【分析】リブゴルフとPGAツアーの合併における勝者と敗者:フィル・ミケルソン、タイガー・ウッズ、PGAツアー…ほか

2023-06-08
読了時間 約3分
(Getty Images)

ゴルフ界のライバル勢力が合併…勝者と敗者は?

リブゴルフとPGAが同じクラブハウスに入る――。

ゴルフ界の内戦は平和協定によって終結した。ライバルとして争っていた組織同士が合併することに合意したのだ。DPワールドツアーを加えて、3つのゴルフツアーがひとつの団体を形成する。

合併によって、世界最高峰のゴルフ選手たちがひとつの傘の下に集結する。間違いなく、ゴルフというスポーツにとっては朗報だ。その一方で、新たな団体設立のニュースを喜ばない者、そしてこの合併劇で悪役側を演じる者も多い。

タイガー・ウッズからフィル・ミケルソンまで、今回のゴルフメジャー団体の合併における勝者と敗者について分析する。

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勝者:リブゴルフ

リブゴルフこそがゴルフの未来だと信じようと、あるいは死に瀕していると見ようと(少なくともテレビ視聴率は振るわなかった)、この団体は目標のひとつをすでに達成している。それはゴルフ界の流れを変えたことだ。

あなたがどちらの側につくにせよ、リブゴルフはPGAツアーから命綱を投げられ、分裂状態は終了した。リブゴルフは承認され、PGAツアーからの離脱者らにはランキング回復の道が開かれた。2023年以降のリブゴルフがどうなるか(存続するかを含めて)、現時点では不明のままだ。しかし、ここまでの経緯は大勝利と言えるだろう。

PGAツアーは自らの利益のみを追いかけたように見える。組織の存続をかけたというわけではなく、金のみを追いかけたということだ。この合併により、PGAツアーはおそらく非課税権利を維持することになる。さらに大金を呼び寄せるサウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とのパイプラインも手に入れた。

究極的には、リブゴルフからの大金はPGAツアーにとっての大勝利を意味する。その意味での勝利がすべてではないにしても。

敗者:タイガー・ウッズと他のPGAツアーに残留した選手たち

ある種の人々は忠誠心よりも金を選ぶ。他の人々は大金より忠誠心を上におく。後者の人々は今回の合併では敗者の側にまわった。

タイガー・ウッズが近いうちに破産するようなことはないだろうが、報道ではリブゴルフから提示された8億ドル(約1120億円/1ドル140円換算)が宙に浮いたままだ。その誠実さは素晴らしい美談かもしれない。しかし、ウッズやリブゴルフへの移籍を拒否した選手たちがもし合併の可能性があることを知っていたら、2022年にPGAツアーに留まるかどうかについて再考していたかもしれない。

今回のことが明るみになったことで、PGAツアーの選手たちにとっては、現状では解答より疑問のほうが多い。リブゴルフと契約した選手たちと同じレベルの収入は保証されるのだろうか。PGAツアーの形式と日程はどうなるのか。

誠実さに値段をつけることはできないかもしれないが、大金を得るチャンスをみすみす失ったPGAツアーの選手が少なくとも何人かはいることは確かだ。

勝者:リブゴルフの選手たち

ケーキを手に持ったまま食べることはできないと言うが、リブゴルフの選手にとっては当てはまらない。

昨年リブゴルフに移籍した世界的に有名な選手たちのなかにはブルックス・ケプカ、ダスティン・ジョンソン、そしてキャメロン・スミスが含まれる。彼らは何億ドルもの大金を手にした。それに加えて、彼らがすぐにでも欲しがっていた高額な大会賞金とより緩やかな大会日程もついてきた。

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さらには、いったん奪われたPGAツアーの参加資格が回復する可能性も出てきた。移籍金はポケットに入れたまま、である。

リブゴルフの選手たちが来年のPGAツアーでどのような処遇を受けるかは不明であるが、ゴルフ界の在り方を変えるという使命を果たしたことは大勝利のようだ。

とくにフィル・ミケルソン

ミケルソンはまるでプロレスラーのハルク・ホーガンがハリウッドに進出したときのような変貌を遂げた。リブゴルフに移籍して以来、しばしばPGAツアーとコミッショナーのジェイ・モナハン氏を批判してきた。2022年の移籍以来、ずっとリブゴルフを象徴する存在であったが、現在はこれ以上ない幸福の絶頂にあることは間違いないだろう。

敗者:ジェイ・モナハン氏

「あなたはかつてPGAツアーのメンバーであることを謝罪しなければならないことがありましたか?」

PGAツアーのコミッショナーであるジェイ・モナハン氏は、自らがおよそ1年前に行なった発言の釈明を求められている。リブゴルフとPGAツアーの合併について、モナハン氏より説明責任がある人物はいない。

モナハン氏はリブゴルフへ移籍した選手たちに対して極めて厳しい姿勢をとった。2022年にこのゴルフ界の新しいリーグと契約した選手たちに、無期限の出場停止やPGAツアー参加資格をはく奪してきたのだ。

その強硬な姿勢を翻し、ゴルフ界の内戦においてPGAツアー側についた選手たちを保護する代わりに、PIF総裁のヤシル・アル・ルマヤン氏と秘密の交渉を行なっていたことが明らかになった。そして、最終的に合併という結果になった(アル・ルマヤン氏がPGAツアーの役員席に座ることになる)。

これは、モナハン氏にとって良い構図とは言えない。

勝者:ジェイ・モナハン氏

もっとも、モナハン氏にとって悪いことばかりではない。PGAツアーとリブゴルフは奇妙な組み合わせかもしれないが、モナハン氏自身はPGAツアーのコミッショナー職を維持し、そして新しいゴルフ団体の最高経営責任者(CEO)という輝かしい称号も手にしたのだ。ゴルフ界における最高権力者のひとりになったとも言えるだろう。

モナハン氏は、卵を投げつけられるかもしれない。しかし、それを拭うための100ドル札には困らないはずだ。

敗者:リブゴルフの形式を好むファン

リブゴルフを観戦することは夢の中で熱にうなされることに似ていた。カメラのカット、実況、そしてパーティーのような雰囲気はCWテレビジョンネットワークとYouTube(ユーチューブ)向きだったが、スポーツ系テレビ番組の主流にはならなかった。

ショットガン・スタート、3ラウンド制、そしてノーカットなど、リブゴルフの形式が今後も主流になるとは思えない。PGAツアー側はリブゴルフの「チーム的側面」をプロ競技に導入するための方法を探るとは明言しているが、自らの大会形式を大きく変えるとは思えない。PGAツアーの選手たちがそれを望む声を上げない限りは。

勝者:ゴルフファン

両団体のトーナメントを観戦してきたファンは、今後CWテレビジョンネットワークを探すことや、それがPGAツアーの「認定イベント」であるかを気に病む必要はなくなった。

世界最高峰の選手たちが同じ傘の下で、同じツアーで競い合う。ゴルフ界全体とファンにとって良いことだ。記者会見の席で選手たちがまるで高校生のように罵りあうのをこれ以上見なくてもよくなる。

騒ぎが収まり、ファンが見たいものを見られるのは良いことだ。次のゴルフツアーがやってくるまでは。

原文: LIV Golf-PGA Tour merger winners and losers: Phil Mickelson wins big, Tiger Woods & PGA Tour lose out
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部