ディミトリー・ビボルは、カネロ・アルバレスから提案された再戦案を一蹴し、WBA世界ライトヘビー級王者として、改めて4団体統一戦を目指す方針を固めた。だが、3本のベルトを持つアルツール・ベテルビエフとのマッチアップには解決が難しい問題があるという。
スポーティングニュースはそんなビボルに独占インタビューに成功した(パート1はこちら)。パート2では、ビボル自身がロシア国籍であるが故に熱望するベテルビエフとの対戦に立ち塞がる政治的障壁や、プランBとなる対戦者候補者について語った。名門『The Ring』誌(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが聞き手として伝える。
ロシア国籍であるが故にベテルビエフ戦に立ち塞がる政治的障壁
WBA世界ライトヘビー級の無敗王者ディミトリー・ビボルは、リングの外では非常に物静かだ。この32歳のテクニシャンは、現在のボクシング界において間違いなく最高のファイターのひとりであるが、その普段の姿には攻撃性や野蛮性のかけらも見出すことはできない(上記の画像は昨年のカネロ戦発表会見でのビボルだが、時折笑みを浮かべる以外は終始穏やかだった)。
ビボルは極めて冷静だ。
2023年の最優先リストでトップにあるのは、IBF、WBC、WBOの同級王者アルツール・ベテルビエフとの4団体統一王座戦を実現することだ。しかし、それにはある障壁を乗り越えなくてはならない。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、WBCは2022年にロシア人ファイターを同団体ランクから外す決定を下したのだ。
ボクシングの世界は政治的であるが、ここでの構図はさらに複雑で、常識の入る余地は極めて少ない。ベテルビエフはロシア・ダゲスタンで生まれたが、カナダのパスポートを持っている。その理由で、WBCのランキング除外対象にはならず、王者としてベルトを保持している。
ベテルビエフがその強さを示したアンソニー・ヤード戦ハイライト(by TOP RANK)
その一方で、ビボルはキルギスで生まれ、米国カリフォルニア州に住んでいる。しかし、ビボルはロシア国籍で選手登録されているため、少なくともWBCのタイトルに挑戦するためには特別措置を申請しなくてはならない。
「もしWBCタイトルを賭けてベテルビエフと(4団体統一王座戦で)戦うチャンスがあれば、もちろん私のチームは許可を得るためにあらゆる努力を惜しまないよ。ライトヘビー級で最高のボクサーになることが私の目標だから。その大きな夢をまさに実現できるチャンスになる」と、ビボルはスポーティングニュースのインタビューで率直に語った。
インタビューではビボルはいつものように平静だった。同じ電話に出ていたビボルのマネージャーであるヴァディム・コルニロフ氏にとっては、WBCの方針が争点であることは明らかだった。
「それは(ロシア系の)ベテルビエフが自分のタイトルを防衛するために請願しなくてはいけないということですか?」とコルニロフ氏は筆者に尋ねた。
ベテルビエフはカナダに住み、同国のパスポートを所持していることを理由に免除されていることを筆者が説明すると、コルニロフ氏はすばやく反応した。
「なるほど。しかし、ほかのロシア人ファイターがどのパスポートを持っているかが問題にされることはありません。その書類を要求されることもありません。他国に住んで、他国のパスポートを持っているファイターは大勢います」
ビボル自身は、ロシアとウクライナ間で行われている戦争についての知識はあまりないと認めている。エリートレベルのアスリートであり、正統的な世界チャンピオンであり、そして家族思いの男性である。様々な意見はあるだろうが、このファイターが置かれた苦境には同情を禁じ得ない。
上記Tweet記事の翻訳版:ディミトリー・ビボルがカネロの再戦案を拒否:「もう一度ライトヘビー級で戦うのはごめんだ」|独占インタビュー Part.1
『プランB』の対戦候補はリオ五輪銅メダリストか
ボクシングに話題が戻り、筆者はカラム・スミス(英国)がベテルビエフに勝つチャンスがあると考えるかをビボルに尋ねた。スミスは元WBAおよび『The Ring』誌認定のスーパーミドル級王者であり、現在はWBC世界ライトヘビー級の指名挑戦者である。階級を上げてからも戦績は良い。
「もちろん、スミスにはチャンスがある。スミスはディフェンスに長けた良いボクサーだね。ベテルビエフと戦うなら、距離をとった戦法がいいだろうね。スミスの方がリーチは長いから。良いレフトフックも持っているし、アマチュアでの実績も十分だ。スミスはベテルビエフにとって最強の挑戦者のひとりですね」とビボルは真剣に語った。
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もうひとりの英国人ボクサーがビボルの視野に入っている。ジョシュア・ブアツィは、リオデジャネイロ五輪ライトヘビー級銅メダリストで、2017年にプロデビューしてからここまで無敗の戦績を誇るテクニシャンだ。
「もちろん、ブアツィとも戦いたいと思っているよ。本当は昨年の11月5日に対戦する予定だったからね。(当時の)プロモーターのエディー・ハーン氏とその方向で話し合っていたので。だけど、直前になって対戦相手がヒルベルト・ラミレスに変わってしまったんだ」とビボルは明かした。今も対戦には前向きだ。
「ブアツィは良いファイターだよ。若く、モチベーションに溢れ、背が高く、良い技術力も持っている。オリンピック銅メダリストだからね。ボクサーとして、ぜひ戦ってみたい相手だね。ブアツィの技術力に対して、私の技術力はどうなのかを試してみたい。将来的に私たちが対戦する可能性はあると思う。私はそれを望んでいるからね」
ビボル(21勝0敗、11 KO勝ち)は2021年5月のクレイグ・リチャーズ戦で英国デビューを果たした。その試合は12回3-0判定で勝利し、英国での戦いには自身も好印象を持っている。
ブアツィは5月6日に無名ボクサーであるパヴェル・ステピエンと対戦する。この試合で不覚をとるようなことがなければ、ビボルの対戦相手候補になることは間違いない。ビボルは敵地で試合を行うことについては問題ないと考えているようだ。
「もし大きな会場で試合ができるなら、拒否する理由はない。私はこれまでにもラスベガス、マンチェスター、そしてワシントンで戦ってきました。ロンドンだって問題ありませんよ」とビボルは微笑んだ。
原文:Dmitry Bivol addresses Russia WBC ruling preventing Artur Beterbiev clash, teases Joshua Buatsi fight
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部
※本記事は英語版を翻訳後、日本向けの情報を加えた編集記事となります。