2025年現在、井上尚弥がボクシングの世界スーパーバンタム級王座4団体統一王者として君臨するが、その「4団体」であるWBA、WBC、IBF、WBOとはなんなのか。この記事では、その4つの主要団体の設立の経緯や違いを解説する。
WBA・WBC・IBF・WBOの各団体について
WBAやWBCなどの「団体」は「王座認定管理組織」であり、各団体は独自のランキングを設定し、それにならって各タイトル戦やランキングマッチを認可する。試合に関わる直接的な管轄は、北米では試合開催地のアスレチック・コミッションが管理するが、国によっては異なる。
団体はいつまでに防衛戦を行なうなどのルールをチャンピオンに課すほか、場合によっては挑戦者を指名し、強制的にタイトル戦を命じることもある(指名王座戦)。選手は団体に所属するわけではないが、ドーピングなど不祥事を起こした場合は、団体がしかるべき処置をくだすことになる。ベルトに絡まずともランキングから排除という形もある。
団体へのタイトルマッチ申請(認定料の支払い)や対戦相手とのファイトマネーの(分配)交渉、テレビ局や動画配信サービスへの放映権販売などは、選手が契約するプロモーター(トップランク社やマッチルーム社など)が担当する。練習面は契約するジムやトレーナーが担う。日本では所属ジムがプロモーターを兼ねるケースもあるが、王座認定管理はあくまでJBC(日本ボクシング連盟)が行なっている。そのため、世界主要団体のタイトル戦でも、JBCが認可(加盟)した団体以外は認められず、WBOは長らく未認可状態にあった。
現在、ボクシング界には世界各地ごとに多数の王座認定団体があるが、そのなかでも最も権威があるのは、WBA・WBC・IBF・WBOの4団体だ。最も歴史が古い団体がWBA(世界ボクシング協会)であり、前身の団体は1921年設立された。1963年にWBC(世界ボクシング評議会)、1983年にIBF(国際ボクシング連盟)、1988年にWBO(世界ボクシング機構)が設立されている。
WBAを含む世界の各地域のボクシング統括団体との横のつながりを取り持つ組織(評議会)としてWBCが設立されたが、WBAが組織として肥大化する一方、WBCも独自の団体としてランキングを持つようになり、さらにWBAから分裂するような形でIBFやWBOが発足されていった。
IBFとWBOは、WBAやWBCのしがらみから外れて自由にタイトル戦を組み、大金を生み出したいプロモーター主導で誕生した経緯もあり、以降、さらなるマイナー世界団体も生まれた。結果として、世界タイトル乱立の呼び水にもなった。
WBA・WBC・WBO・IBFの各団体の違いとは?
■WBA(World Boxing Association:世界ボクシング協会)
WBAは、1921年に米国で設立されたNBA(ナショナル・ボクシング協会)が母体となった団体だが、現在はパナマを本拠地におく。日本人ファイターも多くチャンピオンになっており、輪島功一や具志堅用高、竹原慎二、亀田興毅、亀田大毅らが知られる。近年では井上尚弥がバンタム/スーパーバンタム級、寺地拳四朗がライトフライ級、井上拓真、堤聖也がバンタム級の王者に就いた。また正規王者として優れた戦績を残したファイターは「スーパー王者」として認定される制度もあり、村田諒太、井上、寺地が認められた。
チャンピオンベルトの色は黒。1ラウンドで3度のダウンがあった場合にKOが成立する「スリーノックダウン制」を採用している。
■WBC(World Boxing Council:世界ボクシング評議会)
WBCは、WBA内の機構として1963年に設立。その後、1966年に完全分裂する。初代会長ルイス・ボスタがメキシコ人だったこともあり、本拠地は同国メキシコシティに座し、現会長もメキシコ人のマウリシオ・スライマンが務める。加盟国は、主要4団体で最多の160か国を超えており、その意味ではWBAよりも権威が高いとされる。日本人では、ガッツ石松や辰吉丈一郎、内藤大助、山中慎介らが世界王者になっている。近年では井上尚弥がバンタム/スーパーバンタム級、中谷潤人がバンタム級、寺地拳四朗がライトフライ/フライ級王者となった。
チャンピオンベルトの色は緑。続行不能と判断されない限り試合が継続される「フリーノックダウン制」を採用している。4団体では唯一試合中のスコア公開(4回と8回後)があるが、公開しないケースも増えている。
■IBF(International Boxing Federation:国際ボクシング連盟)
IBFは、1983年に設立された団体。当時、中南米主体となっていたWBA、WBCの政治的権力図を変えたかった北米の一派が発足させた経緯がある。日本(JBC)はタイトル乱立を望まない意向と、「1国1コミッション」の規定を遵守し、長らく加盟していなかったが、2009年から段階的に同団体タイトルマッチを認め、2013年に正式加盟した。近年の日本人では、井上尚弥がバンタム/スーパーバンタム級、西田凌佑がバンタム級のベルトを獲得した。過去には亀田大毅や田口良一、尾川堅一らが世界ベルトを巻いた。
チャンピオンベルトの色は赤。ルールは「フリーノックダウン制」を採用している。
■WBO(World Boxing Organization:世界ボクシング機構)
WBOは、1988年に設立された、主要団体のなかでは最も新しい団体だ。WBA会長選挙の結果に不服だったカリブ諸国と米国のプロモーター勢力が発足させた。IBF同様、日本では未公認団体の扱いが続いたが、2013年に正式加入となった。近年の日本人では、武居由樹がバンタム級を保持し、4階級制覇王者の井岡一翔、田中恒成がスーパーフライ級王座を経験した。過去には亀田家の三男・和毅や井上尚弥、中谷潤人らが王者になったことがある。
チャンピオンベルトの色は赤茶。ルールは「フリーノックダウン制」を採用している。
かつては団体ごとに組織幹部の面々によるローカル性が強く影響し、タイトル戦開催地や挑戦者選出に特定の国や地域で偏ることがあったが、近年では複数団体のランキングに名を連ねる選手も多く、4団体に大きな差はなくなってきている。
複数団体タイトルによる統一戦
ボクシングでは「統一戦」という文字を見ることも多いが、これは文字通り、複数の団体のベルトを同時に懸けて争うタイトルマッチだ。日本ボクシング界においては、2022年12月13日の井上尚弥 vs. ポール・バトラー戦では、井上のWBAスーパー・WBC・IBFと、バトラーのWBOの4つのバンタム級タイトルが争われ、井上が見事バンタム級史上初となる「4団体統一」を果たした。
主要4団体王座を統一すると、海外では「Undisupted Champion」(アンディスピューテッドチャンピオン=絶対王者、議論の余地のない王者、比類なき王者)という肩書で呼ばれることになる。
4団体統一戦は近代ボクシングにおいて最も重要視されるトピックだが、スムーズに実現するケースもあれば、なかなか実現しないケースもある。2024年5月時点でバンタム級の世界王座すべてを4人の日本人が獲得したが、2本のベルトの統一戦すらなかなか実現していない。