7月25日にWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトンに挑む井上尚弥と、9月の初防衛戦を控えるWBO世界スーパーフライ級王者の中谷潤人。戦績は2人合わせて49勝0敗、40KO。ともに世界ボクシングで指折りのファイター同士、究極の日本人対決をファンは見ることができるか。
しかし、現段階でこの日本人対決の実現性はどうなのか。井上 vs. 中谷がまだ「ファンタジー」の域を出ない理由を、名門誌『The Ring』(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが解説する。
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期待される世界レベルの日本人頂上対決「井上 vs. 中谷」
もしこの直接対決が実現すれば、日本ボクシング史上最大の一戦になることは間違いない。3階級世界王者の井上尚弥と現WBO世界スーパーフライ級王者の中谷潤人である。
井上(24勝0敗、21KO)は現在のパウンド・フォー・パウンド最強のハードパンチャーと目されている。KO率は驚異的な87.5%であり、過去7年間の14試合で判定決着にもつれ込んだことは、ノニト・ドネア相手の1度しかない(2019年の第1戦)。
中谷(25勝0敗、19KO)はやや遅れてボクシング界のトップシーンに現れたが、すでに2階級で世界王者になっている。強打のサウスポーで、KO率は76%だ。4回の世界タイトル戦ですべてKO勝ちを収めている。25歳と井上より5歳若く、フライ級とスーパーフライ級を席巻している。
しかし、残念なことだが、2人の直接対決は今のところ「ファンタジー」の分野に属する。
「井上 vs. 中谷」実現への障壁:階級と体格
7月25日、井上はスーパーバンタム級に転向後初めての試合で、現WBC、WBOのタイトルを持つスティーブン・フルトンと東京の有明アリーナで対戦する。この技巧派のアメリカ人ボクサーを倒したら(戦前予想では有利を伝えられている)、『ザ・モンスター』こと井上は現在の中谷がいる階級より2階級上に君臨することになる。
政治的な問題を抜きにして、次戦ないし、近いタイミングでの「井上 vs. 中谷」の実現性はどうなのか。
この2人の日本人ボクサーを隔てる体重差は7パウンド(約3.1kg)だ。もし契約体重を決めるとすれば、両者の現主要階級の中間であるバンタム級のリミットである118パウンド(約53.5kg)が現実的であろうが、中谷がスーパーフライ級の115パウンド(約52.2kg)に階級を上げたのはわずか昨年の11月であることを忘れてはならない。
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2人の体格を子細に見ていくと、あるいは驚くかもしれない。ナチュラルな体重で軽い中谷の方が井上より7cmも身長が高いのだ(中谷172cm、井上165cm)。リーチは井上の方がやや長いが、その差はわずかに1cmでしかない(中谷170cm、井上171cm)。
井上のナチュラルな体格(筋肉周りの大きさ)は、細身の中谷の戦略を根本から変えることを要求するだろう。
井上はバンタム級で極めて強靭な身体を作り上げた。パウンド・フォー・パウンド最強に相応しく、胸と肩に筋肉がつき、脚も分厚い。スーパーバンタム級ではさらに大きくなるだろう。一方の中谷は痩せ型だ。あまり圧力を感じさせる体格ではない。非常に危険なファイターではあるが、この若者は井上のボディ攻撃に耐えられるようには見えない。距離を離し続けることも難しいだろう。12月のポール・バトラー戦でそれが不可能であることが証明されている。
モンスターの猛打と渡り合うには大幅な肉体改造が必要になり、それを短期間で成し遂げることは非常に困難であり、身体が大きくなればボクシングにも影響するだろう。井上自身も数年に及ぶ長い時間をかけて身体を大きくし、それでいてスピードを維持したボクシングを築き上げてきたからだ。
しかし、5月にアンドリュー・モロニー(オーストラリア)を一発で倒した中谷の姿は忘れがたい。25勝3敗のモロニーはスーパーフライ級で世界トップクラスのファイターだ。9年間のプロ生活でそれまで一度もKO負けを喫したことがなかった。
中谷はそのモロニーから2度のダウンを奪い、そして11ラウンド目に左フックを顎に決め、そのたった一発のパンチで試合を決めた。唯一の違いは、モロニーは井上のレベルではないことだ。
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実際、井上は3年前にモロニーの双子の兄であるジェイソン・モロニーと対戦し、6ラウンドで1度ダウンを奪うと、7ラウンド目に1発のパンチによるKO勝ちを収めている。その試合はスーパーフライ級のひとつ上のバンタム級で行われた。
こうした主要階級の違い、体格の違いという明確な障壁がある今は、両者の対決は「幻想の域を出ない」というのが正直なところだろう。
しかし、我々は井上と中谷が同時に日本ボクシング界に現れた幸運な時代にいる。この2人の直接対決を願うことは自然かもしれない。実現すれば、2人は期待を裏切らないだろうし、ファンは一生の思い出を胸に刻むことができるだろう。
格闘技界には、奇跡のように思われていた物事が起きたことはこれまでにもある。はたして井上尚弥 vs. 中谷潤人はいつか実現するだろうか……。
※当記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳:角谷剛、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮