アメリカの最高峰モータースポーツ「インディカー・シリーズ」や電気自動車レースの「フォーミュラE」などに参戦するアンドレッティ・オートスポーツが、F1参戦の意向を表明した。それも、アメリカの大手自動車メーカー、ゼネラル・モータース(GM)のブランドである「キャデラック」の支援も取り付けての出来事である。
これまで北米モータースポーツを引っぱってきたトップチームによるF1参入は果たして現実味を持ってくるのか。チームの成り立ちも含めて解説する。
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「レーシング一族」の2代目がオーナー
「アンドレッティ」の名が示すとおり、このチームは北米のモータースポーツで一時代を築いたマイケル・アンドレッティによって創設された「アンドレッティ・グリーン・レーシング」(AGR)を源流に持つ。
マイケル・アンドレッティは1978年のF1世界チャンピオンにして、インディカーでもレジェンドのひとりに数えられるマリオ・アンドレッティの息子。マイケル自身も、1991年にインディカーのチャンピオンに輝き、1993年にはマクラーレンからF1に挑戦するなど、北米レース界のトップドライバーとして活躍した。
2000年代にマイケルがドライバーを引退し、オーナーとして運営に携わるようになると、歴史あるチームに交じってトップチームの一角を占めるようになる。マイケルの息子、マルコ・アンドレッティが所属しての「親子鷹」が注目される一方、AGR時代の2004年にはトニー・カナーンがチャンピオンを獲得、2008年に栃木県のツインリンクもてぎで行なわれた「インディジャパン」にて、ダニカ・パトリックが女性ドライバーとして初の優勝を果たすなど、さまざまな話題をふりまいてきた。その後、2010年シーズンからマイケル・アンドレッティが単独でオーナーとなり、現在のチーム名となっている。
北米以外のモータースポーツ参戦にも積極的な姿勢を見せていて、2014年からスタートした電気自動車レース「フォーミュラE」には初年度から参戦中。優勝も果たすなど、こちらもトップチームのひとつに数えられている。
日本人にもゆかりのチーム
AGR時代から一貫して、インディカーではホンダエンジンを搭載し続けているアンドレッティ・オートスポーツ。その一方で日本にゆかりのある面々がドライバーとして起用されるチームでもある。
まず、2008年にはインディカー・シリーズの下部カテゴリー「インディ・ライツ」で活躍していた武藤英紀を起用した。武藤はこの年のインディカー・シリーズでルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝くなどの活躍を見せていて、その様子を記憶にとどめている日本のファンも少なくないだろう。
再びインディカー・シリーズでこのチームが注目を集めたのは、元F1ドライバーの佐藤琢磨を起用した2017年のこと。この年の「インディ500」で、佐藤が日本人、そしてアジア人ドライバー初となるインディ500初制覇を果たしたことで、日本のモータースポーツファンに大きな衝撃を与えた。
フォーミュラEでもこうした傾向がみられ、2017-18シーズンには小林可夢偉をスポット参戦ながら起用。さらに2022-23シーズンからは、かつて日本のレース界を主戦場としていたアンドレ・ロッテラーが起用されることとなっている。
新規参入は歓迎か?それとも
アンドレッティ・オートスポーツが次なる野望として明らかにしたのがF1参戦。日本時間の1月6日にキャデラックとのタッグも含めて正式に発表されたかたちとなった。
F1をはじめ、世界のモータースポーツを取り仕切るFIAのモハメド・ベン・スレイエム会長は、F1への新規参入チームが現れることに協力的な様子を見せていて、「新チームの参戦に向けた公募プロセス」を始めるように依頼した、とツイートしたほか、さらにアンドレッティ側の動きに歓迎を思わせるような言葉も残している。
だが、これまでアンドレッティ側の参戦に向けた動きにはF1の内部からの反対意見が多く述べられていた。F1側は新チームの参戦にはFIA、F1双方の承認が必要であると、FIAに釘を刺すような動きを見せていて、ハードルは決して低くはないだろうと思われる。
とくにF1のステファノ・ドメニカリCEOは、チーム数拡大を「優先事項ではない」と発言したり、メルセデスのトト・ウォルフチーム代表が「F1の価値を薄めたくはない」と述べるなど、好意的ではないコメントがこれまでも残されてきたことから、もし体制が整ったとしても、アンドレッティ陣営のF1参戦の実現性は低いとみられていた。そして、どうやら現状としては参戦反対への勢いがかなり強いとみられる状況だ。
アンドレッティ陣営など、新チームが参戦することにともなって、F1の参戦チームにもたらされる分配金が少なくなる…ということが、既存チームの態度が硬化する理由とされていて、ロイター通信も、現在の参戦チームの「主だたる多数」が参戦チームの拡大や、それにともなう収益低下に反対していることを伝えている。
現在、F1のシリーズ運営に当たって、FIAとF1の運営グループ、そして参戦チームの3者が結んでいる「コンコルド協定」では、新規参戦チームが2億ドル(約260億円)を払う必要があり、払われたお金は各チームで分配されると伝えられている(コンコルド協定の中身は非公開のため正確な条文は不明)。これが安すぎるという向きもあるようで、これもチームの不満を招いている理由のようだ。
こうした動きを良しとしていないのか、スレイエム会長も、1月8日になって自身のツイートで「敵対的な反応があることに驚いている」とコメントし、「F1参戦を奨励するべき」とも付け加えている。
だが、今回のアンドレッティ側の動きは、北米の大手自動車メーカーを巻き込むという展開となっていて、単なるチームとしての参戦ではないことを表明し、いわば外堀を埋めに行ったかたちだ。2026年に予定されているF1の規則改正に向けて、新チーム、新サプライヤーの登場に向けた動きが加速するなか、この動きがどういった結末を迎えるのだろうか。
F1が新規参入に向けた動きが、少しずつではあるが「場外戦」に突入する様相となっていて、今後も引き続き注目しておきたいところだろう。
オフシーズンも随時コラム更新
スポーティングニュース日本語版では、オフシーズンもF1にまつわるコラムの更新を予定している。来シーズンに向けた話題や、過去のF1にまつわる雑学的なもの、F1初心者という方から、玄人の皆さんでも思わず頷くような内容まで幅広く取り扱う予定だ。ぜひオフシーズンの楽しみとしていただきたい。