6月7日、さいたまスーパーアリーナ（埼玉県）で、WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者の井上尚弥とWBC同級王者ノニト・ドネアによる統一戦が行われた。井上が強打のラッシュによる2回TKOで完勝し、3団体統一を果たした。試合後、年内に成立するのであればWBO王者ポール・バトラー（英国）との4団体統一戦を目指し、そうでなければスーパーバンダム級に転向することを宣言した。
2019年11月7日の「ワールドボクシング・スーパーシリーズ」バンタム級トーナメント決勝戦以来となる井上とドネアの再戦は、衝撃の結末となった。
2年7か月前、当時、短期KOによる圧勝劇を重ねていた『モンスター』井上がIBF王者として、元5階級制覇のWBAスーパー王者である『フィリピンの閃光』ドネアと対峙した。それまで同様、一気に仕留めるつもりだった井上だが、ドネア得意の左フックによってそのプランが狂った。判定勝ちを収め、WBAタイトルを手にしたが、右目眼底と鼻の骨折という代償を負った。だが、それよりも、自分のボクシングができなかったことに対する悔いが強かった。
2020年12月に試合復帰した井上は、計3試合を経て、WBO同級王者ジョンリール・カシメロ（フィリピン）との統一戦を検討しながらも、カシメロ陣営のトラブルで頓挫する。同じくWBC同級タイトル獲得で復活を果たしたドネアも同様にカシメロとの試合計画するもトラブルを忌避し、キャンセルした。その結果、井上vsドネア2という再戦が決まった。
前回と同じさいたまスーパーアリーナでの再戦。井上は自身のたっての希望で、ギタリストの布袋寅泰の生演奏による、映画キル・ビルのテーマ曲『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY』で入場。ドネアもシグネチャーカラーの青とオレンジの衣装でリングインした。
両者、しっかりと仕上げてきたボディで臨んだ1回間もなく、いきなりどよめきが起きた。相手の出方を伺っていた井上にドネアの閃光のような左フックが炸裂した。これでスイッチが入ったという井上は、突き刺すようなジャブで牽制しながらも、オーバーハンドのパワーショットを打ち込んでいく。1回終了間際、撃ち合いの最中、井上のクロスの右ストレートがのドネアの顔面をとらえ、最初のダウンを奪った。
ゴングに救われたドネアだが、心理的に勢いを得た井上は、左フックを皮切りに強打を打ち込み続ける。よろけながらも耐えるドネアだったが、ガードが下がり気味になっていく。顔面への攻撃に集中的にシフトした井上は、アッパー気味の左フックでさらにふらつかせて一気にコーナーに押し込むと、ガードを貫く右ストレートからの左フックでフィニッシュ。ドネアはセカンドロープに持たれかかるように力なくマットに沈んだ。その瞬間、会場は歓声よりも先にどよめきに包まれた。
レフェリーがドネアの状態をチェックするなか、勝利を確信した井上が逆コーナーで両腕をあげると、2回1分24秒TKOで決着のゴングが打ち鳴らされた。ドネアをまったく寄せ付けなかった井上。汗はかけども、息があがった様子はひとつもない完勝劇は、まさしく『モンスター』の異名に相応しい内容だった。敗れたドネアは、井上をハグすると「Congratulations」（おめでとう）と勝者を称えた。その紳士的な態度に観衆からドネアコールが沸き起こる場面もあった。
自身が持つWBAスーパー・IBFタイトルとドネアのWBCタイトルの3団体の王座を統一した井上は「やりました！」と開口一番勝どきをあげると、「ここからひとつ上のステージに行けるのかなと思います」と話した。今後の展望について聞かれた井上は、年内の4団体統一戦が成立するならバンタム級に留まり、それが難しい場合、スーパーバンダム級に鞍替えし4階級制覇を狙うと宣言。さいたまスーパーアリーナの大観衆の歓声を受けた。
リングを降りた井上は、休む間もなくこの日の中継を配信するAmazonプライムビデオの特別実況席へと移動し、MCのくりぃむしちゅー上田晋也氏とゲストの前WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太から質問を受けながら、試合を振り返った。井上自身は、「2ラウンド目は様子を見ようと思っていた」と話し、そこまで余裕がなかったとも話したが、前回の対戦で出しきれなかったボクシングができたとして、採点するとすれば「100点つけられると思います」と胸を張った。
井上の今後について、村田が「WBOの王者（ポール・バトラー、英国）では物足りないのではないか？」と、世界的ファイターであるゲンナジー・ゴロフキン（カザフスタン）と戦った男だからこそ聞ける質問をすれば、井上自身も「今回のような緊張感は生まれないかもしれない」とポロリ。しかし、「せっかくここまで来たからには、年内やれるのであれば4団体（統一戦）をやりたい」と抱負を述べた。