ダニエル・デュボアとは何者か:3団体王者ウシクに挑む若き英国人ヘビー級ボクサー

2023-08-24
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(Jason Miller/Getty Images)

前統一王者アンソニー・ジョシュアのスパーリング・パートナーでもあった若き英国人ヘビー級ボクサーの名が、ヘビー級トップ戦線にあがるようになった。その男の名はダニエル・デュボア。日本時間8月27日(日)、いよいよ現3団体統一王者オレクサンドル・ウシクと対戦する。

現WBC世界王者タイソン・フューリー、元同王者デオンテイ・ワイルダーを含めたトップ4が長らく君臨するヘビー級戦線に風穴をあけるかもしれないプロスペクトについて、本誌ベテラン記者のベン・ミラーが解説する。


25歳の英国人ヘビー級ボクサー、ダニエル・デュボアがいよいよスタジアムクラスの会場で大きなスポットライトを浴びる時間が近づいている。

デュボアは、かつて同じ英国人のアンソニー・ジョシュアのスパーリング・パートナーを務めた。アマチュアでヨーロッパ王者となり、2020年東京オリンピック(2021年開催)では英国代表チームの候補にも名を連ねていた。2017年のプロ転向後も順調にランキングを上げてきたが、まだその実力に相応しいビッグマネーを獲得してはいない。

現在4連勝中であり、それには2021年と2022年の間に行われた2つのタイトル戦も含まれている。そしてWBAスーパー・IBF・WBO世界ヘビー級統一王者であるオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)への指名挑戦権を手中にした。

そのウシクのプロモーターであるアレックス・クラシューク氏は、8月12日にポーランドでの興行権交渉が最終段階に入ったと述べた。WBA同級レギュラー王者であるデュボアがその相手として決まった。その舞台は、8月26日(日本時間27日)、タルチニスキ・アレーナことブロツワフ市立競技場だ。

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シンデレラボーイになるチャンスを迎えたデュボアの戦績、次戦の可能性、トレーナー、そしてこれまでに獲得したベルトなどを下記にまとめてみた。

『ダイナマイト』の異名を持つダニエル・デュボアの経歴

デュボアは、1997年9月26日、11人兄妹のひとりとして南ロンドンで生まれた。妹のキャロラインも元ユース・オリンピックのボクシング王者であり、現在はプロボクサーである。

デュボア自身はアマチュアで75戦し、ほぼ全勝の記録を残した。ジュニア王者も5度経験した。その頃にスパーリングした相手にはデレック・チゾラ、そして、ともにオリンピック・メダリストのジョー・ジョイスとフレイザー・クラークら英国の強豪たちがいる。なかでも最大のビッグスターといえばロンドン五輪金メダリストのアンソニー・ジョシュアだ。

「AJ(アンソニー・ジョシュア)とスパーリングをしたとき、僕はまだ18歳だったよ」と、デュボアはジョシュアの相手を務めた経験について語った。

「シェフィールド(英国の都市)でやったんだ。けっこう上手くいったときもあった。ジョシュアはオリンピック・チャンピオンだからね。僕はそれでかなり自信をつけることができた」

デュボアの直近の試合は、2022年12月にタイソン・フューリー(英国)がチゾラに勝利した試合の前座として行われた。ケビン・レレナ(南アフリカ)に勝利し、プロ通算戦績を20戦19勝とした。

レレナとの試合は激しいダウンの応酬があった。前評判が高かったデュボアだったが、前十字靭帯を75%断裂という大怪我を負い、それがもとで3回のダウンを喫した。

それでもこの試合も3回TKOで勝利した。デュボアがこれまでに上げた19勝のうち18勝がKOによるものだ。判定にもつれたのは、2018年にレスターで行われたケビン・ジョンソン(米国)との10ラウンドマッチのみである。

その凄まじいノックアウト・パワーから、デュボアには『ダイナマイト』の異名がついた。なにしろ2017年4月にマンチェスター・アリーナで行われたプロデビュー戦で、いきなり相手のマーカス・ケリー(英国)を僅か35秒でマットに這わせたのだ。それからも試合開始1分以内でKO勝ちを収めた「秒殺劇」が2試合ある。

トム・リトル(英国)を5回TKOで下して、BBBofC(英国ボクシング管理委員会)イングランド(English)ヘビー級タイトルを獲得したとき、デュボアはまだティーンエイジャーだった。その13か月後には、ネイサン・ゴーマン(英国)をやはり5回TKOで下して、今度はBBBofC英国(British)ヘビー級タイトルを獲得した。

同国人相手の試合が多いデュボアだが、英国以外でも2度試合をしたことがある。2度目となった2022年の米国マイアミ遠征でトレバー・ブライアン(米国)を4回KOで撃破。WBA世界ヘビー級レギュラータイトルを獲得した。ブライアンはそれまで22戦全勝だった。

「唯一の汚点」デュボア vs. ジョイス戦で何が起きたのか

デュボアの戦績で唯一の汚点は、2020年11月28日のジョー・ジョイス戦である。試合前はデュボアの方が前評判は高かった。

この試合はロンドンのチャーチハウスで行われたが、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響から会場はほぼ空っぽだった。デュボアはリオ五輪銀メダリストの巧みなジャブに翻弄され、2ラウンド目からは左目が腫れあがった。

10ラウンド目に入ると、デュボアの目は見えなくなり、膝をついたところでノックアウト負けを宣告された。

試合後にデュボアは左目の眼窩底骨折が判明し、それから6か月以上リングから遠ざかることになった。さらにはデュボアの耐久力とパワーを疑問視する声も上がるようになり、この試合がまさしく「汚点」となってしまった。

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この敗戦の余波により、彼のボクシング人生が終わったのではないかと心配された。

プロモーターのフランク・ウォーレンは、ボクサーの医療コンサルタントで眼科外科医のヴィッキー・リー女史から、「骨折した時点で試合が中断されたのは幸いだった。そうでなければ、さらなる外傷の危険性があり、眼球を動かす眼窩組織や眼外筋が骨折片に巻き込まれ、キャリアを棒に振るような複視(物が二重に見えること)を引き起こす可能性があった」と忠告されたという。

デュボアは網膜出血を起こしていたが、手術の必要はなく、長い休養のあと、キャリアの再起に動き出した。

再起をはたしたダニエル・デュボアの次戦

その後、デュボアはボグダン・ディヌ(ルーマニア)を2回KO、そしてジョー・クスマノ(米国)を1回TKOと2連勝し、見事再起をはたした。

さらに前述通り、ブライアンとレレナにも勝利したことでWBAの指名挑戦者になり、8月26日、WBAスーパー王座を持つ統一王者オレクサンドル・ウシクとの試合が決まった。

いよいよヘビー級の頂点に立つひとりと戦う機会を得たデュボアだが、レレナ戦でも負傷したことから、ウシク戦がすぐに行われるかについては懸念があった。しかし、デュボア陣営はこの挑戦のチャンスを喜んで受け入れ、実現にこぎつけた。

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幻となったデュボア vs. ワイルダー

デュボアがジョイスに敗れる前、タイソン・フューリーのプロモーターとしても知られるフランク・ウォーレン氏は、デュボアを「地球上で最高のヘビー級有望株ボクサー」と呼び、その実力はデオンテイ・ワイルダー(米国)より「はるかに強すぎる」と表現した。

「ワイルダーは長い間チャンピオンだったけど、もうその時代は終わった。もしワイルダーとチャンスがあれば、ぜひ戦ってみたい。僕の方が使える武器が多い。きっと勝てると思っている」とデュボア自身が語ったことがある。ワイルダーがフューリーから最初のノックアウト負けを喫したときだ。

(Stephanie Trapp/TGB Promotions)

ワイルダーは、現王者のタイソン・フューリーから度重なる敗北を喫する以前、WBC世界タイトルを5年間以上保持した。そして2022年10月に1年以上振りにリング復帰し、ロバート・ヘレニウス(フィンランド)から1回KO勝ちを収めた。

ワイルダーのランキングはWBAとWBCで1位、IBFで3位、WBOでは4位だが、『赤銅の爆撃機(Bronze Bomber)』と呼ばれる知名度は抜群だ。もしデュボアがウシクへの指名挑戦権を行使しなければ、ワイルダーが名乗りを上げたかもしれない。ワイルダーにとっては、(無冠だとしても)人気者のアンソニー・ジョシュアと対戦する方が経済的にはメリットが大きいわけだが。

デュボアのトレーナーは誰か

デュボアはレノックス・ルイスとマイク・タイソンに憧れており、彼らのように幾度もトレーナーを変えてきた。最初のコーチは英国式伝統的ボクシングを指導するマーチン・バウアー氏であり、父親であるグレナダ生まれのデビッド・デュボア氏からも常に重要な影響を受けてきたと言われている。

デュボアがシェーン・マクギガン氏の元から離れたあと、チゾラのトレーナーであるドン・チャールズ氏が現在トレーナーを務めている。『Punch Gym』のオーナーであるチャールズ氏は、ウシク戦へ向けて準備を進めてきたが、この2人のスタイルはあまり噛み合わないと見ているようだ。

「ウシクの動きは素晴らしいし、テクニックは達人の域にある。彼と戦うことには大変な困難が伴う。自信という点では、まさにキャリアの全盛期にいるからね」とチャールズ氏は評した。それでもデュボアの勝機はゼロではないと信じる。

「ダニエル(デュボア)は、ウシクにとって都合の良い相手ではない。経験は足りないが、我々にもチャンスがあると信じている。たとえそれがどんなに小さくても、だ。我々はそれを掴みに行くだけだ」

デュボアがこれまでに獲得したタイトル

先に述べたように、デュボアはイングランドと英国のBBBofCタイトルを獲得した。また、2019年にはエベネゼール・テッター(ガーナ)を1回KOで下し、英国連邦(Commonwealth)王座とWBOインターナショナル王座も獲得した。同年12月には、元K-1ヘビー級王者でWBOアジア太平洋王者の藤本京太郎に勝ち、WBCシルバー王座も手中にした。

デュボアはジョイスに敗れたことでそれらすべてのタイトルを失った。空位だったヨーロッパ王座も獲得できなかった。

しかし、2021年6月にディヌに勝利したことでWBA暫定王座のタイトルを手に入れ、その1年後にはトレバーからWBAレギュラー王座を奪取した。さらに2022年末、レレナ戦に勝って初防衛をはたしている。

原文:Who is Daniel Dubois? Record, titles, next fight, trainer as British heavyweight secures Oleksandr Usyk shot
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁

*本記事は英語記事を翻訳し、日本向けの情報を加えた編集記事となる。