混迷する井上尚弥の次戦相手選び…リング誌元編集人が考える3つの選択肢

2024-05-29
読了時間 約3分
PHILIP FONG/AFP via Getty Images

井上尚弥の次戦相手探しが混迷している。かつて井上は強すぎる故に対戦相手探しに苦労していたが、スーパーバンタム級アンディスピューテッド王者として『悪童』ルイス・ネリも成敗してしまった今、まさに同じ状況に陥り、フェザー級転向論も浮上している。

名門誌『The Ring』(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが、122ポンド階級で残る3つの選択肢を考察する。

井上尚弥が5月6日、東京ドームでルイス・ネリを下した直後、IBF指名挑戦者であるサム・グッドマンからリング上で声をかけられ、お互いに対戦を約束するように握手を交わした。

正式に発表されたわけではないが、『モンスター』の次戦相手はグッドマンで、おそらく9月頃に日本で行われるのではないかと思われていた。しかし、FOXスポーツ・オーストラリアによると、グッドマン陣営は7月に調整試合を行うことを決め、12月の井上戦を狙う算段をとるという。

つまり、井上(27勝0敗、24KO)は9月に防衛戦を行なったあと、日本、あるいはグッドマンの母国オーストラリアでの試合に臨む可能性がでてきたという。しかし、それが既定路線だとして、日本の破壊者にとってもはやスーパーバンタム級/122ポンド(55.34kg)ではふさわしい対戦候補は乏しく、すぐにでもフェザー級(126ポンド/57.15kg)に転向すると多くの人々が予想しているほどだ。

そこで、井上がスーパーバンタム級においてまだ選択可能なオプションについて考察していこう。


■井上はジョン・リエル・カシメロと戦うのか?

ジョン・リエル・カシメロ(33勝4敗1分、22KO)はフィリピン出身の元世界3階級制覇王者であり、少なくともその実績面においては井上にとってふさわしい相手と言えるだろう。

『フィリピンの悪童』、『問題児』と呼ばれるに至った素行不良から、その陰気で謎めいたイメージが先行するカシメロだが、アムナット・ルエンロン(IBF世界フライ級王者)、チャーリー・エドワーズ(WBC世界フライ級王者)、ゾラニ・テテ(IBF世界スーパーフライ級王者、WBO世界バンタム級王者)、ギレルモ・リゴンドウ(WBA世界バンタム級王者、WBA/WBO世界スーパーバンタム級王者)といった世界クラスの実力者に勝利していることは確かだ。

カシメロは、昨年10月、元IBF王者・小國以載と日本で対戦。第4ラウンドにおける偶発的バッティングでの小國のカット(出血)により、負傷引き分けに終わっており、新たな試合を求めている。そんな中で、井上尚弥はかつて一度は対戦が内定していた幻の対戦相手(2020年4月に内定もコロナ禍で消滅)であり、その後も事あるごとに挑発の言葉を送っていた。

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現在35歳のカシメロは「下り坂」という評価があるものの、『問題児』の異名通り、井上の神経を逆撫でするような言動を取り、もしそれで井上が本気になれば、爆発的な一戦になるかもしれない。


■井上はムロジョン・アフマダリエフと戦うのか?

『MJ』ことムロジョン・アフマダリエフ(12勝1敗、9KO)は昨年、井上と対戦する見込みだったが、その前の防衛戦でマーロン・タパレスにWBA/IBF統一王者の座を奪われ、一歩後退を余儀なくされていた。

29歳のアフマダリエフは、2015年の世界選手権バンタム級で銀メダル、2016年のリオ五輪バンタム級で銅メダルを獲得したアマチュアの傑物だ。プロデビューは2018年、プロ8戦目の2020年1月に実力者ダニエル・ローマンを3-0で破り、WBA/IBF世界スーパーバンタム級タイトルを戴冠。タパレスに敗れるまで、岩佐亮佑を含む3人を相手に防衛を重ねた。

プロキャリア6年ということもあり、世界クラスの相手との対戦経験が少ないものの、アマチュアエリートとしての実績はもとより、小國とタパレスにTKO勝ちしている元IBF(レギュラー/暫定)王者の岩佐を5回で仕留めた技術とパンチ力は、井上の対戦候補として遜色はないだろう。タパレス戦が「番狂わせ」と論じられたことからも、『MJ』幻想はまだ根強い。

(あくまで井上陣営やトップランク社次第だが)井上と戦うことがこの階級で最大の報酬を手にする選択肢であることを考えれば、『MJ』は喜んでこの試合を引き受けるだろう。タパレス戦の挫折以来、ウズベキスタンのスターはケビン・ゴンザレスに圧勝。WBA指名挑戦権を手に立ち直り、再び頂点に立つ野心に満ちている。


■井上はTJ・ドヘニーと戦うのか?

この選択肢はワイルドカード(補欠)のように映るかもしれないが、アイルランドのテレンス・ジョン・ドヘニー(26勝4敗、20KO)は、カシメロやアフマダリエフと同じくらい、いやそれ以上に井上戦を確保する権利と実力がある。

2018年8月、岩佐亮佑からIBF世界スーパーバンタム級王座を奪取して以来、高橋竜平、中嶋一輝ら日本人選手との対戦、あるいは後楽園ホールに何度か登場したこともあり、ドヘニーは日本ではお馴染みの存在になっている。5月6日の東京ドームでは、ネリの不測の事態に備えたリザーバーとして招聘され、予備試合を行っていた。

この37歳の左腕は、調子を落とすこともあったが、ここ3試合は東京で戦い、すべてストップ(TKO)勝ちしている。ドヘニーでは「消化試合」という辛辣な声もあるが、業界内では評価が高い。

井上の海外でのプロモートを担当する米大手トップランク社のボブ・アラムCEOは、井上の次戦候補について「グッドマンもドヘニーも良い選手だ」と述べており、メディア報道では現時点でドヘニーが本命視されている。ドヘニー自身も「モンスターから逃げる気はない。(消極的な試合を演じた)給料泥棒どもとは違うファイトを見せる」と意気込んでいる。

もっとも、井上を倒すにはアイルランドの幸運が必要だが、この階級において、そうでない選手などいないだろう。