世界のほとんどのボクシングファンにとって那須川天心といえば、フロイド・メイウェザーの前に1ラウンドTKO負けを喫した不運なボクサーという印象しかないかもしれない。元キックボクシングのチャンピオンは、2018年大晦日のエキシビションマッチでメイウェザーの前になす術なく敗れ去った。
しかし、現在25歳の異色スターはそこからボクシングに打ち込み、今では日本のボクシングファンの注目を集めている。最新の試合は1月23日(火)に行われる。
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プロデビュー以降は2戦2勝、日本バンタム級ランカーの与那覇勇気、メキシコ・バンタム級王者ルイス・グスマンという経験豊富な対戦相手から勝利を収めた。どちらの試合も判定までもつれ込んではいるが、那須川は両者から一発のパンチでダウンを奪っている。
アジアボクシングシーンにも精通する、名門『The Ring』誌(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが、ボクシング転向第3戦を迎える『神童』那須川天心のプロボクサーとしての可能性について考察する。
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ボクシングに挑む、元キックボクシングの神童
那須川は、幼少の頃から親しんだ極真空手と、世界王者にも輝いたキックボクシングで培った格闘経験をベースに、2022年夏からボクシングに本格転向。大場政夫、浜田剛史、山中慎介、近年では村田諒太など多くの世界王者を輩出する名門「帝拳ジム」に所属している。
素早いパンチを持ち、動けるサウスポーで反射神経も鋭い選手。これが「ボクサー・那須川」の特徴だ。早いラウンドで奪った2つのダウンを見れば、(少なくとも)そのパンチにはしっかりと体重が乗っていたことも分かる。この先、ランキングを上り詰めていく上では大切な武器となるだろう。
また、ボクシング転向前の那須川の格闘技キャリア(キックボクシング42勝0敗/総合格闘技4勝0敗)は、彼の打たれ強さにもつながっている。かのメイウェザー戦での失態は、163cm、59kgの那須川が67kgまで増量し、173cmとサイズに優る、史上屈指のボクサーに無謀にも挑んでいった結果だ。単純に常識よりも金儲けを優先した非公式戦だったというだけの話である。
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那須川は真のボクサーとして成長できる可能性を秘めた若い選手で、プロ転向後の2戦でその片鱗を見せている。
那須川天心の第3戦の相手、ロブレスとは?
那須川が2023年9月の第2戦に続き、3試合目で対戦するのが、メキシコのルイス・ロブレスだ。この一戦は、寺地拳四朗がカルロス・カニサレスを迎え討つWBC/WBA世界ライトフライ級王座防衛戦のアンダーカードとして、1月23日(火)にエディオンアリーナ大阪で行われる。
年齢は両者ともに25歳だが、那須川がこれまで対戦してきた2人と同様、経験の面ではロブレスが圧倒的に優位だ。メキシコシティ出身のロブレスは、2016年にプロデビューし、これまでの戦績は15勝2敗1分(5KO)。直近の試合ではWBCバンタム級地域(ラティーノ)王座に挑み、無敗の王者アレクシス・モリーナ・アギーレと引き分ける接戦を見せた。
またロブレスがこれまでに喫した2敗は、2017年のヘラルド・エルナンデス戦でのユナニマス・デシジョンの敗戦、2022年のエドガー・バレンシア戦でのスプリット・デシジョンでの敗戦といずれも判定負けのみ。ここまでKO負けを喫したことは一度もない。
錚々たる世界王者たちを育てたメキシコの伝説的トレーナーである『ナチョ』イグナシオ・ベリスタインが直接指導しており、今回、同行来日した。対日本人キラーとも言うべき名伯楽の後押しを受けて那須川と対峙する。
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まだ無茶は禁物…那須川が経験すべきマッチメイクとは?
那須川が戦うスーパーバンタム級戦線(初戦はスーパーバンタム級契約、第2戦は400g重い55.7kg契約)は、同じ日本人でアンディスピューテッド・チャンピオンの井上尚弥が君臨する階級だ。
とはいえ、先走って考えるのはやめておいたほうがいい。
『モンスター』井上尚弥は、一戦一戦ごとにボクシング史上指折りの選手としての地位を確立しつつある。現時点で世界屈指のパウンド・フォー・パウンド(PFP)ファイターであり、殿堂入りも確実視される傑物だ。
那須川もこの先、素晴らしい選手に成長していくと思われる。だが、今はまだ初期の成長段階。その那須川を、井上のように経験豊富で危険な相手と安易に対戦させるようなことは決してあってはならないことだ。
那須川が今の成長ペースを続けていけば、2025年には階級を上げる準備もできているだろう。その間に、スーパーバンタム級で日本人選手、海外選手の何人かと対戦していくことで、さらに成長を遂げるはずだ。あるいは、今回のロブレス戦がスーパーバンタム級(55.3kg)より低い121ポンド(54.8kg)契約であることを考えると、陣営としてはバンタム級(53.5kg)で世界戦を目指すシナリオもあるのかもしれない。
ボクシング転向前の格闘技経験と天賦の才を持ち合わせた那須川は、この先も早い成長曲線を描いていくだろう。とはいえ、あまり無茶なマッチメイキングはしないことが大事だ。那須川はまだ25歳、焦る必要は全くない。
※本記事は国際版記事を翻訳し、日本向けの情報を加えた編集記事となる。翻訳・編集:石山修二、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁