米人気ボクサーが井上尚弥戦を予告も、リング誌元編集人は「期待してはいけない話」

2024-01-31
読了時間 約4分
Carmen Mandato/ Getty Images - Naoki Fukuda

米国のボクシングスターのひとりである、元WBC世界ライト級暫定王者のライアン・ガルシアが、2階級4団体統一を達成した井上尚弥との将来的な対決をぶち上げた。日本時間1月31日朝にはメディアに報じられ、国内外で話題となった同発言だが、両者の対戦はそもそも実現性はあるのか。

その井上 vs. ガルシアの実現性について、かつて行われた階級違いのスーパースター対決を比較対象に、名門『The Ring』誌(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが分析する。

若きボクシングスターが注目発言

そのビデオは、内容が正しく聞き取れたかどうかを確認するために、2度見直さなければならないような代物だった。火曜日(日本時間1月31日)、米ボクシングメディア『FightHub』は、ライアン・ガルシア(24勝1敗、20KO)をフィーチャーしたYouTubeショート動画を投稿(Xにも投稿された)。その内容は、将来的なPPVビッグマッチ候補としての、彼と井上尚弥との対決についての議論だった。

井上(26勝0敗、23KO)は、言うまでもなくスーパーバンタム級4団体統一王者であり、おそらく今日の世界最高のファイターである。

ガルシアはビデオの中で「井上は複数階級の世界チャンピオンになれると信じている」と豪語してみせたが、日本のスター選手がすでに4階級で世界タイトルを獲得している事実は無視したようだった。

「俺はねぇ、こう考えているんだ。いつか俺たちが戦うことになったとしたらどうだい? つまり俺は未来について話しているんだけど、それを日本で実現しようじゃないか。もし、それ(ガルシア vs. 井上)がそんな展開になったらどうだ。そしたらこの試合は史上最大のPPVマッチのひとつになるよな。覚えておいてくれよ、今の俺の言葉を」

ガルシアは自身にまつわる話題を飯の種にする一種の起業家だ。24勝1敗の世界的評価を得るトップコンテンダーであるだけでなく、この若いカリフォルニア人は、ソーシャルメディアでの巨大な影響力(Instagramのフォロワー数1030万人)を持っており、インフルエンサーマーケティングの世界にとっては、まさしく選ばれた存在だ。彼は見栄えの良い25歳の青年で、単なるボクサー以上の存在になりたいと思い描いている。

しかし、『キング・ライ(KingRy、ライアンの通称)』によるこのドリームマッチ構想は、ファンタジーの域を出ないと言わざる得ない。

スポーティングニュースは、井上 vs. ガルシアのファンタジー対決の実現性について冷静に分析する。

関連記事:井上尚弥劇場の将来を占う:タパレス戦後にモンスターを待ち受けるのはだれか

ガルシア vs. 井上尚弥は実現するのか?

一言で言えば「ノー」だ。

井上はすでに4つの階級を乗り越えて122ポンド(55.3kg、スーパーバンタム級)まで体重を増やしている。彼はもうひとつ上のフェザー級(126ポンド/57.1kg)に到達する可能性が高いが、それを超える可能性は低いとみられる。

なぜか?

Scroll to Continue with Content

すべては「サイズ」に帰着するからだ。井上は身長165cm、リーチは171cm。彼は偉大なファイターだが、今のスーパーバンタム級に──そして実際に偉大になるために──段階的に上がってきたのには理由がある。井上が階級を上げれば上げるほど、対戦相手も比例して大きくなる。それは明々白々だ。

一方、ガルシアの身長は174cmで、リーチは178cmだ。彼はライト級選手として活躍し、その後スーパーライト級(140ポンド/63.5kg)に階級を上げた。つまりガルシアは現在、井上が現在主戦場にしている階級よりも4つも上に位置している。

その体重差は8.2kg。井上がフェザー級に上げたとしても6.4kg違う。ガルシアはジャーボンテイ・デイビス戦で初黒星を喫してからの再起戦を昨年末に行ったが、ほぼウェルター級の143ポンド(64.8kg)のキャッチウェイト契約だった。

正直、両者の試合はあり得ない話なのである。

ただ、ボクシング史には4階級差があった現役プロボクサー同士が戦った事例がある。

4階級差のスーパースター対決の前例

現代におけるこれに最も近い例は、オスカー・デラホーヤと対戦した時のマニー・パッキャオだろう。

2007年4月14日、パッキャオはスーパーフェザー級(130ポンド/58.9kg)でのWBCインターナショナルタイトル戦で、ホルヘ・ソリスを8ラウンドでKOした。3週間後、デラホーヤはフロイド・メイウェザーに1-2判定で敗れ、WBC世界スーパーウェルター級(154ポンド/69.8kg)のベルトを失った。

この時点でパッキャオとデラホーヤの体重差は24ポンド(約10.9kg)。階級が4つも違い、両者の対戦を実現させるには、あまりにもかけ離れていた。

しかし、2008年12月8日、パッキャオとデラホーヤはウェルター級(147ポンド/66.6kg)契約で対戦するに至る。試合当日はパッキャオが148.5ポンド(67.3kg)まで戻したのに対して、デラホーヤは前日計量の145ポンド(65.7kg)から147ポンドに留めた。

パッキャオは8ラウンドで試合が止められるまでの過程で終始圧倒し、デラホーヤは二度と戦うことはなかった(2021年に現役復帰が発表されたが新型コロナウイルス感染により白紙となった)。

4階級違うスーパースター同士のドリームマッチは確かに実現したが、比較対象としてガルシア vs. 井上と異なる点がある。

まず、当時デラホーヤは体が大きいにもかかわらず、29歳のパッキャオに対して4歳半年上の35歳だった。一方、井上よりはるかに大きなガルシアは、年齢でも30歳の井上より5歳下であり、この要素では明らかに有利だ。

第2に、パッキャオの俊足でボリュームのあるパンチングスタイルは、ウェイトホッピング(階級転向)に柔軟に対応できた。フィリピンの英雄がボクシング史上最も多くの階級を制覇した記録(8階級)を保持しているのは偶然ではない。対して、井上はより慎重なボクサーパンチャーであり、パッキャオをエミュレートするスタイルではない。

井上 vs. ガルシア? 残念ながら期待してはいけない話である。

※本記事は国際版記事を翻訳し、日本向けの情報を追加した編集記事となる。翻訳・編集:スポーティングニュース日本版編集部 神宮泰暁