スポーティングニュース選出ヘビー級ボクシング2023年ランキング:No.1はフューリーかウシクか

2023-04-15
読了時間 約7分
The Sporting News

ボクシング界は今、各階級で4団体統一王者の誕生や井上尚弥の新たな挑戦などで新陳代謝が起きているが、花形であるべきヘビー級戦線だけは同じ顔ぶれがヘッドライナーに居座り、代わり映えしない風景となって久しく、誰が最も強いのかも不明瞭だ。そこでスポーティングニュースでは世界中に散らばるボクシング担当ライターと編集者の意見をまとめ、独自のヘビー級ボクサー最強トップ12のリストを作成してみた。

名門『The Ring』誌(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが伝える。

イギリスの超大型ヘビー級ボクサーであるジョー・ジョイスが再び世界タイトル奪取に向けた一歩を踏み出す。4月15日(日本時間16日)にロンドンのコッパー・ボックス・アリーナでトップランカーのチャン・ジーレイ(ツァン・チレイ)と対戦するのだ。12ラウンド制で行われるWBO同級暫定王座戦は、アンダーカードを含めて、イギリスでは『BT Sport』、アメリカでは『ESPN+』がライブ中継する(日本ではWOWOW/WOWOWオンデマンドで、5月28日20:00~録画放送予定)。

プロボクシングのあらゆる階級は目まぐるしく動いている。大物ボクサーにはいつでも代わりが現れる。しかし、ことヘビー級に限るとそうではない。フューリー、ウシク、ジョシュア、ワイルダーの時代がいつまでたっても終わりそうにもなく、トップコンテンダー(挑戦者)たちを苛立たせている。

37歳のジョイスにとっては、念願の(正規)世界タイトル挑戦が実現するまでに残された時間は多くない。オリンピック銀メダリストでもあり、ダニエル・デュボアやジョセフ・パーカーといった大物を相手に堅実な勝利を挙げてきた。世界タイトルに挑む資格は十分以上にあるはずだ。ロンドン出身で強打の持ち主であるジョイスはWBO世界ヘビー級暫定王者に認定されている。本来なら、同級統一王者のウシクへの挑戦がすぐにでも実現されるべきなのだが…。

先の見えないヘビー級戦線だが、改めてこの界隈の序列を見出すため、スポーティングニュースでは世界中に散らばるボクシング担当ライターと編集者の意見をまとめ、2023年4月現在における独自のヘビー級ボクサー最強トップ12のリストを作成してみた。繰り返すように、このボクシングで最も魅力的であるべき階級は停滞しているため、専門家たちの意見が割れることはあまりなかった。

率直に述べるなら、あまり多くの動きは現在起きておらず、一刻でも早く変化があるべきである。

12. ダニエル・デュボア(英国)

  • 戦績: 19勝1敗(18 KO勝ち)
  • 年齢: 25

デュボアがタイソン・フューリーとアンソニー・ジョシュアの後継者としてイギリスのヘビー級ボクシングを牽引する存在だと思われていたのはそれほど昔のことではない。しかし、2020年11月に同じくイギリス人ボクサーのジョー・ジョイスに10回KO負けを喫し、その立場を奪われてしまった。

その後のデュボアは、元スーパーライト級4団体統一王者ジョシュ・テイラーらを指導した高名なコーチであるシェーン・マクギガン氏の指導を仰ぎ、4戦連続でKO勝ちを収めている。まだ25歳で、この階級屈指のハードパンチャーでもある。成長の余地は多く残されている。

直近の試合では元クルーザー級王者のケビン・レレナから3回TKO勝ちを収めたが、深刻な膝の怪我を追ってしまった。

次戦の予定:パウンド・フォー・パウンドNo.1 であり、統一タイトル保持者のオレクサンドル・ウシクと対戦交渉中
 

11. フランク・サンチェス(キューバ)

  • 戦績:22勝0敗 (15 KO勝ち)
  • 年齢:30

30歳のサンチェスはかつてヘビー級ボクシングの期待の星だった。タイトル挑戦者となってからの歩みも順調である。

身長193センチ、体重113キロで、「キューバの閃光」の異名を持つ。大きな体格ではあるが、サンチェスのスピード、巧いポジショニング、アスリート能力、そして技術力には定評がある。

まだ大物と呼ばれる相手との対戦はないが、専門家からの評価は高い。以前はカネロ・アルバレスを育て上げ、『The Ring』誌(リングマガジン)で年間最優秀トレーナーに選ばれたエディ・レイノソ氏に師事していたが、現在はジョー・グッセン氏の下でトレーニングしている。

つい先週末(4月8日)には、ダニエル・マーツを1回KOで破った。

次戦の予定:なし

関連記事:スポーティングニュース選出パウンド・フォー・パウンドのトップ12ボクサーたち

10. フィリップ・フルゴビッチ(クロアチア)

  • 戦績:15勝0敗 (12 KO勝ち)
  • 年齢:30

フルゴビッチはアマチュア時代に輝かしい実績がある。2016年のリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得し、その翌年にプロへ転向した。

このクロアチア出身のボクサーファイターはここまで順調にキャリアを積み上げてきた。ベテランのトレーナーであるロニー・シールズ氏とペドロ・ディアス氏らに師事し、フルゴビッチは大きく成長した。もはや誰もが、「あるいは」ではなく、「いつかは」世界タイトルを獲得する逸材だと認めている。

しかし、30歳のフルゴビッチは直近の試合では中国のヘビー級ボクサー、チャン・ジーレイにやや苦戦を強いられた。チャンはそれまで無敗ではあったが、39歳という年齢から、際どいスプリット判定にまで持ち込まれたことに多くの人が驚いた。

次戦の予定: IBF世界ヘビー級王座挑戦者としてオレクサンドル・ウシクへの挑戦権を持つ
 

9. ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)

戦績:31勝3敗 (21 KO勝ち)
年齢:31

この高名なニュージーランド人ボクサーは元WBOヘビー級世界王者であり、現在も王座返り咲きを目指している。

31歳のパーカーは卓越した技術力と強打を兼ね備えている。アンディ・ルイス(12回2-0判定)、ヒューイ・フューリー(12回2-0判定)、デレック・チゾラ(12回2-1判定、12回3-0判定)といった相手から勝利を重ねていたことからもその実力は折り紙付きだ。

アンソニー・ジョシュア(12回0-3判定)、ディリアン・ホワイト(12回0-3判定)、ジョー・ジョイス(11回KO負け)と敗戦が続いたものの、どの試合も接戦だった。パーカーが高いモチベーションを維持する限り、どのヘビー級ボクサーにとっても侮れない相手になる。

次戦の予定:アメリカ人ボクサーであるマイケル・ハンターとの対戦交渉中

8. ルイス・オルティス(キューバ/米国)

  • 戦績:33勝3敗 (28 KO勝ち)
  • 年齢:44

オルティスはキューバのアマチュア・システムで腕を磨いた。アメリカに亡命し、プロとしてのキャリアを開始したときには31歳になっていた。

44歳になった今、さすがに力は衰えてきたことは否めない。ブライアント・ジェニングス(7回TKO)、トニー・トンプソン(6回KO)といった勝利がキャリアのハイライトであるが、それらはだいぶ昔の話だ。

WBC世界ヘビー級王者だった頃のデオンテイ・ワイルダーと2度対戦し、2度とも敗れた。それでも、このキューバ人スターは今でもヘビー級戦線に留まっている。

直近の試合ではアンディ・ルイスと対戦し、2度のダウンを喫したものの、僅差の判定負けにまで持ちこたえた。

次戦の予定:なし
 

7. ディリアン・ホワイト(ジャマイカ/英国)

  • 戦績:29勝3敗 (19 KO勝ち)
  • 年齢:35

ホワイトはこの階級で最も経験豊富なファイターのひとりだ。数多くの名のあるヘビー級ボクサーたちと戦ってきた。

ジャマイカで生まれ、ロンドンで育ったホワイト(現在の国籍は英国)は35歳になった。強打で知られ、デレック・チゾラ(12回2-1判定、11回KO)、ジョセフ・パーカー(12回3-0判定)、そしてオスカル・リバス(12回3-0判定)に勝利してきた。

世界タイトルに挑戦するチャンスもあった。2022年4月に行われたタイソン・フューリーとのイギリス人同士対戦では力及ばず、6回KO負けを喫した。

復帰戦ではアメリカ人ボクサーのジャーメイン・フランクリンを僅差の判定で下した。大試合のチャンスはまだ残っている。

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次戦の予定: 2015年に敗れたアンソニー・ジョシュアとの再戦を狙っている

関連記事:キャリア最高の勝利:ラリー・ホームズがケン・ノートンを破った、歴史的15回戦について語る

6. アンディ・ルイス(米国)

  • 戦績:35勝2敗 (22 KO勝ち)
  • 年齢:33

2016年12月、それまで29連勝中だったルイスは空位となっていたWBOタイトルをかけてジョセフ・パーカーと対戦したが、惜しくも2-0判定で敗れた。このメキシコ系アメリカ人ボクサーにとっては大きな痛手であったらしく、その後2年半に渡ってリングから遠ざかった。

しかし、2019年6月に当時WBA、IBF、WBO世界ヘビー級王者だったアンソニー・ジョシュアとニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで対戦するという夢のようなチャンスが回ってきた。下馬評では圧倒的不利だったルイスだったが、ジョシュアから3度のダウンを奪ったのちに、衝撃的な7回TKO勝ちを収めた。

ヘビー級ボクシング史上屈指の番狂わせを制したルイスだったが、残念ながら6か月後に行われた再戦は最も惨めな敗戦で終わった。緩み切った身体でリングに上がったルイスは大差の3-0判定負けを喫し、タイトル初防衛に失敗した。

現在のルイスはサウル(カネロ)アルバレスのコーチであるエディ・レイノソ氏に師事している。直近の試合では2022年9月にルイス・オルティスを12回3-0判定で下し、復活を印象づけた。

次戦の予定:ここ数か月の間、ルイスはタイソン・フューリーとデオンテイ・ワイルダーとの対戦相手に取り沙汰されたが、決定した試合はない

5. ジョー・ジョイス(英国)

  • 戦績:15勝0敗 (14 KO勝ち)
  • 年齢:37

皮肉なことではあるが、37歳のジョイスがヘビー級ボクシングの将来を担う可能性は大きい。

フューリー、ウシク、ジョシュア、ワイルダーの時代が続いているが、その背後には「The Juggernaut」(マーベルコミックのキャラクター)の異名を持つジョイスが虎視眈々と出番を待っている。アマチュア時代の輝かしい実績を誇るジョイスは強力なエンジンと優れた戦術眼を兼ね備えている。

ダニエル・デュボアとジョセフ・パーカーという強敵も難なく下した。2人ともジョイス戦がキャリア初のKO負けだった。

現在のジョイスはWBO世界ヘビー級暫定王者に認定されており、同級統一王者のウシクへの挑戦権がある。しかし、ジョイスはその試合の実現を待つよりは、試合経験を重ねて実力を上げることを選んでいる。

次戦の予定:4月15日にロンドンでチャン・ジーレイと対戦する

関連記事:キャリア最高の勝利:イベンダー・ホリフィールドがマイク・タイソンを破った試合の舞台裏を明かす

4. アンソニー・ジョシュア(英国)

  • 戦績:25勝3敗 (22 KO勝ち)
  • 年齢:33

統一王座を2度戴冠したにもかかわらず、ここ数年のアンソニー・ジョシュアは厳しい批判にさらされている。

2019年6月にアンディ・ルイスからKO負けを喫して以来、ジョシュアはずっと苦しんでいる。ルイスとの再戦では勝利を収め、クブラト・プレフも下したが、オレクサンドル・ウシクに2連敗したことで、ジョシュアの名声は地に落ちてしまった。

2023年4月1日、ジョシュアはアメリカ人ボクサーのジャーメイン・フランクリンを12回3-0判定で下した。それなりに着実な勝利ではあったが、持ち前のアグレッシブさやパンチのコンビネーションが影を潜めた低調なパフォーマンスだった。

ジョシュアは直近の3試合すべてで異なるトレーニングチームを組んだ。どうやら迷いがあるようだ。自分に合った環境さえ手に入れることができれば、この階級の誰とでも互角以上に戦える実力の持ち主だ。

次戦の予定:幸運にもタイソン・フューリーとの交渉が再開した。かつての宿敵ディリアン・ホワイトが代替プランに控えている。しかし、プロモーターのエディー・ハーン氏は最近になってジョシュアがジョー・ジョイスとデオンテイ・ワイルダーの両方と戦いたがっていると述べた。
 

3. デオンテイ・ワイルダー(米国)

  • 戦績:43勝2敗1分け (42 KO勝ち)
  • 年齢:37

ボクシング史上最強のワン・パンチを持つと評されるワイルダーは依然としてヘビー級戦線で最も危険な男のひとりだ。

唯一、タイソン・フューリー(2敗1分け)には黒星をつけられているが、それ以外の戦績は完璧だ。「銅の爆撃機(ブロンズボンバー)」の異名を持つワイルダーはリング上で相まみえるすべてのボクサーにとって脅威である。

昨年10月に元ヨーロッパ・チャンピオンのロバート・ヘレニウスとの対戦が決まったとき、ワイルダーはこのテクニシャンに手を焼くだろうと思われた。しかし、ワイルダーは1ラウンド目に放ったたった一発のパンチでKO勝ちを決めてしまった。

ワイルダーはかつてWBCタイトルを10度防衛した。どのような相手であれ一発のパンチで倒す破壊力を持っている。再びチャンピオンに返り咲く実力は十分以上だ。

次戦の予定:アンソニー・ジョシュアとアンディ・ルイスとの対戦が取り沙汰されているが、決定されたものはない

関連記事:キャリア最高の勝利:タイソン・フューリーがデオンテイ・ワイルダーとの第3戦について語る

2. オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)

  • 戦績:20勝0敗 (13 KO勝ち)
  • 年齢:36

ウシクは現在のパウンド・フォー・パウンドで最強のボクサーだ。史上最高ボクサーへの道を突き進んでいる。

2018年、このウクライナ出身のサウスポーは史上2人目のクルーザー級アンディスピューテッド(比類なき)王者になった(もうひとりは3団体時代にイベンダー・ホリフィールドが達成)。

特筆されるべきは、ウシクはそのすべてのタイトルを敵地で獲得したことだ。

ウシクがヘビー級に階級を上げたとき、体格が小さすぎることを指摘した批評家は多かった。しかし、それは間違っていた。最初の対戦でアンソニー・ジョアシュアから文句なしの勝利を収めて、WBA、IBF、WBOのタイトルを獲得した。そして再戦でもバージョンアップしたはずのジョシュアを下した。この勝利によって、空位になっていた『The Ring』誌認定タイトルも手に入れた。

残念なことに、4月29日と噂されていたタイソン・フューリーとの4団体統一戦は実現できなかった。もしウシクが「ジプシー・キング」(フューリーの異名)にプロ初黒星をつけることができれば、そのときはボクシング史で不滅の存在になるだろう

次戦の予定:ダニエル・デュボアとのタイトル防衛戦が交渉中

1. タイソン・フューリー(英国)

  • 戦績:33勝0敗1分け (24 KO勝ち)
  • 年齢:34

タイソン・フューリーのキャリアは数多くの浮き沈みがあったが、このイギリス人ボクサーは2023年もヘビー級戦線でトップの位置に君臨している。

「ジプシー・キング」は8年前に当時ヘビー級統一王者だったウラジミール・クリチコを倒したことで名を上げた。その後は長期のスランプに陥った。禁止薬物による出場停止、メンタルヘルスの問題、ドラッグ摂取、そして63.5kgもの体重増加が次々と降りかかったのだ。

フューリーのボクシング生命は終わったと誰もが考えた。しかし、強靭な意志と猛練習によって、フューリーはメンタルヘルスを改善させ、リングで戦うための体重を取り戻した。

2年半のブランクを経て、フューリーはセフェル・セフェリとフランチェスコ・ピアネタを連破し、当時無敗だったデオンテイ・ワイルダーのWBCタイトルに挑戦した。この試合は物議を醸した引き分けに終わり、ワイルダーはタイトルを防衛した。しかし、再戦ではフューリーがワイルダーを圧倒し、2度目のヘビー級チャンピオンになった。両者の3戦目はもはや伝説である。『The Ring』誌の年間最高試合に選ばれたこの試合で、フューリーはまたしてもKO勝ちを収めた。

34歳のフューリーはその後もディリアン・ホワイト(6回TKO)、デレック・チゾラ(11回TKO)と盤石の戦いを見せ、タイトルを2度防衛に成功した。しかし、ファンはウシクかジョシュアとの対戦を待ち望んでおり、停滞する状況にフラストレーションは高まっている。

次戦の予定:なし

原文:SN's heavyweight boxing rankings: Is Tyson Fury or Oleksandr Usyk No. 1 in 2023 ratings?
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部