WBC/WBO世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥が、2階級目となる4団体王座統一を果たすべく、WBA/IBF王者のマーロン・タパレスと対する注目の一戦が、12月26日(火)、東京・有明アリーナで行われる。
下馬評では圧倒的優位とされる井上尚弥だが、確実に勝ち星を得るためにはなにが必要か。その勝利への道筋を、『The Ring』や『Boxing Scene』など専門メディアでの執筆経験を持つ専門家でもある本誌シニア記者アンドレアス・ヘイルが分析する。
圧倒的優位! 井上尚弥はいかにしてタパレスを仕留める?
井上尚弥(25勝0敗、22KO)は、今年7月、スティーブン・フルトン相手に圧倒的な試合で勝利、スーパーバンタム級転向初戦でいきなり2つのベルトを手に入れた。高い評価を集めるこの日本人ボクサーは、世界最高のパウンド・フォー・パウンド・ファイターの2傑の中のひとりと目されており、今回のタイトルマッチに勝利すれば、その一角であるテレンス・クロフォードに次いで、4団体時代になってから男子ボクサーでは史上二人目となる2階級でのアンディスピューテッド・チャンピオン(4団体統一王者)となる。
一方のマーロン・タパレス(37勝3敗、19KO)は、4月にムロジョン・アフマダリエフをスプリット・デシジョンの末に破るという番狂わせでWBAスーパー/IBFのチャンピオンになった。これによって、タパレスにも4団体統一王者になる思いがけぬチャンスが舞い込んできた。だが、そのためには世界でもトップクラスのボクサーを倒すという難題をクリアしなくてはならない。
ブックメーカー(ベッティングサイト)各社のオッズはいずれも『モンスター』勝利を強力に支持しているが、果たして実際にどんな試合となるのか。ここでは、井上尚弥がマーロン・タパレスを破り、スーパーバンタム級のアンディスピューテッド王者になるための勝ち筋を分析する。
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大橋会長も警戒…タパレスの活動量を抑え込め
この試合、井上が圧倒的優勢と見られているが、かと言って、井上が注意を払う必要がないわけではない。攻撃面ではあらゆる点で井上にかなりの分があるが、タパレスが油断できない相手であることは間違いない。
まず最初に、これまで対戦相手のパンチを弱める役割を果たしてきた、井上のボディワーク。今回もこれを最重要視することが大切だ。タパレスが勝つには多くのパンチを放つ必要がある一方、逆にその結果タパレスを疲れさせ、少しでもスローダウンさせられれば井上にとってのアドバンテージとなる。
実際、井上の所属ジムの大橋秀行会長が「タパレスは回転力や(パンチの)タイミングが、パッキャオの良い時に似ている」と警戒していることからも、タパレスの動きを鈍らせることが井上陣営の狙いのひとつになる可能性が高い。
また、井上は生まれ持ってのテクニックを兼ね備えた素晴らしいカウンターパンチャーでもある。落ち着いてタパレスの隙をうかがっていけば、タパレスは井上のチャンスとなるようなミスをいくつも犯すだろう。また、タパレスにはパワーを込めたパンチを繰り出す際に体が突っ込むという酷い癖がある。飛び込んできたタパレスにカウンターを当てて、ダメージを与えることも井上なら容易にできるだろう。
ただ、今回はタパレスも不用意に飛び込めば大惨事になることを理解して、これまで以上に警戒して臨んでくるかもしれない。
(スタミナ次第ではあるが)タパレスの手数が多くなればなるほど、番狂わせの可能性も高まる。井上はこの点に注意して、ラウンド終盤の攻勢でタパレスにポイントを奪われるようなことは避けたい。井上が完璧なパンチを狙いすぎてじっくり構え、タパレスにリードを許すような展開にしなければ、ラウンドを失うこともないだろうし、終始試合をコントールできるだろう。
タパレスには職人級の優れたディフェンスもフットワークスキルもない。こうしたいわゆる猪突猛進のファイタータイプは、井上からみればプレッシャーもかけやすく、追い詰めやすい相手のはずだ。後ろ足に体重の乗らない状態にタパレスを追い込めば、強打を繰り出すチャンスも制限できる。
非常にシンプルだが、(アフマダリエフの二の舞いにならぬように)油断せずに、自分らしいボクシングをすること。井上にとって大事なのはこれだけだ。すべての面において井上の方が優れており、タパレスを軽視さえしなければ、その驚異的なキャリアにまた新たな勲章が加えられることは間違いないだろう。
※本記事は国際版記事(著者: Andreas Hale)を翻訳し、日本向け情報を追記・編集した記事となる。翻訳・編集:石山修二、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁