誇り高き『アンダードッグ』ポール・バトラーは、井上尚弥から奇跡の勝利を奪えるのか…ドネアが井上の弱点指摘

2022-12-08
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Charlotte Tattersall/ Getty Images

プロボクシング・バンタム級史上初となる世界主要4団体の統一王座戦が、12月13日(火)に迫ってきている。WBAスーパー・WBC・IBF王者で、世界的に『モンスター』の異名で恐れられる井上尚弥と対峙するWBO王者ポール・バトラーは、圧倒的不利の下馬評のなか、敵地・東京に乗り込んできた。

「負け犬=アンダードッグ」を自認するバトラーだが、この英国人ファイターは、奇跡のアップセットを実現するゲームプランを持っているようだ。独占取材を行ったスポーティングニュース英国記者トム・グレイ(Tom Gray)が伝える。

 

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怪物にも隙きがある…アンダードッグが描くゲームプラン

イングランド・チェスター出身のポール・バトラーは、36戦中34勝。イギリスと英連邦のタイトルを獲得後、IBF世界バンタム級王者に輝き、現在はWBO王座に君臨している。この34歳のイギリス人ファイターは、115ポンド(スーパーフライ級)と118ポンド(バンタム級)のエリート選手と戦ってきており、そのスキルは決して否定できないレベルにある。

だが、12月13日火曜日、東京の有明アリーナで行われるWBAスーパー・WBC・IBF世界バンタム級統一王者、井上尚弥との対戦について、バトラーの勝算を(超優位の井上が1倍)38倍とするブックメーカーも登場している。それ以外のブックメーカーも概ね井上の圧倒的有利、バトラーの圧倒的不利をつけた。

ボクシングは(ある者にとっては)フラストレーションの溜まるビジネスである。人々はこう言う。「無敗で高く評価されているパウンド・フォー・パウンドのスーパースターと戦わなければ、あなたは(ファイターとして)逃げたことになる」。あるいはその逆とて、「あなたがこの試合を受けるということは、あなたが頭がおかしくなったか、(はなから負け試合でも)大金を求めてのことではないか」と。世間の声は辛辣だ。

バトラー当人は、世間からそう言われていることを知っているが、動じることはない。 彼はバンタム級で初の『4団体統一王者』を決める厳しい戦いを受け入れるだけでなく、それを実現するために敵の領土に乗り込んだ。

バトラーは東京のホテルからスポーティングニュースの独占オンライン取材に応じた。故郷から遠く離れた場所から、英国人は「海外でのボクシングは嫌いじゃない。自分が『負け犬(アンダードッグ)』であることは分かっているし、観客のひとりひとりが井上を応援していることも分かっている。でも、変な話だけど、僕はその状況が好きだし、それを楽しみにしてるんだ。あえてライオンの巣窟に乗り込んで行って戦うことは嫌いじゃないんだ」と語った。

「戦うことになる前から井上の動向は追っていた。彼の試合はほとんど日本で行われ、ファンは敬意を払ってくれているだろう。英国人のファンは熱狂的で、試合の雰囲気を盛り上げてくれるけど、日本のファンはみんな座っていて、彼のファイトに拍手を送っている。彼らの拍手を止め、沈黙を生むが僕の仕事だ」

しかし、それは口で言うほど簡単なことではないだろう。井上(23勝0敗20KO)は3階級制覇の世界チャンピオンで、現在、ボクシング名門誌『The Ring』制定のパウンド・フォー・パウンド・ランキングでは第2位につけている。29歳のノックアウト・アーティストは、スピード、パワー、テクニックがほぼ完璧にブレンドされており、この階級やそれに近い階級の選手にとっては驚異の存在であり続け、しかもさらに進化している可能性がある。まさに無敵の『モンスター』だ。

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バトラーは、この3団体統一王者の実力を認めながらも、畏敬の念を抱くことはないようだ。

「彼(井上)はファンとして見てきた選手だが、実際に対戦相手として見てみると、とてもいい選手だと思う」とバトラーは素直に認めた。さらに「彼はパウンド・フォー・パウンドのトップクラスにいる」と指摘し、現代ボクシング界の頂きに到達する数少ないファイターのひとりであることも認識している。

「でも、彼にもミスはある。1ラウンドや2ラウンドよりも長かった試合を見てみるといい。ドネアとの最初の試合(2019年11月)を見れば分かる。この試合が井上に勝つための青写真だとは言わないが、あの試合には多くの隙きがある。勇気をもって、大きな声で、自分に自信を持って臨むことだ。普通に臨めば10人中9人は、戦う前に負けていることになる。彼のパワーを心配しすぎて、自分自身を疑ってしまうんだ。井上と対戦し、彼よりも前に自分自身のゲームプランを成功させるためには、とにかく自分を信じることが必要なんだ」

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2度対戦のドネアが井上の弱点を指摘

バトラーに取材を行う数時間前、元世界4階級制覇王者で、ボクシング界の伝説的存在であるノニト・ドネア(フィリピン)に話を聞いていた。井上と計2度戦ったなか、2019年11月の最初の対戦で井上を限界まで追い詰めた『フィリピンの閃光』は、日本のメガスターの『打ち込み癖』が、ときに不利に働くと考えている。

「スピーディなファイターであるにもかかわらず、井上は足を入れて(止めて)打ち込み続ける癖を持っていて、彼がパンチを放つとき、彼はコンビネーションが終わるまでその位置に固執する」と、ドネアは指摘している。「結局のところ、彼のパンチとパンチの間にタイムラグがあり、それがバトラーに回避の隙きを与え、あるいは動き回りながらコンビネーションを放つことも可能になるはずだ」

このドネアの分析を聞いたバトラーは、その指摘に同意した。

「彼の言うことは的確だね。(井上は)決してジャブで仕掛けようとはしない。足を踏み入れて、ドカン、ドカン(とパンチを打ち)…そのすべてが大きいアクションだ。そして、勘違いしてはいけない点がある。彼はボディにも打ち込んでくるということだ。彼はいつもこちらの頭を狙ってくるわけではないので、常に彼がどこを狙ってくるかを考えなければならない。こちらは足を動かしてオフセットさせる(距離を離す)ことが重要で、それ自体はこれまで多くの選手がやってきたことだろう。効果的に実践するには、ゲームプランをしっかり立てて、自分を信じることだ」

「人々は僕にこう言うんだ。『なぜ、この試合を受けたんだ? 王者が2人いたままでも問題はなかっただろうに』ってね。(それでも僕は)この階級の巨人を倒したい。彼はほかのベルトをすべて持っているからね。そして僕はWBOタイトルを保持している。このスポーツの問題点は、みんなが自身の(王者としての)立場を危うくすることを避けがちなことだろう。ボクシング界の政治的な事情で『比類なき(4団体統一)王者』は多く誕生していないけれど、(僕のように覚悟を決めれば)そのチャンスはいくらでもあるはずさ」

『アンダードッグ』を自認するポール・バトラーが、奇跡の勝利を描くゲームプランを胸に、異国情緒あふれる東京で『モンスター』狩りに挑む。


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