ウシクvsデュボアの疑惑のローブロー問題を元リング誌記者が徹底検証

2023-08-29
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Getty Images

現地時間8月26日に行われた世界ヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシクが指名挑戦者ダニエル・デュボアを9回TKOで下し、2度目の防衛に成功した。しかし、ウシクがダウンを喫した5ラウンドの出来事には、敗れたデュボア陣営からだけでなく、外野からも疑惑の目が向けられ、論争となっている。

ウシクがダウンしたとき何があったのか、名門誌『The Ring』(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが徹底解説する。

アリ vs. リストンの再来にはならなかったデュボアの一撃

パウンド・フォー・パウンドのスター、オレクサンドル・ウシクは、朝目覚めてなおも世界の統一ヘビー級チャンピオンであることに強運を感じるべきだろう。日本時間8月27日にポーランドのブロツワフ市立競技場で行われた、ダニエル・デュボアとのWBAスーパー・IBF・WBO世界ヘビー級タイトルマッチ。ウシクは5ラウンド目にデュボアのボディブローを受けてキャンバスに崩れ落ちたのだ。

誇張は一旦置いておいて、これはおそらく1965年5月25日以来のヘビー級チャンピオンシップの試合で最も疑惑のあるパンチだった。それはメイン州ルイストンで行われたモハメド・アリとソニー・リストンのリマッチの1ラウンド目で、アリが右腕でノックアウトした(のちに「ザ・ファントム・パンチ(幻のパンチ)」と名付けられた)ときだった。その夜、アリのリストンにヒットしたパンチを見逃し、リストンが(自ら)試合を終えたと感じた人々もアリーナ内にたくさんいて、当時は懐疑的に報じられた。

ウシクは試合を捨てたのか?

論争となっている問題を検証してみたい。基本ルールとして、ローブローは「(ショーツの)ベルトラインより下」の下腹部を攻撃した際に反則となる行為だ。このベルトラインが焦点となってくる。

まず、ウシクは、ショーツ(トランクス)を少し高めに履いていた。試合中、彼のへそは見えなかったほどだ。興味深いことに、試合が終了したあと、ウシク陣営が王者のショーツを引き下げた。次に、デュボアのパンチが当たった箇所はおそらくウシクの腹部の近く、ウエストに隣接する領域だった。最後に、レフェリーのルイス・パボンは(パンチのヒット箇所が判断できる)完璧な位置にいて、それをローブローと判断した。

さらに興味深いのは、パボン主審が挑戦者からポイントを差し引かないことを選んだことだ。この試合においてデュボアは序盤にローブローについてわずかな警告を受けてはいたものの、減点まではされていなかった。

ただし、この5ラウンドでの出来事が試合の遅延を引き起こし、パボン主審はためらうことなくローブローを宣言した。そして、そんな壊滅的な一撃が本当に反則ならば、1ポイントの減点は適切なはずだ。

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ボクシング解説者からの観点はと言えば、北アイルランド人初の元2階級世界王者カール・フラムプトンは、リプレイの際に「あれはローブローではなく、ボディショットだ」と、自身の意見を非常に明確に述べ、「ダニエル・デュボアは世界統一ヘビー級チャンピオンであるべきだ」とも断言した。

この放送はアメリカのスポーツ専門チャンネル『ESPN』によって配信され、殿堂入りファイターのティム(ティモシー)・ブラッドリーが解説陣に加わっていた。「(デュボアのパンチは)ベルトラインにちょうど当たっているように見える(ベルトライン以下への攻撃ではない)」と、米国人の元チャンピオンも追随した。

この試合中、ウシクはほとんどの時間を支配していた。8ラウンドが終了した時点で、足の速い左利きのボクサーは、2人のジャッジのカードで7ラウンドを制し、もう1人のジャッジのカードでは6ラウンドを制していた。チャンピオンの速さ、動き、フェイント、そして鋭いパンチは、試合のほとんどの時間でデュボアを困惑させた。これは予想通りの展開だったといえる。

そして、ウシクが9ラウンド目で仕留めるまでに、ロンドンを拠点とする挑戦者は滅多打ちにされていた。しかし、それでも仕上げのキルショットに至る前にウシクの身に起きたことは変わらない。

冒頭で述べた通り、5回にダウンしたウシクは試合を捨てたかのように、しばらくの間キャンバスに倒れていた。仮にレフェリーがカウントを始めた場合、彼は立ち上がることができただろうか。どうなっていたかは誰も知る由はないが、そのことが再戦が必要な論点を作り出している。

言うまでもなく、デュボアのプロモーターであるフランク・ウォーレンは試合終了時に憤慨し、パボン主審のローブロー判断を非難した。

個人的な意見ではあるが、デュボアは早急に再戦のチャンスを得るべきだと思う。もしウシクとタイソン・フューリーの待ち望まれたヘビー級頂上対決が実現するなら、勝者が次戦でデュボアとの対戦に合意することになれば面白い。

しかし、これは云うが易く行うは難しだ。IBFはおそらく無敗の指名挑戦者であるフィリップ・フルゴビッチをウシクに早急にあててくると予想できる。そのため、ウシク陣営との間で再戦条項を結んでいないというデュボアは、おそらく待つしかない状況になるだろう。

おそらくWBAは、デュボアと契約しているクイーンズベリー・プロモーションズから正式な抗議を受けるだろう。パナマに拠点を置く団体がどのような決定をするかは興味深いことだ。というのも、両選手はともにWBAヘビー級チャンピオンとしてリングに上がったからだ(ウシクは「スーパー」王者、デュボアは「レギュラー」王者)。だが、このようなおかしな状況では、このファイトの論争に関する賢明な意思決定はあまり期待できないだろう。

※当記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集:一野洋(スポーティングニュース日本版編集部)、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁