2022年5月、大方の予想を覆し、カネロ・アルバレスに土をつけ、ボクシング界に衝撃を与えたディミトリー・ビボル。WBA世界ライトヘビー級王者として、何よりひとりのファイターとして評価されるキッカケにもなった。スポーティングニュースはそんなビボルに独占インタビューに成功した。そのパート1では、刺激的な次戦が期待されるなか、取り沙汰されるカネロとの再戦について語ってくれた。(パート2はこちら)
名門『The Ring』誌(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが伝える。
カネロのライトヘビー級再戦案を一蹴
たった1年であらゆる状況が一変することがある。
昨年4月、当時パウンド・フォー・パウンド最強と目されていた『カネロ』ことサウル・アルバレス(メキシコ)は、WBA世界ライトヘビー級の無敗王者ディミトリー・ビボル(ロシア)との対戦に向けたハードなトレーニングを終えようとしていた。下馬評ではメキシコの英雄カネロが圧倒的有利を伝えられていた。このスーパースターがさらに階級を上げて、より高額なファイトマネーを手にするための一歩に過ぎないと思われていたのだ。
しかし、2022年5月7日にラスベガスのT-モバイル・アリーナで行われた1戦は誰もが予想しなかった結末を迎えた。
ビボル(21勝0敗、11 KO勝ち)は単に体格で優るだけのチャンピオンではなかった。このロシア人スターは類まれな集中力と冷静さを兼ね備え、テクニックでカネロを完全に封じ込めるすべを知っていた。3人のジャッジ全員が115-113でビボルの勝利を支持したが、それでもこの僅差判定は馬鹿げている。試合は一方的にビボルが支配しており、もっと大差がついていたはずだったからだ。あの試合で3ラウンド以上をカネロが取ったとは到底思えない。
ボクシングファンの予想を覆したビボル vs. カネロ戦ハイライト(by DAZN)
シンコ・デ・マヨ(5月5日、メキシコの祝日)の週末は台無しになり、カネロの野望は頓挫した。しばらくたってから、ビボルがスーパーミドル級に階級を下げてカネロが持つ4団体統一王座に挑戦する形で両者が再戦するとの噂が流れた。それが実現すれば、前の試合の勝因が体格の違いだけではなかったことを証明することになる。際立った冷静さで知られるビボルだが、それでも自分はただカネロより大きいだけではなく、ファイターとして優れていることを確信している。
しかし、先週末、5月6日にジョン・ライダー戦を控えるカネロは、集まったメディアに向かって、ビボルとライトヘビー級での再戦を望んでいることを述べた。
「前と同じ階級でビボルと戦いたい。もし階級を下げたビボルに勝っても、皆はそれをビボルが体重を軽くしたせいだと言うだろう。私が階級を上げたときには誰もそんなことは言わなかったけどね。だけど、それは同じことだ」とカネロはその理由を説明した。
ビボルとの再戦の質問について「同じ階級で」と答えたカネロ(by FIGHTHYPE)
カネロが提案するライトヘビー級での再戦は、ビボル陣営にとっては歓迎するべきニュースではない。この32歳のテクニシャンは、カネロが持つスーパーミドル級の4つのベルトにしか興味がないのだ。無敗のチャンプは口先での交渉に飽き飽きしていることも明らかだ。
「カネロは昨年中ずっと私との再戦を望んでいると言っていました。だけど、実際のカネロはあれから(ゲンナジー・)ゴロフキンとの第3戦を戦ったかと思えば、今度は(ジョン・)ライダー戦じゃないか」と、ビボルはスポーティングニュースにそのワケを語った。
「階級のことを言えば、私の目標は4団体統一ベルトだよ。もちろん、カネロとはスーパーミドル級で戦いたい。何なら、私の(WBAライトヘビー級)ベルトを足しても構わないけどね。そうすれば私たちは5つのベルトを賭けて戦うこともできるはずだ」
Sミドル級での再戦を望むビボル、カネロの心変わりはあるのか
ビボルのマネージャーであるヴァディム・コルニロフ氏はオンラインでのインタビューに応え、この議論に加わった。
「ディミトリー(ビボル)はすでにライトヘビー級でカネロに勝っています。もう一度同じことをするためのモチベーションは金以外にあるでしょうか? それと、カネロがスーパーミドル級で戦いたくない本当の理由は何なのでしょう?」とコルニロフ氏は疑問を投げかけた。
カネロが、ビボルが自分に負けた場合、体重のせいだとファンやメディアに言われたくないなどと、上から目線で漏らしたという話を聞いたコルニロフ氏は、堰(せき)を切ったようにしゃべり始めた。
「それならば、ライトヘビー級でもう一度カネロを破ってみせましょう。そもそも、なぜカネロは人の目を気にするのでしょうか? ビボルとの再戦を避けてほかの相手と2試合を行うことで、すでに大勢の人を失望させているじゃないですか」
「それともうひとつあります。カネロはまだパウンド・フォー・パウンドのリストに入っています。ビボルに負けたあと、でもです。そのことを人々は不思議に思わないのでしょうか? パウンド・フォー・パウンドは人気や過去の実績で決まるものなのですか? カネロはビボルとスーパーミドル級で負けたらどうしようと、それを心配しているに違いありません。それが真実です。人にはリスクを負ってでも挑戦しなくてはいけないときがあります」
ここまでのキャリアでカネロは強敵相手との対戦を避けるようなことはしてこなかった。元パウンド・フォー・パウンドNo.1であり、4階級タイトル獲得者でもある。その名声は揺るがない。スーパーミドル級での再戦を受諾するだろうか。
ビボルはおそらくスーパーミドル級ではかつてとは反対の立場になるだろう。元々、昨年5月のラスベガスでは生贄にされる羊の役割を担いながらも、実力で赤毛の王からそのステータスを奪ったのだ。
今では立場は逆転した。
カネロは今ではビボル以上に再戦を必要としている。だが、ビボルはライトヘビー級での再戦には興味はないようだ。むしろビボルはアルツール・ベテルビエフとのライトヘビー級王座4団体統一戦の実現をカネロより優先させている。
「ベテルビエフと戦うことに比べると、カネロとの再戦への私の興味は小さくなる。私は(手にしていない)ベルトを賭けて戦いたいんだ。だから再戦はライトヘビー級ではやりたくない。カネロはまた体重を言い訳に使おうとしている。ならばこそ別の階級で戦おうじゃないか」とビボルは言った。
さあ、カネロはどうでるだろうか。
独占インタビュー・パート2では、無敗王者ビボルがアルツール・ベテルビエフ戦に立ち塞がる政治的な障害や、それに代わる対戦者候補と目されるジョシュア・ブアツィ戦の可能性について語っている。
■カネロとの再戦を蹴ったディミトリー・ビボルがベテルビエフとの4団体統一戦への政治的障壁について語る|独占インタビュー Part.2
原文:Dmitry Bivol rejects proposed weight for Canelo rematch: 'I want to fight for belts. I don’t want to fight him again at 175.'
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部
※本記事は英語版を翻訳後、日本向けの情報を加えた編集記事となります。