歴史が塗り替えられていくようだ。10月5日(日本時間6日)には、規定打席(502打席)到達に続いて、規定投球回(162回)に達し、近代野球史上初となるダブル規定到達という記録を打ち立てた。そしてまた大谷はフィールドの外でも新たな歴史を作った。

エンゼルスは10月1日に公式な声明を発表し、大谷との年俸調停を回避し、2023年シーズンの1年契約を3000万ドル(約43億5000万円=1ドル約144円、以下同)で合意したことを明らかにした。すでに大谷は来シーズンまでエンゼルスの支配下にあるが、この契約合意によってフリーエージェントになる直前シーズンの年俸が決定した。
この契約額は、調停権(メジャー登録3年以上6年未満の場合、球団と年俸調停ができる)を持つ選手の契約としてはMLB史上最高額である。それ以前の記録はムーキー・ベッツが2020年1月にボストン・レッドソックスと契約した2700万ドル(現在の為替レートに換算すると約39億1500万円)だった。

エンゼルス広報ツイート:
エンゼルスは本日、先発投手でもあり指名打者でもある大谷翔平選手と2023年シーズンの1年契約3000万ドルで合意しました。 この合意により、年俸調停は回避されました。

この契約には多くの長期的な影響が予想される。大谷がフリーエージェントになる日は近づきつつあり、他チームはこれからのオフシーズンで大谷のトレード獲得に動くかどうかを迷っているからだ。

大谷翔平の契約が2023年とそれ以降に意味するもの

2023年シーズンへの影響

最初の大きなポイントは、この契約が来シーズンに何を意味するかだ。大谷がエンゼルスに所属するのか、あるいは他チームに移るか、である。

スポーツ選手契約金情報サイト『Spotrac』によると、大谷の今シーズン年俸額は550万ドル(約7億9750万円)、2021年は300万ドル(約4億3500万円)だった。大谷が両シーズンでMVP級の活躍をしたことを考えると、これまでの年俸は大バーゲンと呼ぶべきものだった。

今回の契約によって、大谷はその価値に相応しい金額を受け取り始めることになる。米スポーツ専門Webメディア『The Athletic』のケン・ローゼンタール記者によると、1選手が受け取る単年での増額幅でも史上最大であるということだ。

ケン・ローゼンタール記者のツイート:
大谷の契約は調停権を持つ選手の契約としてはMLB史上最高額である(それ以前の記録だったムーキー・ベッツの2700万ドルより11%多い)。大谷の年俸増額金額は2450万ドルであり、これは1選手が受け取る単年の増額幅でも史上最大である。これにより大谷は2023年シーズンの単年年俸でも年間平均額でも全選手中トップ10に入ることになる。

大谷がエンゼルスに残る場合、チーム内の最高年俸額トップ3 ─ 大谷、アンソニー・レンドン、そしてマイク・トラウト ─ だけでも、来シーズンの年俸は合わせて1億570万ドル(約153億円)になる。この3人を合わせた金額より、2022年の全選手を合計した年俸額を下回るMLBチームは7つもある。エンゼルスがこの3人以外の戦力を補強しようとしても、大谷にかかる費用はフリーエージェント市場で使える金額を低く抑えてしまう。

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エンゼルスが大谷を来シーズン開幕までにトレード放出する可能性もある。このオフシーズンは大谷のトレードに関する噂でもちきりになるだろう。今シーズン中のトレード期限直前にそうだったように。エンゼルスが大谷への大きなトレード申し出を受け、さらにシーズン後の契約更新が難しいと判断すれば、この二刀流スターを手放す好機になるかもしれないからだ。

今回の急激な年俸増額は他チームからすると大谷獲得の旨味を薄めることになるだろう。2023年の大谷はこれまでのようにバーゲン価格ではプレイしなくなるからだ。大谷をトレードで獲得するということは、チーム内でも最高年俸額かそれに近い金額の出費を覚悟するということになる。

2023年シーズンより後への影響

大谷はあと1年でフリーエージェント資格を得る。市場での大谷の価値が一体どれだけになるかは興味深いところだが、今回の契約内容がヒントになるかもしれない。

この調停金額が何らかの示唆を与えるとすれば、3000万ドル(約43億5000万円)という金額は大谷が複数年契約を結ぶ際に要求する平均年俸額の基本ラインになるだろうということだ。たとえば、ベッツはレッドソックスと2700万ドル(約39億1500万円)の契約を結び、調停を回避した。その1か月も経たないうちに、ベッツはロサンゼルス・ドジャースにトレードされた。そして数か月後、今度は12年総額3億6500万ドル(約529億円)の契約延長が両者の間で締結された。この契約はベッツが39歳になるシーズンまで続き、その間の平均年俸額は3040万ドル(約44億800万円)である。

大谷は正しく価値を評価することが不可能に近い選手だ。先発メンバーとして2つの役割を担うだけではない。今年は投手としてサイヤング賞の候補に挙げられる活躍をしたうえ、打者としてもパワーとスピードの両面でリーグ屈指なのだ。しかし、2024年7月には30歳になるし、トミージョン手術を受けたことがあるという側面もある。

年齢と二刀流選手としてプレイするために怪我のリスクが高いことを考えると、大谷にはベッツのような長期の契約は考えにくい。しかし、大谷の計り知れない野球選手としての価値(毎年サイヤング賞とMVPの候補になれる)とマーケティングの視点からすると、巨大な年俸額を要求することができる。

2022年シーズンで平均年俸額が3000万ドル(約43億5000万円)以上の選手はMLBに14人いる。大谷が2023年に受け取るこの金額をさらに上乗せすることは容易であろう。
3000万ドル(約43億5000万円)という金額はリーグ全体にも意味がある。大谷やベッツのような選手は稀であるし、近年は若い選手に複数年の契約延長が与えられるケースが多い。そうなると年俸調停に持ち込まれる選手はさらに稀になるだろう。しかし、この契約は若いスター選手たちの目標になるはずだ。フアン・ソトは多分それを考えることになる最初の選手だろう。ソトには年俸調停の資格があるし、3000万ドル(約43億5000万円)を契約交渉の際に基本ラインとして用いることができる。

ロサンゼルス・エンゼルスへの影響

エンゼルスが大谷との年俸調停を回避したことは、長期契約を結ぶための長期的戦略に基づく決定かもしれない。ここ何年かこのチームの戦績は振るわないが、調停を経ることなく合意に達したことが、両者の関係を良好に保つかもしれない。

最後に、エンゼルスの球団譲渡にも良い影響があるかもしれない。買い手は大谷がチームに満足していることを望むであろうし、また間違いなく大谷をチームに繋ぎ止めようとするはずだからだ。しかし、繰り返しになるが、2023年だけでも、トラウト、レンドン、そして大谷の3人で1億ドル(約145億円)以上の費用がかかることは忘れてはならない。

原文:What Shohei Ohtani's record arbitration deal with Angels means for trade extension talks
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部

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