WBCとWBOのジュニアウェルター(スーパーライト)級王者のホセ・ラミレスとIBFと WBA(スーパー)の同級王者であるジョシュ・テイラーが5月22日(日本時間23日)にラスベガスで激突し、どちらがジュニア・ウェルター級の”絶対王者”であるかを決める試合を行った(結果は後述)。勝者は4大ベルト時代に入ってから5人目の”絶対王者”の称号を得る。同級では2017年にテレンス・クロフォードが達成して以来2人目の快挙だ。
一般のファンにとって、ボクシングの世界で誰が世界チャンピオンなのかを見分けるのは困難になってきている。1つの階級に複数のチャンピオンベルトが存在しているし、よくニュースで見聞きする「絶対王者」(“undisputed” champion)と「統一王者」(“unified” champion)の違いがどこにあるのかが非常に分かりにくいからだ。
1960年以前、ボクシングのチャンピオンはそのほとんどが「絶対王者」だった。なぜなら、その頃は1階級には1人のチャンピオンしか存在しなかったからである。しかしボクシングの人気が高まるにつれて、ボクシングの組織も数を増やし、それぞれの組織が独自にチャンピオンを認定するようになった。さらにファイターたちは階級を上げたり下げたりするようにもなった。かくして、誰が「真の」世界チャンピオンなのかという議論が多く起こることになり、そこには政治的なものも含めて様々な要素が入り組むことにも繋がった。2004年まではWBA, WBC, IBF がボクシング界における3大メジャー組織だと考えられていた。
2004年にはWBCが新たにWBOをランキング認定組織として加えた。
これによりボクシング界は4大ベルト時代を迎えることとなった。
2004年以来、4大メジャー組織が認定する同一階級タイトルすべてを獲得した男性ファイターは4人いる。(英語記事公開時点)
- オレクサンドル・ウシク(クルーザー級)
- バーナード・ホプキンス(ミドル級)
- ジャーメイン・テイラー(ミドル級)
- テレンス・クロフォード(ジュニアウェルター/スーパーライト級)
だが、メジャー組織の同一階級タイトルを2つ以上獲得したことがあるファイターとなると、これは数多くいる。
ラミレスとテイラーはともに2つのベルトを所有する「統一王者」である。2人が対戦し、その勝者が唯一のチャンピオンとなる。そしてその勝者こそが世界ジュニアウェルター級の「絶対王者」として認識されることになるのだ。
統一王者とは何か?
統一王者とは以下のメジャー組織が認定するタイトルを同一階級で複数所有するボクサーのことを指す。
- IBF(国際ボクシング連盟)
- WBA(世界ボクシング協会)
- WBC(世界ボクシング評議会)
- WBO(世界ボクシング機構)
誰がボクシング統一王者なのか?
現時点(英語記事公開時点)での統一王者:
- ヘビー級: アンソニー・ジョシュア — IBF, WBA (スーパー), WBO
- ライトヘビー級: アルツール・ベテルビエフ — IBF, WBC
- スーパーミドル級: サウル・アルバレス — WBA (スーパー), WBC, WBO
- ジュニアミドル/スーパーウェルター級: ジャーメル・チャーロ — IBF, WBA (スーパー), WBC
- ウェルター級: エロール・スペンス・ジュニア — IBF, WBC
- ジュニアウェルター/スーパーライト級: ホセ・ラミレス — WBC, WBO
- ジュニアウェルター/スーパーライト級: ジョシュ・テイラー — IBF, WBA (スーパー)
- ライト級: テオフィモ・ロペス — IBF, WBA (スーパー), WBO
- スーパーバンタム級: ムロジョン・アフマダリエフ — IFB, WBA (スーパー)
- バンタム級: 井上尚弥 — IBF, WBA (スーパー)
絶対王者(Undisputed Champion)とは何か?
絶対王者とは4大メジャー組織(IBF, WBA, WBC, WBO)の同一階級チャンピオンベルトをすべて所有するボクサーのことを指す*。
*編注: 記事でいう「絶対王者(Undisputed Champion)」は、各ボクシング団体が明確に規定・定義するものではなく、欧米のメディアで認識される呼称。日本のメディアでは上記条件に限らず、単に防衛回数が多い、試合内容が圧倒的など、「誰もが認める(であろう)王者」を「絶対王者」と表現することがある。4団体統一王者は、単に「4団体統一王者」と表現されるケースが多い。
4大ベルト時代になって以来、わずかに8人のファイターがこの称号を得た。4人の男性と4人の女性である。(英語記事公開時点)
男性ボクシングの絶対王者
- オレクサンドル・ウシク(クルーザー級)
- バーナード・ホプキンス(ミドル級)
- ジャーメイン・テイラー(ミドル級)
- テレンス・クロフォード(ジュニアウェルター/スーパーライト級)
女性ボクシングの絶対王者
- クラレッサ・シールズ(ミドル級)
- セシリア・ブレークフス(ウェルター級)
- ジェシカ・マッキャスキル(ウェルター級)
- ケイティー・テイラー(ライト級)
2021年には新たに3人の絶対王者が生まれる可能性がある。前述したテイラー対ラミレス戦のジュニアウェルター級タイトルが1つ。次に、WBC、WBO、WBA (スーパー)のチャンピオンであるサウル・アルバレスがIBFのタイトル保持者であるカレブ・プラントとの対戦を秋に見据えるスーパー・ミドル級初の絶対王者、そして今年の後半に対戦実現が噂されているWBC王者のタイソン・フューリーとWBA (スーパー)、 IBF、そしてWBOの王者であるアンソニー・ジョシュアが争うヘビー級の絶対王者である。
*訳者後記: テイラー対ラミレスの1戦はテイラーが12回判定3-0でラミレスを下し、ジュニアウェルター級絶対王者の称号を獲得した。
(翻訳:角谷剛)