エンゼルスが大谷翔平のトレードを真剣に考えなくてはいけない理由|大谷獲得レースに加わる球団は

2022-10-24
読了時間 約4分

ロサンゼルス・エンゼルスはもはや不吉な予兆を無視できなくなった。なぜなら、それはもはやただの予兆ではないからだ。

大谷翔平が2024年にこのチームを離れることはもはや明らかと言ってよい。負け続けるチームが野球界最高の選手を繋ぎ止めることはできないのだ。

10月18日、日本帰国直後の記者会見に応じた大谷は「そういう、あまり良くない方向での印象のほうが強いかなと思います」と今シーズンについて述べた。

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大谷は来シーズン終了後にフリーエージェントの資格を得る。メジャーリーグの多くの球団が大谷獲得へ動くに違いない。どの球団も巨額契約を持ちかけるだろう。オーナーが替わっていたとしてもエンゼルスもその中に含まれるはずだ。しかし、他のすべてのチームはエンゼルスよりもポストシーズン進出の可能性が高く、それは大谷のなかで最も高い優先事項となるはずだ。

大谷は日本で行われたこの記者会見で「むしろ去年よりも、特に8月・9月は長く感じました。14連敗も含めて、なかなか思うようなゲームが多くできていたわけではないので」とも語っている。

一連の大谷の発言は瞬く間に海を越えて、空っぽのエンゼル・スタジアムにこだました。大谷が2018年に加入して以来、エンゼルスは一度もオールスター戦後でプレーオフに近づいたことすらない。勝率5割でシーズンを終了したことすらないのだ。もちろん地区タイトルからは遠い位置にあり続けている。

以下がその4シーズンの結果だ。

2018: アメリカン・リーグ西地区首位から23ゲーム差、プレーオフ進出からは17ゲーム差
2019: アメリカン・リーグ西地区首位から35ゲーム差、プレーオフ進出からは24ゲーム差
2021: アメリカン・リーグ西地区首位から18ゲーム差、プレーオフ進出からは15ゲーム差
2022: アメリカン・リーグ西地区首位から33ゲーム差、プレーオフ進出からは13ゲーム差

そして新型コロナウイルスの影響で短縮された2020年シーズンは30チーム中16のポストシーズン枠が与えられたが、エンゼルスはそれでもアメリカン・リーグ西地区首位から10ゲーム差をつけられ、5個のワイルドカード枠からも3ゲーム差だったのだ。

穏やかな性格の大谷は普段は不満をあからさまに口にすることはない。自身の成績がどれだけ良くても、そしてチームメイトの成績がどれだけ悪くても、大谷は常にエンゼルスに在籍していることに満足していると語ってきた。だからこそ、今回の「あまり良くない方向での印象」という発言が大谷らしくないとソーシャルメディアで話題になっているのだ。しかし大谷を知り、あるいはずっと見てきた人は、この発言の真意を理解できるはずだ。

そして、エンゼルスもこのメッセージを受け止めたはずだ。問題は球団として大谷の処遇についてどのような決断を下すかである。基本的には3つの選択肢がある。今オフシーズン中にトレード放出するか、2023年シーズン中のトレード期限近くでトレード放出するか、あるいは2023年中はチームに留めてフリーエージェント移籍を認めるかである。

エンゼルスは球団組織として多くの問題を抱えている。それはメジャーリーグのレベルだけに留まるものではない。もし球団が真剣に組織改善に取り組むつもりならば、大谷をただ手放すことはできない。エンゼルスのファンがどれだけ大谷を愛していたとしても、もう1シーズンだけ大谷をチームに留め置いて、トレードで獲得できるはずの多くの才能を見逃すとすれば、それは裏切りに等しい。エンゼルスはすでにその「裏切り」を犯している。2022年に真剣にトレードを検討しなかったときのことだ。

しかし、「あまり良くない方向での印象」はこの方針を変更させるはずだ。

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それでは、エンゼルスは何を得ることができるだろうか。それを予測することは非常に困難だが、莫大な見返りがあることは間違いない。大谷のような選手は他にいない。先発ローテーションの1番手になれる好投手であり、打線の中軸を任せられる強打者なのだ。2021-22シーズンの成績を簡単にまとめてみると以下の数字になる。

投手:10.2 bWAR、 防御率2.71、先発登板試合数 51、 FIP 2.89、 試合平均被安打数6.7、試合平均奪三振数 11.4

打者:8.3 bWAR、 151 OPS+, 80 本塁打、 195 打点、 37 盗塁、14 三塁打 

大谷は28歳だ。来年の7月には29歳になる。つまりまだ最盛期なのである。3000万ドル(約43億5000万円)の契約を新たに結んだが、次のシーズンでは年額4000万ドル(約57億6000万円)以上を要求するだろう。それでもまだバーゲン価格と言える。なぜなら、年俸2000万ドルのエースと年俸2000万ドルの主力打者を同時に獲得できるのだから。大谷をトレード獲得するチームは単年契約しか結ぶことができないが、オーナーや球団フロントオフィスは大谷がフリーエージェントになる前に何としても長期契約を結ぼうとすることは想像に難くない。そしてシーズン中にトップ争いをし、10月にはポストシーズンに進出することが、大きな意味を持つだろう。

ただし、金額は重要ポイントではない。ワシントン・ナショナルズがフアン・ソトのトレードで強力なリターンを得たことを考えてみよう。もちろんソトは大谷とは違うタイプの選手だ。ソトの方が若く、ポストシーズンも3回経験していた。そしてソトは打者「だけ」でもある。改めて言及するまでもないが、大谷のようにエース級の投手と強打の指名打者を同時にこなすわけではない。ここで重要なことは、ソトから受け取れる巨大な戦力は大谷にも当てはまるということだ。

7月に大谷獲得を望み、その用意ができるチームは3つある。サンディエゴ・パドレス、ロサンゼルス・ドジャース、そしてセントルイス・カージナルスである。パドレスは既にソトを獲得していることで除外される。残るカージナルスとドジャースはともに今年のプレーオフから早期敗退した。どちらも大谷獲得の有力候補である。なぜなら、このスーパースターを説得するための材料を手にしているからだ。

大谷はアナハイムから本拠地が近いドジャースの成功を見てきたはずだ。そして、元チームメイトのアルバート・プホルスがカージナルスに戻って大活躍したことも知っている。つまり、両チームともに可能性はある。そして、両チームともこのトレードを成立させるための戦力を抱えている。

もし、エンゼルスが状況を正しく理解しているなら、2023年のオールスター選手ではなく、2025年のオールスター選手になり得るタイプを必要とするだろう。もちろん、19歳の超有望株とまでは言わないが、既にメジャーリーグでの経験があり、かつ複数年の球団所有契約が残っている若手選手が少なくとも2人は必要となる。ドジャース(『ベースボール・アメリカ』誌のファーム・システム・ランキングで2位)もカージナルス(同ランキング7位、有望株トップ100人に入る選手は7人)も、そんな若手選手を多く抱えている。

どのような段階であれ、再建中のチームはこの大谷獲得レースには参加できない。大谷が1年しかチームに在籍しない可能性があるとなると、少なくとも既にポストシーズン進出に近い位置にいなくてはならないからだ。ニューヨーク・メッツはオーナーのスティーブ・コーヘン氏が大物選手を巡るすべての動きに関わってくるだろう。メッツは上記ファーム・システム・ランキングで8位で、トップ100有望株選手も4人抱えている。ただし、メッツは大谷がフリーエージェントになるまで待つものと思われる。

『ベースボール・アメリカ』誌のファーム・システム・ランキングでトップクラスに位置する他のチームを見ていこう。ボルチモア・オリオールズ(1位)は興味深い存在だが、2022年のオリオールズの躍進を支えた選手を大量に放出することは考えにくい。同じことがクリーブランド・ガーディアンズ(3位)にも言える。アリゾナ・ダイヤモンドバックス(4位)、シンシナティ・レッズ(5位)、そしてテキサス・レンジャーズ(6位)はポストシーズン進出からはあまりにも遠すぎる。ピッツバーグ・パイレーツ(9位)とコロラド・ロッキーズ(10位)は有望株選手の放出には耐えられたとしても、2023年に大谷に支払う3000万ドル(約43億5000万円)の負担は重すぎる。

そうなると大谷獲得レースに残るのはどのチームか。直近3年で2回の最下位となったボストン・レッドソックス(11位)のファンは球団フロントにチーム強化を熱望している。ザンダー・ボガーツ遊撃手を手放すことは考えられないが、彼と再契約するだけでは十分ではない。ミルウォーキー・ブルワーズ(13位)やトロント・ブルージェイズ(15位)も大谷獲得へ動くことは考えにくい。

シカゴ・カブスは大谷を欲しがるだろうが、それはフリーエージェントになってからのことだろう。同じシカゴのホワイトソックスも興味はあるかもしれないが、ファーム・システム・ランキング25位のこのチームには必要な材料がない。

シアトル・マリナーズのファーム・システムは現在22位で、かつてのような厚みがない。それは多くの有望株選手がメジャーデビューを果たし、2022年の成功に貢献したからではあるのだが。そして多くの若手選手をトレードで放出してしまっている。野球運営部門社長のジェリー・ディポート氏は敏腕ディーラーとして知られている。フリオ・ロドリゲスと大谷をラインアップに並べるというアイデアはあまりにもコストがかかりすぎると敬遠するだろう。

原文: Shohei Ohtani has spoken, and Angels must act — with a trade — for good of the franchise
翻訳:角谷剛

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