フルトン陣営が難癖をつけた井上尚弥のバンデージ問題の核心「スタッキング」とは?|7.25 有明アリーナ

2023-07-25
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Naoki Fukuda

スティーブン・フルトン vs. 井上尚弥の決戦2日前、フルトン陣営が井上のバンデージの巻き方について『スタッキング』を示唆する発言を行ったことで騒動となった。すでに国際ルール準拠の巻き方を採ることで決着したが、フルトン陣営はなぜ問題視したのか。

このバンデージ(ハンドラッピング)問題について、名門誌『The Ring』(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが、核心となる『スタッキング』と過去の不正事例について解説する。

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フルトン陣営の突然のクレームで噴出したバンデージ問題

7月25日のスティーブン・フルトン vs. 井上尚弥のWBC&WBO世界スーパー・バンタム級タイトルマッチは、週末にバンデージ論争が巻き起こるまで、何事もなく進行していた。

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最後の記者会見(7月22日)で、フルトンのコーチであるワヒド・ラヒム氏は、井上の過去のバンデージの巻き方(ハンドラッピング)に疑問を呈した。この発言は井上陣営の意に反するもので、大きな波紋を呼んだ。

「これまでの試合で、井上と彼のチームは過剰な量のテープで手を包み、さらにガーゼにテープを貼ってギプスを作ってきた。(フルトンも)同じように手を包むことはできるが、それではファイターの安全性はどうなるのか?」

暗に『スタッキング』を指摘したこのクレームに井上陣営はいうまでもなく反発し、井上自身がソーシャルメディア上に声明を発表する事態となった。

「日本には日本のローカルルールがある。それはアメリカでも州によってローカルルールがあり巻き方が違う。25日は日本開催だからもちろん日本のルールに従ってやるつもり。そこについてはぐだぐだ言わさんよ」

井上はこれまで日本以外ではイギリスとアメリカで試合を行い、試合前にバンデージについて一度も疑惑の目を向けられたことはなかったが(国外試合では現地ローカルルールに則って巻いていた)、この問題はおそらくラッピング作業が行われるまで解決しない。両チームの最大の目標は、試合前にファイターをリラックスさせておくことであるはずだからだ。

ただひとつ確かなことは、井上はこうした「場外戦で売られた喧嘩」を軽んじてはいないということだ。2019年のエマヌエル・ロドリゲスとの一戦を前にした公開練習で、相手陣営のメンバーが井上の父でトレーナーでもある真吾氏を突き飛ばした。井上陣営のムードは一変し、試合本番でロドリゲスは2ラウンドで無慈悲にも粉砕された。

井上陣営がこのバンデージに対する難癖を「無礼」と受け取ったことで、フルトンは同じような運命をたどるのだろうか? それとも心理的揺さぶりでフルトン陣営の思い通りになるのか? 答えはすぐに出るだろう。

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誰がバンデージの巻き方をチェックする?

そもそも選手のバンデージは誰が確認するのかだが、互いの対戦相手のチームメンバーがファイターのバンデージの巻き方をチェックするのが通例だ。慣例的に陣営のアシスタントトレーナーがその役目を担い、その歴史は数十年前に遡る。

ファイターの試合前準備のこの段階で問題が生じることは稀だが、実際に(不正とされる巻き方が)起こることなのだ。

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フルトン陣営が示唆した『スタッキング』とは?

フルトン陣営の指摘の核心は『スタッキング』だ。ワシル・ロマチェンコらスターファイターを指導するベテランのトレーナーであり、カットマンでもあるラス・アンバー氏によれば、ファイターのハンドラッピング(バンデージ)は通常、次のように行うという。

「これがガーゼで、これを最初に貼って、これがテープで、これを次に貼って、これをマジックでサインする。これで終わり!短くて簡単で、みんな同じだ」と2022年に英専門メディア『Boxing Social』を通じて述べている。

同記事でアンバー氏は、2022年6月、井上がノニト・ドネアを2回TKOで下した試合で指摘された『スタッキング』について自身の見解を示している。

この試合前の準備中、控室で井上の手にバンデージを巻く作業中の映像が流れた。井上の手には包帯を巻く前にテープが貼られていたが、この巻き方はすべての国のコミッションで認められているわけではない。しかし、日本のコミッション・ルールではこのプロセスは正規の方法として認められており日本での試合である限り、違法ではない。また、ドネアとの再戦は日本の埼玉で行われた。

ただ、アンバー氏の見解では、これは『スタッキング』であるとしており、その行為自体に反対の立場を取っている。

じつは井上 vs. ドネア再戦の1か月前、スペインでハンドラッピングをめぐる論争があった。元WBO世界スーパーウェルター級王者リアム・スミスが、同門のジェームズ・メトカーフの代理人として、ケルマン・レハラガのバンデージ作業をチェックした際、相手トレーナーによる「テープ→包帯→テープ→包帯」という形で行われたラッピング方法を問題視したのだ。

スミスはこれを『スタッキング』(テープと包帯などを必要以上に重ねた状態にし、拳を硬くして強化する不正行為)であると判断し、コミッションを呼び出し、「違法バンデージ」であるとして同僚のポイントを勝ち取った。違法を指摘されたレハラガは巻き直しを余儀なくされ、試合でもポイント負けとなった。

アンバー氏はスタッキングについて「ニューヨークでもカリフォルニアでも英国でも許可されていない」と話し、ファイターを責めるのではなく、コミッション側に是正を求めている。

フルトンvs井上は国際法で決着も、過去に「違法バンデージ」で失墜した選手も

こうしたトラブルを避けるため、フルトン vs. 井上のバンデージの巻き方は、前日計量後のルール会議を経て、(テーピングを伴う)日本ルールではなく国際ルール(手に直接テーピングせずにバンデージを巻く方法)で行われることになり、実際に巻き終わるまでは無益な緊張を伴う事態にはなったが、今回のバンデージ問題は一定の決着を見た。

このような問題は通常、ファイターがリングに上がる前に解決されるが、試合前に発覚したうえ、すべてを失った過去事例もある。

近年で最大のハンドラッピング・スキャンダルは、2009年に起きた、アントニオ・マルガリート vs. シェーン・モズリーのWBA世界ウェルター級王座戦にまつわるものだった。モズリーのトレーナー、ナージム・リチャードソン氏がマルガリート陣営に対し、ハンドラッピングのやり直しを要求したところ、マルガリートの手の硬いパッド(絆創膏のようなもの)が剥き出しになったという疑惑がある。

スタッキングが濃厚となったマルガリートのバンデージは巻き直されたが、モズリーに9ラウンドで粉砕された挙げ句、のちにボクシングライセンスを剥奪された。トレーナーのハビエル・カペティージョ氏に責任があるとされたが、マルガリートは自分のチームの責任者であったため処罰された。

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※本記事はスポーティングニュース国際版記事の翻訳後、日本向けの情報を加えた編集記事となります。翻訳・編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮